セイノーら、医薬品の運搬にドローン活用--新潟県阿賀町で、高速道路の横断は日本初

 新潟県阿賀町と、セイノーHD、エアロネクスト、ACSL、KDDIは3月16日、ドローンによる医薬品配送の実証実験を行なった。阿賀町の中心部にあるかりん薬局から、鹿瀬診療所と川上診療所へ、2地域2ルート飛行した。

 川上へのルートでは、日本初となる高速道路(磐越自動車道)の横断をした。鹿瀬へのルートでは、JRの横断が叶わなかったため、迂回してトンネル上空を横断した。

 本実証には、ポイントが3つある。1つめは、薬局や診療所の通常業務フローに組み込まれる形で、実証が行われたという点だ。まずは診療所に訪れた患者を診察し、処方箋を発行して薬局へファクスで送り、薬剤師が調剤と患者へのオンライン服薬指導を行なった後、医薬品(ダミー)をドローンに乗せて配送するという流れで、実装にあたっての課題の抽出が行われた。

 2つめは、セイノーとエアロネクストが中心となり、全国各地で展開が進んでいる新スマート物流「Skyhub(スカイハブ)」の仕組みの中に、オンライン服薬指導と医薬品のドローン配送が、初めて組み込まれたという点だ。同様の課題を抱える地域への展開が期待される。

 3つめは、KDDIが2月15日に新会社設立と同時に提供開始した「スマートドローンツールズ」が、初めて導入された“第1号事例”となったこと。スマートドローンツールズとは、「上空でのモバイル通信」「ドローンの運航管理」「クラウド利用」の3つがパッケージとなったサービス。本実証では、基本プランが導入された。

左から、セイノーHD執行役員の河合秀治氏、エアロネクスト代表取締役CEOの田路圭輔氏、阿賀町町長の神田一秋氏、KDDI事業創造本部ビジネス開発部ドローン事業推進Gリーダーで4月1日よりKDDIスマートドローン代表取締役社長に就任予定の博野雅文氏、ACSL代表取締役兼COOの鷲谷聡之氏
左から、セイノーHD執行役員の河合秀治氏、エアロネクスト代表取締役CEOの田路圭輔氏、阿賀町町長の神田一秋氏、KDDI事業創造本部ビジネス開発部ドローン事業推進Gリーダーで4月1日よりKDDIスマートドローン代表取締役社長に就任予定の博野雅文氏、ACSL代表取締役兼COOの鷲谷聡之氏

全世帯の約25%が「65歳以上の一人暮らし」

 新潟県の阿賀町は、県面積の7.6%を占める広さを誇る。山間部も含めて119もの集落が点在しており、約1万人の人口は少子高齢化が進む。町の中心から離れた地域に住む人々の中には免許を返納する高齢者も多い一方、医療へのアクセスが容易ではないのが実情だ。

 町内3カ所に開設された診療所までの選択肢は、週2〜3回の福祉バスを利用して訪れるか、近所の集会所で医師が訪問診療を行う際に受診するかに限られる。このため診察だけでも一苦労だが、処方薬の受け取りとなるとさらに負担が大きいという。

 診療所のうち2カ所は薬局が併設されていないため、約5km以上離れた町の中心部の薬局へ、タクシーなどで移動する必要があるのだ。また、訪問診療で医師などが持ってきていない薬が処方された場合には、20km以上離れた薬局まで受け取りに行かなければならない。

鹿瀬診療所の付近は、残雪が山積みだった
鹿瀬診療所の付近は、残雪が山積みだった

 阿賀町で町長を務める神田一秋氏は、「診療所へ来ることすら大変な方が多く、“出向いて医療提供”を町の考え方の中心にしてきたので、薬の授受についても、以前からなんとかしたいと強い思いを持っていた」という。というのも、阿賀町は特別豪雪地域に該当するうえに、「65歳以上の一人暮らし」の比率が、全世帯の25%に達しそうな勢いだからだ。薬を届けるラストワンマイルの改善が急がれる。

 このため、ドローンの規制や、いまコロナ禍で一時的に許されているオンライン服薬指導、医薬品配送の規制などが近い将来には緩和されることを見越して、本実証に踏み切った。神田町長は、「いまできることから取り組んでおきたい。そして、できるだけ早期に実装したい」と意気込みと語った。

通常業務フローでのドローン配送実証

 本実証は、鹿瀬診療所で診察を受けた患者が、オンライン服薬指導を受けるところから、報道陣に公開された。「Zoom」を利用し、町の中心部にあるかりん薬局と、鹿瀬診療所を接続した。薬局では、処方箋をファクスで受信してから、通常業務と並行して薬を用意した。また、薬局側の通信が途切れがちだったこともあって、患者が画面の前でしばらく待つことになった。

 通信状況が改善されなかったため、画面で薬剤師との対面や薬の確認を行いつつ、携帯電話回線を通じて会話する対応をとった。神田町長は、大勢の報道陣に囲まれて緊張する患者に、優しく声をかけながら、報道陣に向かっては「実際にやってみることで、細かな改善点が見つかる」と前向きにコメントした。

 
 

 オンライン服薬指導後、ドローンが離陸。川の上空を最大高度100m、時速約36kmで13分ほど自動飛行し、鹿瀬診療所の駐車場に着陸した。通常は、自動で荷物を切り離して、再び離陸し自動で帰還するのだが、今回は飛距離を考慮して、バッテリーを交換したのちに再び飛び立ち帰還した。

ドローンを目視で捉えたところ
ドローンを目視で捉えたところ

看護師が患者に寄り添いながら、ドローンの到着を見守った
看護師が患者に寄り添いながら、ドローンの到着を見守った

 届いた荷物は、ドローン配送スタッフから、まずは看護師に手渡された。看護師がその場で内容物に相違がないかを患者とともに確認したうえで手渡した。

看護師が荷物を受け取るところ
看護師が荷物を受け取るところ
看護師が患者に薬を渡すところ
看護師が患者に薬を渡すところ

SkyHubにACSLとKDDIが参画した意義

 セイノーHDとエアロネクストは、2021年4月に山梨県小菅村でドローン配送を含む新スマート物流「SkyHub」の社会実装に取り組み始めた。それ以降、北海道上士幌町、福井県敦賀市、千葉県勝浦市、山口県美弥市と、SkyHubの全国展開は急ピッチで進んでいる。

 今回の新潟県阿賀町は、6つめのエリア。これまで両社は、ドローン配送をはじめ、共同配送、貨客混載、買い物代行など、さまざまなサービスをSkyHubブランドとして共同開発してきたが、もともとドローンが最も価値を発揮する用途の1つに「医薬品配送」を位置付けていたという。阿賀町は、医薬品ドローン配送へのニーズとトップの熱量が非常に高く、本実証の企画がスタートしてからわずか3カ月月で、実施に至ったという。

 このようななか、本実証に国産ドローンメーカーACSLと、上空におけるモバイル通信の提供を開始したKDDIが参画した意義は大きい。

 ACSLはこれまで、エアロネクストと共同で、物流専用ドローンの開発に取り組んできた。本実証の使用機体は、あくまでも試作機だが、ついに量産は目前とのことだ。ACLSは、エアロネクストが特許を持つドローンの機体構造設計技術「4D GRAVITY」のライセンス契約も結んでおり、量産となればいずれはエアロネクストの知財ビジネスにも動きが出るだろう。

 当日は、セイノーHD 執行役員を務める河合秀治氏が「機体を傾けても荷物は水平を保つ」と、エアロネクストの4D GRAIVETYを搭載した機体の特徴を、エアロネクスト 代表取締役CEOを務める田路圭輔氏に代わって説明する姿もあった。河合氏は続けて、「物流会社の目線で見ても、荷物を上から入れられるのは、作業的にすごく負担が少ない」とも語り、物流専用ドローンの量産化へ期待を滲ませた。

エアロネクスト田路氏とセイノーHD河合氏が物流専用ドローンの特徴を説明するところ
エアロネクスト田路氏とセイノーHD河合氏が物流専用ドローンの特徴を説明するところ

 ACSL 代表取締役 兼 COOを務める鷲谷聡之氏も、「物流ドローンは基本的に、前方かつ高速に飛ばす必要がある。前方からの風にいかに最適化するかが重要。また、早くお届けするためにスピードを上げるとき、機体は傾くのだが、配送物の品質をいかに保つかも課題だった。4D GRAVIRYとの融合で、物流に求められる特性を反映した機体を開発できた。今年こそ、ドローン物流は全国各地で社会実装されていく、と強く確信している」と話した。

ACSLの鷲谷氏
ACSLの鷲谷氏

 また、本実証では、KDDIが提供する運航管理システムも導入された。KDDIスマートドローンで代表取締役社長に就任予定の博野雅文氏は、「人の目が届かないところでドローンが飛ぶためには、重要なポイントが2つある。1つは上空におけるモバイル通信。もう1つは運航管理。運航管理においては、遠隔制御や、ドローン同士の衝突回避、さらに有人機との連携も必要になるが、それらに対応したシステムをいま構築している。今後は、ACSLさんやエアロネクストさんとも深く連携しながら、サービスを提供していきたい」と語った。

KDDIの博野氏
KDDIの博野氏

 エアロネクストの田路氏は、「本実証で、量産に向けた検証が概ね完了した。また、物流ドローンに不可欠な通信についても、今回KDDIさんのプラットフォームと接続して長距離を安定して飛行する検証ができたので、日本全国でドローン物流を実装できる要素が全て揃ったといえる。また、KDDIさんの運航管理システムには物流オペレーションに特化したシステムもあり、社会実装の鍵となる運航の面でもさらに安定化を図れると感じた」と話した。

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