新スマート物流「SkyHub(スカイハブ)」を共同で立ち上げたセイノーホールディングス(セイノーHD)とエアロネクストが、1月20日に福井県敦賀市の愛発(あらち)地区において、雪が降り続く中、ドローン配送を成功させた。
両社と敦賀市は2021年11月、新スマート物流の構築に向けた包括連携協定を締結している。今回のドローン配送実証は、その一貫として実施された。ドローン配送実証出発式には渕上隆信敦賀市長もかけつけ、飛行実証の現場でも自ら雨雲レーダーアプリを開いて、降雪の見通しをチェックしていた。
本実証の主目的は、住民向けのデモンストレーション。実際に、住民の方が専用アプリで注文した「おやつセット」と「ご飯セット」(各重量約2kg)を、ドローンが2ルート1往復ずつ飛行して配送した。飛行距離は、1ルートが片道約1km、もう1ルートが片道0.7kmだった。
当日は、大寒といわれる1年で最も寒い時期。雪が前日から降り続き、除雪されていない場所では、くるぶしまでのレインブーツでは全く足りないほどの積雪量だったが、外気の低さや降雪にもかかわらずドローンは安定飛行を披露。自動で離陸、目的地まで飛行して、着陸後は自動で荷物を切り離し、再び離陸して出発地点へと戻っていった。
「この雪はもっと積もるね」ーードローンの到着を待つ間に、地元のおばあちゃんが言った。パラパラと硬い雪だ。さらに積もれば、もう外出は難しいという。「庭の雪を眺めるのはきれいだけどね」と静かに付け加えた。
今回の実証現場は、福井県敦賀市の愛発(あらち)地区。市街地からの距離は3~9kmで、敦賀駅から地区内の新疋田駅までは電車でわずか9分だが、過疎化と高齢化が進み、2021年には地区唯一のコンビニも廃業してしまったという。
ほかに商店や薬局もないため、買い物などは市街地まで出かけなくてはならない。免許を返納する高齢者もいるが、市街地と地区をつなぐ路線バスは1日1本。買い物は地域課題となっている。
このようななか、アプリで注文した商品が配送されるサービスがあれば、「とても助かる」そうだ。さらに、陸送が困難になるような雪の日にこそ、ドローンが空を飛んで荷物を届けてくれるのなら、これは頼れる生活インフラになる。
逆もまた然りで、セイノーHDとエアロネクストは、強風の日にはドローンに代わり陸送で、確実に荷物を届けることも構想している。そしてその運用は、エアロネクスト100%子会社のNEXT DELIVERYが担う方向で検討中とのことだ。
奇しくも大雪の日をめがけて、ドローン配送のデモンストレーションを行うことになったわけだが、その意義は大きかったようだ。住民の方々は、美しい雪景色のなか静かに、ドローンが働く様子に見入っていた。
敦賀市は、人口約6万4000人の都市。静岡県伊東市や石川県加賀市より少し少ないくらいの規模感で、2023年度末には金沢から北陸新幹線が延伸される予定もある。
しかし、人口の大半は市街地に密集しており、その周辺には過疎地域が点在する二重構造だ。今回の実証が行われた愛発地区も、その過疎地域のひとつ。人口は約700人、世帯数は318で、高齢化も進んでいるという。
過疎地域は、住民の買い物や医療機関受診などが困難になるという、共通の地域課題を抱える。課題を放置すれば地域コミュニティが存続できない、ひいては地方がなくなるという危機に直面している。
このような過疎地域の課題を解決することを目指し、セイノーHDとエアロネクストは共同で新スマート物流SkyHubを打ち出した。最初に山梨県小菅村で、次に北海道上士幌町で、SkyHubの各種サービス提供や、ドローン配送の実証実験を繰り返している。
SkyHubの仕組みはこうだ。まず、地域の空き家などを活用して「ドローンデポ」を新設し、地域内に届く荷物を集約して一時的に保管する。これにより、市街地から過疎地域への物流の効率化を図る。
そして、地域内での個別配送では、ドローンを含むさまざまな配送手段を整備する。同時に、ドローンの離発着場所も兼ねる「ドローンスタンド」を地域内にいくつも設置して、利用者がそこまで荷物を取りに行く、置き配という新たな受取方法も実装していく。
こうした仕組みの中で、買い物代行をはじめとする、過疎地域の暮らしに本当に役立つサービスを提供していこうというものだ。
今回の敦賀市は、3カ所目の実証エリアとなる。まずは過疎地域である愛発地区に、ドローンデポとドローンスタンドを設置して、買い物の課題に取り組む予定とのこと。本実証では、愛発公民館を仮設ドローンデポ、疋田第一会館を仮設のドローンスタンドとして使用した。
敦賀市での取り組みのポイントは、「市街地と過疎地域の連結を強化する」ことだ。市街地にある店舗や病院などのさまざまなサービスを、できるだけ市街地に出かけることなく過疎地域でも享受できるようになることを目指す。そのためには、ドローンと陸送をうまく組み合わせることが鍵になるという。SkyHubの運営を担うNEXT DELIVERYは、すでに陸送業務に必要な資格も取得したとのことで、今後の展開は要注目だ。
渕上隆信敦賀市長は、「“愛発モデル”を確立して、敦賀市のほかの地域にも広げていきたい」と意気込む。さらにその先には、他都市での再現も視野に入れているという。というのも、敦賀市のように、市街地と周辺の過疎地域群が、ある種分断されたような構造を持つ都市は、日本全国、特に本州には数多くあるためだ。
現在愛発地区内で、ドローンデポとドローンスタンドの設置場所検討や、飛行ルート開設の準備を進めているというが、そのために欠かせないのが、住民の理解だ。物流専用ドローンを開発するエアロネクストの田路氏は、出発式に参加した愛発地区にある11の区の区長たちに、同社製機体の特徴についても丁寧に解説した。
「一般的にドローンというと、空撮用のカメラを吊り下げた構成を思い浮かべると思うが、物流機は基本的には一方向だけに高速で移動する機体なので、前面からの空気抵抗や、荷物を積んだときの重心に配慮して設計した。このため荷物は、従来のように機体の下に取り付けるのではなく、機体の内部に上から入れる構造にした。エアロネクスト独自の機体構造設計技術『4D GRAVITY』によって、このような構造を実現している」(田路氏)
実際に、実証で運ばれた「ご飯セット」には、牛乳(900ml)、醤油、パックごはんなどの重たい商品と、卵(Lサイズ、10個パック)や豆腐などの形状を損ないやすい商品が一緒に箱詰めされていたが、割れてないピカピカの卵が届けられ、同社の物流専用ドローンは飛行や風の影響による揺れがとても小さいことを感じさせた。
今後は、ドローンのみならず、陸送においてもさまざまな方法を検討するという。いま有力なのは、路線バスへの貨客混載だ。セイノーHDの河合氏は、「路線バスは、いませっかくある地域のインフラ。これを維持できるよう、SkyHubと融合していく」と話して、既存のインフラの新たな活用方法を開発して“甦らせる”ことも、新たな技術を導入することと同じくらい重要であることを示した。セイノーHDでラストワンマイルの責任者をつとめる河合氏の発言だからこその重みがある。隣で聞いていた渕上市長もゆっくりと頷いていた。
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