一般社団法人 DX不動産推進協会は11月22日、第3回勉強会を開催した。「不動産DX 最新動向と電子契約で変わる未来」をテーマにイタンジ 代表取締役の野口真平氏が講演を実施した。
DX不動産推進協会は、2020年12月17日に設立。「不動産取引の全面電子化」を掲げ、4月19日には設立総会を開いた。代表理事の古木大咲氏(Robot Home 代表取締役CEO)は「第3回となる勉強会には100名弱という大変多くの方にご参加いただいた。現在、会員企業は50社を超えており、今後は会員企業同士の相互の交流ができるイベントなども企画していきたい」と勉強会の冒頭に挨拶をした。
ゲストとして、復興大臣政務官の宗清皇一氏も登壇。「始動から約半年で50社を超える会員企業を集めるなど、DX不動産は発展目覚ましい。今までは人と人の情報のやり取りが可視化されていなかったが、そういったことでは時代を乗り切れない。情報をしっかり電子化し、得られたデータを相互に活用し、共有していく、そうしたDX化をはかっていただきたい。私たちも課題を共有し解決策を考えサポートしていければと思う」と話した。
野口氏は、「不動産テック業界のトップランナー」(古木氏)であるイタンジの代表取締役。「イタンジの創業は2012年。この約10年間で不動産テック業界は劇的に変わった。設立当初はあまり注目されていなかったが、途中から流通する金額が増え、マインドセットも変わった。私自身、エンジニア出身で、この業界に入り最初に思ったのはファクスが使えないと仕事にならないということ。それまでファクスを使ったことがなく、非常にカルチャーショックを受けた。その時にこの業界は変わる余地が大きいと思ったことを覚えている」と、当時を振り返る。
現在、イタンジでは物件検索ができ、そのまま内見予約と入居申し込みが可能な「ITANDI BB(イタンジ ビービー)」と不動産仲介会社の営業業務をサポートする顧客管理(CRM)、業務改善クラウドシステムの「ノマドクラウド」を展開。不動産管理、仲介会社におけるDXを推進している。
野口氏はDXが進む要因として、コロナ禍によるアナログ処理への危機感や電子契約に向けた法改正といった政府主導でのデジタル推進による「政治的要因」、人口減少により、良い体験を提供できなければ入居者に選ばれない、労働人口減により、働き方の抜本的見直しが必要になっているといった「人口要因」、スマートフォンが普及し、インターネットの発達によりSNSや口コミが当たり前になった「技術的要因」の3つを挙げる。
不動産会社におけるDX推進の目的は「業務効率化」「集客力アップ」「成約率アップ」を求める声が多く、「業務効率化が最大の焦点と言えるが、約半数の会社がDXを推進するための人材確保ができていないと考えている」(野口氏)と各社の現状を話す。
賃貸業界の現状についてはビジネスモデルが変化してきたと指摘。「主要不動産ポータルサイトの値上げや入居者による手数料減額の交渉などにより、大手の仲介会社は急速にダウンサイジングを始めている。ダウンサイジングの対象は店舗のため、売上は減らず利益率は良くなっていると聞いている。もう1つ、最近よく聞くのは仲介会社が不動産管理のウエイトを増やし、ストックビジネスにポートフォリオを移しているということ。管理物件の獲得や入居者の確保などはこれまで以上に大変になる」と説明する。
管理会社については「課題は人件費の増加。内見をしたい、解約したい、見積もりをとりたいなど、入居者、仲介会社、保証会社、家主と不動産会社とシステムの間に従業員が必ず入っていた。賃貸管理は情報伝達の連続で、伝達の数が増えると従業員のコストが増える構造。今後は、ウェブ連絡やAPI連携などを取り入れ、システムを導入することで効率化していくと思う。ただし、これではコアのシステムは変わっておらず、パフォーマンスが出ないこともある。目指すべきは、業務をオートメーション化できる世界。お客様が来店前に入力した名前、メールアドレスといったデータをデジタル化し、基幹システムに連携。この情報を常に引き継げれば、賃貸管理ビジネスを変革できると考えている」(野口氏)と、問題点を浮き彫りにした。
課題解決ができるツールとしてイタンジBBを紹介。「大事なのは一気通貫できること。入居申込みから退去までどのくらい効率化できるか検証したところ、業務時間を従来の6分の1にまで減らせるという結果が出ている」(野口氏)とした。
入居者である消費者の視点からも分析する。「消費者が賃貸取引に求めているのは正確な物件情報の提供、物件に関する詳細な説明、迅速な対応。当たり前のことだが、これが満たされないと不満につながる。これらを実現するためには、1つ1つのサービスを提供しても大きな体験改革はできず、一気通貫で提供することで、お客様の体験を変えられる」(野口氏)と体験価値の変化を重視する。
一方、店舗での仲介からウェブ仲介にシフトしている会社が増えていることに触れ「お客様はスマートフォンを通じて部屋探しをする。その延長線上で店舗とやり取りができ、チャットしながら自分好みの部屋が探せる。内見から申込みの過程では対面が必要になるが、そこまでのやりとりをすべてオンライン上で済ませることで、店舗でのお客様の来店時間が40分から5分に減ったという結果も出ている」と業界の変化について話した。
もう一つの変化は電子契約サービスの導入だ。「入居者と仲介会社が契約を取り交わすには、申込書類、審査状況、契約書類などの確認作業があり、今までは書類や電話を使ったやり取りが必要だった。この部分をメールやオンラインを使ったやり取りに変更することで、業務の負担は大きく軽減できる。縮小されるのは郵送手配、印鑑押印といった業務のほか、郵送費などのコミュニケーションコストにも効果がある」と恩恵は大きい。
しかし野口氏は「電子契約を導入することで効果は出るが、単体では一定の業務効率化までしかできない。さまざまな業務が一連の流れの中で進む不動産業では、一気通貫での利用によってさまざまなデータを連携でき、最終的にはトータルでの業務効率化につながる」と続ける。また「今まで1〜2週間かかっていた契約作業期間が短くなることによって、即日契約に至るケースも増えている。これにより、賃料発生日が早まったり、空室期間を短くすることにもつながる」とメリットを話した。
最後に、不動産取引における企業間での情報連携やデータ連携を目的に提供する「不動産ID」についても触れた。「賃貸業界における情報に関する課題は、空き情報の更新頻度がリアルタイムにならないことと、建物、設備、情報のデータ化がされても情報の非対称性があることの2つ。これらが不動産IDによって変わる可能性がある。これが普及すれば、空き情報は自動でメンテナンスできるようになり、情報の非対称性も解消される」と、業界全体を変える動きだと説明した。
さらに「不動産情報のID化で、正確な情報が集約されれば、その後も正しい情報を必要な人に届けられる。例えば、引っ越しの手配や、電気、ガス、インターネットの提供といった周辺ビジネスにつながり、不動産管理会社の収益モデルが大きく変わる可能性があるだろう」とビジネスチャンスがあることも示唆した。
野口氏は「不動産DXは、あらゆることがデジタル化される最初のフェーズ。情報がデータ化され、各サービスがAPIでつながるようになれば賃貸業界のビジネスモデルが見直されていくと考えている。イタンジでも、今がビジネスモデル変革のタイミングと捉えている」とした。
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