「アイマス シンデレラガールズ」10周年ツアー福岡公演で見た“大きな夢を叶えた姿” - (page 3)

 見どころが多くあるなかで、余談ではあるが筆者個人としても印象に残っているシーンが数多くある。まずこの福岡公演では、過去に「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」(デレステ)のインプレッションで気になるアイドルとして挙げたことのある赤城みりあ、佐々木千枝、喜多日菜子のキャストがそろって出演していた。

 黒沢さんは、2日目に披露したみりあのソロ曲「Romantic Now」について、国内公演においてソロで披露するのは、実にファーストライブ以来だという。そしてステージで躍動しプロデューサーさんを引き込む姿はまさにみりあそのもの。ほかの曲でも目を引かせるぐらいの卓越したパフォーマンス力が印象的だった。今井さんは、2日目に待望だった千枝のソロ曲「あこがれステッチ」をライブで初披露するなかで、優しい歌声から等身大で“オトナ”に憧れている少女を表現。その一方で、トークではずっと歌いたい曲と話していた1日目の「Love∞Destiny」では、その憧れているであろうオトナの姿を体現するようなカッコいいダンスを決めていた。そして深川さんが2日目に披露した日菜子のソロ曲「世界滅亡 or KISS(Long Intro Ver.)」は、1月の新春ライブ以来2度目の披露となったが、有観客の場では初めて。日菜子の妄想ワールドを表現する“劇団日菜子”と呼べるような、1曲のなかでさまざまな場面があるステージを、時には衣装のフードを被って雰囲気を出しながら歌っていた。

「あこがれステッチ」
「あこがれステッチ」

 そして、最もお気に入りなのが龍崎薫なのだが、ソーシャルゲーム版の初期から登場しているアイドルで、サービスが開始されてそれほど時間が経過していない、まだシンデレラガールズのアイドルたちにボイス自体がついてなかったころにお気に入りとなり、そして薫にボイスが付いていなかったころに見たファーストライブでは、うらやましい気持ちを持った本音もあると記事に書いていたことを思うと、この福岡公演は、当時では想像もできなかったような光景が広がるものとなっていた。

 まず触れておきたいのは、2日間ともに歌われた「ハイファイ☆デイズ」。これはユニット「L.M.B.G」(リトルマーチングバンドガールズ)からの選抜として歌われた、薫にとっての初ボーカル曲。これまで何度もライブで歌われているのだが、今回はオリジナルメンバーのなかから今井さん、黒沢さん、春瀬さんに加え、デレステでのうたいわけにありすのボーカルが入っている佐藤さん、そして木村さん、高田さん、高野さん、高橋さん、東山さん、深川さん、渕上さん、牧野さんが加わり、12人編成(1日目)という大人数でのステージに。

 シンデレラガールズのライブにおける盛り上げ曲の定番と感じられることもさることながら、今井さんと春瀬さんが声を挙げて駆け込み、ダブルセンターのような立ち位置でけん引するように歌っていたのも、そしてライブで歌われるたびに人数が増えていく光景は、仲間や友だちが増えていってるようにも見えたところだ。

 こちらも2日間歌われた、ライブ初披露となる「Hungry Bambi」にも触れておきたい。ローティーンのアイドル6人のユニット「キュリオスター」による楽曲で、無邪気な子供らしいイメージから脱却するような、したたかさや貪欲さを前面に押し出したもの。公演では5人での歌唱となったが、不穏な雰囲気すら感じる曲とステージで、個々に見せ場を作りつつ息の合ったパフォーマンスを披露。そのなかでセンターに立った春瀬さんが、これまで薫として歌うときには感じられなかったような凛々しさや怖さすら感じる表情でいたのも印象的なところだった。

 こと「ハイファイ☆デイズ」と「Hungry Bambi」はローティーンのアイドルが主体となって歌っている楽曲であり、どこか“光と影”“陰と陽”のようにも感じられる2曲のステージとなっていた。

「Hungry Bambi」(1日目)
「Hungry Bambi」(1日目)

 大きなインパクトを残したのは、2日目に披露した「モーレツ★世直しギルティ!」(今井さん、春瀬さん、藤本さん)。本来はセクシーなプロポーションを持つ、愛と正義のセクシーユニット「セクシーギルティ」による楽曲で、その“ちびっ子カバー”と呼べるもの。

 登場時に真ん中にいた春瀬さんが口上を述べたり、正義感を示すところを歌っているのは、どこか「[ちびっこポリス]龍崎薫」のイラストやエピソードをほうふつとさせるもの。さらに見せ場となったのは「薫のセクシービーム!」の決めゼリフとともに、セクシーなポーズにウィンクを決めるところで、薫の全力セクシーをアピール。そんな春瀬さんの活躍だけではなく、今井さんは千枝としての決め台詞を披露したり、藤本さんは愛海の“わきわきパラダイス”を繰り出そうとするなど、オリジナルをリスペクトしつつ、“ちびっ子によるかわいさ全開のセクシーステージ”と呼べるものが展開された。

 さらに、1日目での属性パートにおける「Halloween▼Code」も触れておくべきところ。3人揃って黒猫の耳飾りをして登場している時点で、かわいい方面のインパクト大と言えるのだが、春瀬さんの笑顔や楽しそうな表情から伝わる子猫感が印象的。また間奏では、真ん中にいる春瀬さんが指揮をするように手をくるくるとさせると、立花さんと高田さんが順にまわるようなシーンも。こうした場面のみならず、高田さんが芳乃として歌うときの癒されるような優しく柔らかな歌声、立花さんが凪として歌うときの“的確過ぎる”と言えるような、おすまし顔や喜びの顔といった表情の切り替えにウィンクなど、パッション属性が放つキュート全開なステージとなっていた。

 過去のライブでも、ここまで春瀬さんが薫としてセンターに立って歌う機会はなく、それだけでも大きな出来事でもあるのだが、ここまでが前置きと言えるぐらい、この福岡公演で一番心に残る出来事といえば、2日目における薫のソロ曲「ひまわりマークをさがせ!」。これは薫が世に出て10年かかってようやくもらった、初めてのソロ曲のお披露目の場になった。

「ひまわりマークをさがせ!」
「ひまわりマークをさがせ!」

 元気いっぱいな薫を表すような前向きな気持ちになれる、前に進もうという気持ちを後押ししてくれるような曲となっており、軽快かつクラップを誘うようなイントロからステージに駆けだした春瀬さんが、曲中にもある薫としての掛け声「いってきまー!」(※薫は挨拶などで、最後の「す」を言わない喋り方をすることがある)をあげ、さらにイラストにも使われているような、右手を差し出す薫らしいポーズから歌いだす。元気いっぱいで歌うなかでも、探し物をするときの好奇心やワクワク感が伝わる表情を見せたほか、間奏では“せんせぇ”(※薫が言うプロデューサーの呼び方)と笑顔対決する場面もあり、“にこにこ~”と笑顔な表情になれるように先導しつつ、みんな優勝!と言うと、薫の優しい性格が現れる場面も。なにより、これまでも見てきた“薫そのもの”と感じさせるような、笑顔で楽しく歌い踊ることを、薫のために作られた曲で行っていたのが印象的。そして最後まで笑顔のポーズで決めた後ろでは、ひまわりと花丸のマークとともに「よくできました」と一言書かれているという粋な演出もあった。

 後のトークのなかで春瀬さんは、一番大きな夢が薫のソロ曲を歌うことだったと語る。そして自身の体験をもとに、ソロ曲を聴いてもらうことで、ひとりでも薫のせんせぇになってくれる人がいたら嬉しいと。その気持ちが届いていたら嬉しいと話すと大きな拍手が沸き上がっていた。

 ソーシャルゲーム版がリリースして、ほどなくしてアイドルたちのボイスがついたり楽曲やライブ展開が進んでいくなかでもどかしさを感じていたなか、テレビアニメで登場した薫が喋る形でボイスが付いたのが2015年。4年ほどかかり、待ち望みつつも当時本当に驚いたことは鮮明に覚えている。そこから数々の楽曲で参加しつつも、ソロ曲を歌うまでには6年かかったが、いざ披露されると長かったような短かったような不思議な気持ちというのも正直なところだ。

 コンテンツやライブはひとりだけの力ではなく、大勢の人が関わるなかで作り上げられるものというのは大前提としてあり、ソロ曲もめぐり合わせなどがあると思うなかで、ゲームのみならず、ローティーンのアイドルを描いたコミック「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」で活躍の場も広がったこともあるが、こうして時間がかかっても薫のためのソロ曲ができたことの要因のひとつには、薫にしか見えないと思えるぐらい、小柄な体でも大きな動きで歌い踊るステージを春瀬さんがし続けたからと、これまでのライブを見ていて少なからず感じている。

 まだ注目度合が高くなかった時期でも、本当に薫がいると感じられた4thライブ、「絶対特権主張しますっ!」で、薫としてのセリフ「せんせぇは、かおるだけのせんせぇだよー!」がとても刺さった5thライブ石川公演や、黒沢さんとともに“みりあと薫”の姿を存分に表した「Romantic Now」を披露したのも印象的だった静岡公演、このときも「ハイファイ☆デイズ」でけん引役となっていたさいたまスーパーアリーナ公演、初のセンター曲「なつっこ音頭」をメットライフドームという大舞台で披露した6thライブ、リアルシンデレラガールズ劇場で活躍したり、「明日また会えるよね」で新たな一面をのぞかせた7thライブ、さらには東京ドームという大舞台でU149メンバーとして躍動して、せんせぇやプロデューサーさん以外にも存在感をアピールしたバンダイナムコエンターテインメントフェスティバルなどなど……。今となればいろんな場面が思い返されるが、こうした積み重ねのうえで今があるとも感じられる。

 見ている側としても、大きな願いがなかったステージだったが、それと同時に、この先ソロ曲のステージで魅了し、せんせぇを増やしていく光景が見たいと、時間はかかったがまだまだこれからと感じさせる福岡公演と思った次第だ。

 なお本公演について、両日ともASOBISTAGEでのアーカイブ配信を期間限定で実施。配信チケットを購入することで視聴することが可能となっている。アーカイブ視聴期間は10月11日23時59分(チケットの販売期間は10月11日12時)まで。

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