スクエニがゲーム開発資料をサルベージする狙い--SFC「ワンダープロジェクトJ」開発秘話 - (page 2)

“新しいゲーム”にこだわった「ワンダープロジェクトJ」企画秘話

 SAVEの活動の中でサルベージ下資料の大半はまとまりのないものが多かったが、きちんと資料が整理された状態で管理されていたタイトルがいくつかあり、そのひとつがワンダープロジェクトJであった。そこで藤本氏が、ワンダープロジェクトJに関する企画、開発エピソードなどを語った。藤本氏はワンダープロジェクトJや、その続編にあたる1996年発売のNINTENDO64用ソフト「ワンダープロジェクトJ2~コルロの森のジョゼット~」のプロデューサーを務めた人物。

 ワンダープロジェクトJは、勝手に動くピーノの行動を見て正しいと思ったら褒めたり、正しくないと思ったら怒ったりというようなことを指示して成長させていく、コミュニケーションアドベンチャーゲームとなっている。

「ワンダープロジェクトJ~機械の少年ピーノ~」タイトル紹介
「ワンダープロジェクトJ~機械の少年ピーノ~」タイトル紹介
ワンダープロジェクトJの資料
ワンダープロジェクトJの資料

 発端となったのは、画面の中の犬に芸を教えるというMacintosh向けのゲームから着想を得て、架空のペットを育てる「コンペット」という名称で企画を立ち上げたこと。その背景として、現在はスクウェア・エニックス・ホールディングス名誉会長となっている福嶋康博氏から、新しいゲームを求められたことがきっかけになっているという。

最初の提案(「コンペット」)
「コンペット」の資料

 藤本氏によれば、当時福嶋氏は同じようなゲームばかりだった状況を踏まえ、1年間に100本ゲームが出ていたとして、97本が同じようなゲームで、全く新しいゲームは3本くらいと指摘。そして100本の中からヒットしているのは5本くらいで、そのうちの4本は97本のほうから出ているとし、1本は、新しい3本のなかから出ているという。そうなると、同じようなゲーム側の97分の4からヒットを狙うよりも、新しいゲーム側の3分の1を狙ったほうが確率が高いという考え方に感銘を受けて、新しいゲームを作りたいと思ったという。

コンペットの企画書より
コンペットの企画書より

 コンペットの企画書は100ページ近いものとなり、その斬新さ自体は伝わったものの、ゲームとしての面白さは上手く伝えられなかったという。そこで企画を再考するなかで、画面の前の自分と、画面のなかの生き物がコミュニケーションを取ることに面白さの本質にあるとし、「ジェッペットの息子」の名称で企画を再度立ち上げる。これがワンダープロジェクトJのもととなった。

「ジェッペットの息子」
「ジェッペットの息子」

 画面の中に人間がいて、その人とコミュニケーションを取ることができたら楽しいと思った一方、人間とコミュニケーションを取ろうとしたとき、少しでも変なところがあると、強い違和感を覚えやすいこともあり、プレーヤーに納得感を持ってもらえるために、ピノキオという木の人形に設定。木の人形とコミュニケーションを取るゲームにしたという。

 当時スーパーファミコン初の育成ゲームであることや、アニメーションの取り込みによって動きを表現するなど、斬新な手法を取ろうとしていたという。また、企画段階ではマルチエンドも想定されていたと振り返る(※最終的に、製品はマルチエンドではなくなっている)。

「ジェッペットの息子」企画書より
「ジェッペットの息子」企画書より

 企画書についても、コンペットの反省を踏まえ、どこが改善されたか、そして面白いのかを伝えるものにしたという。新しいゲームであるがゆえ、ゲームの内容をどうやって理解をしてもらえるのが課題とし、プレゼンのたびに「わからない」と言われた箇所があったら書き足したり作り直すということを繰り返した。最終的には企画書は133ページに及ぶものとなり、仕様書にも近い内容になった。ゲームの流れや育て方も記載されており、ある行動に対して褒めるか叱るか、それで行動を覚えるという、ワンダープロジェクトJの原型はもうこの時点でできていたとしている。

「ジェッペットの息子」企画書より(目次や「コンペット」からの変更点)
「ジェッペットの息子」企画書より(目次や「コンペット」からの変更点)

 藤本氏は、当時ゲーム内容を説明する際に「○○みたいなゲーム」ということは絶対に言わないと決めていたという。例えられる時点で新しいゲームではないと宣言しているようなものと指摘し、そういう説明にならないようなゲームであること、新しいゲームを作っていることを心に刻んで取り組んでいたと振り返る。

「ジェッペットの息子」企画書より(ゲームの流れなど)
「ジェッペットの息子」企画書より(ゲームの流れなど)

 ほかにも、当時のゲームソフトはロムカートリッジであったことから、容量との戦いについても触れた。ワンダープロジェクトJは最終的に24メガのロムとなったが、当初は16メガを想定。ただし、ここでのメガの単位は“ビット”であり、“バイト”で考えると、およそ2メガくらいとなり、PCのスクリーンショット1枚をBMP形式で保存した画像と同程度。その容量でゲーム1本を作っていたという。そして容量の戦いがあったゆえに、やりたいことはたくさんあっても、何をゲームのキモとして残していくか、そして洗練していくか、それが求められたと語る。

「ジェッペットの息子」企画書より(容量について)
「ジェッペットの息子」企画書より(容量について)

 音楽やSE関連についても、ゲームでは重要な要素ではあるが容量を切迫しやすかく、真っ先に見直されるところでもあったことから、企画の段階で必要なものは書き出しつつ、共通で使えるものをまとめるなどの工夫を行ったとしている。

「ジェッペットの息子」企画書より(音楽・SE関連)
「ジェッペットの息子」企画書より(音楽・SE関連)

 主人公の動きのパターンについても、企画書の段階で156パターンを想定。最終的に入らなかった動きもあったものの、企画の段階では想定できるものは書き出していき、そこから削る方式で開発を進めたという。ほかにもボールなどひとつのアイテムに対してもどんな動きをするかというのも企画書に書かれていた。ここまで細かく書いているのは、実際に開発する際に、プログラマーなどへ、どのような動きをするか伝えて作成することができることを証明する意味もあったという。

「ジェッペットの息子」企画書より(キャラクターの動きについて)
「ジェッペットの息子」企画書より(キャラクターの動きについて)

 企画書にはホーム画面の構成、考えられるイベントやマップ、エンディングの画面まで想定して盛り込まれ、企画書を通じてゲームの仕組みややりたいことそのものは会社に理解されたものの、ゲームが面白いのかどうか、プレーヤーはどんな体験をしてどんな気持ちになるのか、ということが伝わらず承認されなかったと振り返る。そこで、ゲームがはじまってからプレーヤーが行う流れを絵コンテにし、それを当時の上司の部屋に並べて、ゲームの流れや画面表示、さらにはどういう気持ちでプレーヤーがボタンを押すかというところまで丁寧に説明。そしてその熱意が伝わって、企画が承認されたという。

「ジェッペットの息子」企画書より
「ジェッペットの息子」企画書より
説明に使用した絵コンテ
説明に使用した絵コンテ

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