1992年の小説「スノウ・クラッシュ」(Neal Stephenson著)は、昼はピザ配達人、夜は「メタバース」と呼ばれるオンラインの仮想現実(VR)世界に住むスーパーヒーローという青年の物語だ。小説では、誰もが参加するVR上の世界規模の都市が次のように紹介されている。「だから、ヒロはいま、このユニットにはいない。彼がいるのはコンピュータの作り出した宇宙であり、ゴーグルに描かれた画像とイヤフォンに送り込まれた音声によって出現する世界。専門用語では“メタヴァース”と呼ばれる、想像上の場所だ。ヒロは、このメタヴァースでほとんどの時間を過ごしていた」(訳はハヤカワ文庫版の日暮雅通氏によるもの)。このアイデアは、映画「レディ・プレイヤー1」に出てくる仮想世界「オアシス」のように、再び多数の作品に登場している。
1992年当時、私はメタバースをSF作家William Gibsonの「サイバースペース」というコンセプトの二番煎じだと考えた。もちろん、サイバースペースという用語は再利用され、インターネット全体を表す言葉になった。そして、メタバースもまた、だ。
メタバースという用語は、長い間存在してきた。どのくらい長いかというと、例えば米CNETは2007年にはこの用語について書いている。
ここ数年、メタバースという用語は再浮上し、「フォートナイト」「Roblox」「Minecraft」、VR、拡張現実(AR)、そして「どうぶつの森」にまで適用されている。FacebookはARとVRに取り組むReality Labs部門内に、メタバース担当グループを立ち上げたばかりだ。Microsoftはエンタープライズ向けのメタバースを探求している。
現在のメタバースの定義は、一種の未来のソーシャルハブ、アバター同士で集う場、連携するアプリのエコシステム、といったところだ。ある種の仮想世界に人々を招き入れる、AR/VR対応の夢。そこはMincraftのように何かを創造しやすく、フォートナイトのように人気があり、Zoom、Slack、「Googleドキュメント」のように便利だ。メタバースは、テクノロジーの未来はVRやARだけにあるのではなく、共有されるオンラインの世界に接続する多様なデバイスの混合になることを、恐らくこれまでで最も明確に認めている。その世界は、あなたが今この記事を読むために使っているインターネットよりも没入できるもので、3Dになる可能性がある。
SFのアイデアは常にテクノロジーに流用される。メタバースも例外ではない。単なるAR/VRの没入型世界を意味すると思われがちだが、そうではないことをはっきりさせておこう。メタバースとは、VR、AR、およびすべてのテクノロジーの融合であり、装着するヘッドセットのことでは断じてない。メタバースはまた、現在VRに集まっている数百万人ではなく、より多くの人々を未来の高度な仮想コミュニティーに引き込む方法を企業が考え出すことも意味する。
われわれは2020年に既に「バーチャル」という概念を再定義済みだ。ほとんどの人にとって、バーチャルにヘッドセットは含まれなくなった。誰もが、Zoom、オンラインゲーム、Clubhouse、Twitterの「スペース」など、スマートフォンのソーシャルアプリ上で、何らかのバーチャルな存在になっている。
メタバースのコンセプトは今では、多人数参加型の大規模な世界を表す包括的用語になっている。例えば、フォートナイト、Minecraft、Robloxのようなゲームや、「Rec Room」、「VRChat」、Microsoftの「AltspaceVR」のようなVRアプリなどだ。だが、ヘッドセットを装着するかしないかに関わらず、すべてのバーチャルツールを表す用語になろうとしている。
メタバースというアイデアへの移行は、基本的に多様なデバイスやプラットフォームを含む方法であり、特定のガジェットを使うことにこだわらない。繰り返しになるが、フォートナイト、Roblox、Minecraftを思い浮かべるといい。あるいは、ある意味ではわれわれが日常的に使っているアプリのほとんどがそうだ。だが、ここでは、独自のソーシャルな世界を持つメタバースについて話していく。
私の子どもたちは、既にメタバースに深く入り込んでいる。彼らはメタバースを、そこにアクセスするために使うアプリ名で呼んでおり、アプリメーカーはそれをよく理解している。
ここで取り上げているメタバースは、アバター、世界、永続的なプレイヤー、クリエイティブなツールが存在する大規模な多人数参加型スペースのことだ。例えば、Facebookが開発中のソーシャルプラットフォーム「Horizon」が該当する。この、アバターになって参加するアプリはVRで稼働するが、FacebookはARもサポートしようとしており、ノートPCやスマートフォンでも参加できるようになる予定だ。MicrosoftのAltSpaceVRは既にそうなっている。
VRは現在メタバースで大きな存在だが、VRヘッドセットを持っている人は少ないので、まだ大規模にソーシャルになってはいない。メタバースに取り組む企業は、スマートフォンやPCの体験をVRおよびARのエコシステムに取り込むツールを必死で探している。Microsoftは何年もこの課題に取り組んでいるが、まだ成功していない。
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