タクシーのダイナミック・プライシングは「変動幅が大きいほど効果的」--Uberの主張とは

 タクシー業界でダイナミック・プライシング(変動運賃制)導入の機運が高まっている。国土交通省は配車アプリでの導入を目指し、2021年度内に実証実験を行う方針を示している。

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 Uber Japanは6月1日、タクシー業界でのダイナミック・プライシングを導入意義をメディアに説明。日本での導入に際しての要望を示した。

 ダイナミック・プライシングとは需要と供給のバランスによって料金が決まる仕組みのこと。ホテル予約や航空券予約ではお馴染みだ。

 タクシーでダイナミック・プライシングを導入するとどうなるのか。

 たとえば、タクシーがあまり利用されていない時間帯には、運賃が安くなる。子育て中の家族など、これまであまりタクシーと縁がなかった人たちが利用しやすくなる可能性がある。タクシー会社にとっては、稼働率が上がり収益につながる。歩合制が多い運転手にとっても稼働率の改善は収入増につながるだろう。

ダイナミック・プライシングはタクシーを需要が多い地域に誘導する効果がある
ダイナミック・プライシングはタクシーを需要が多い地域に誘導する効果がある

 一方で、雨の日やイベント開催直後など、タクシーの需要が多い場面では、ダイナミック・プライシングの運賃は大きく上昇することになる。割増運賃を支払ってでも早く、確実に乗りたいという人が配車アプリを利用することになる。

 その他、ダイナミック・プライシングでの運賃上昇は、運賃を抑える効果が期待できる。なぜならタクシー会社に支払われる報酬が増えるため、該当エリアにタクシーが集中することになるからだ。

 まとめると、ダイナミック・プライシングは稼働率を改善し、需要が多い地域にタクシーを集めるという2つのメリットを持つ仕組みと言える。

Uberのダイナミック・プライシング

 Uberは海外80か国で配車サービスを展開しており、その多くの地域で「Surge Pricing」と呼ばれるダイナミック・プライシング制を取り入れている。これは、ベース運賃を定めた上で、サージと呼ばれる加算運賃を設定。需要の変化に応じてリアルタイムで加算率が変動する仕組みだ。

Surge Pricingの運賃は数分ごとに細かく変動する
Surge Pricingの運賃は数分ごとに細かく変動する
ドライバーが報酬が高い地域を示し、需要の多いエリアへ誘導する仕組みだ
ドライバーが報酬が高い地域を示し、需要の多いエリアへ誘導する仕組みだ

 加算率を地区ごとに細かく設定し、運転手に分かりやすい形で提示することで、需要がある地域に車両を集約できるという。

 加算運賃の情報は乗客に対しても提供される。乗客は「高い運賃を払って今乗るか、時間や乗車場所をずらして乗るか」を選ぶことができる。

割増倍率は乗客にも表示される。時間をずらして安く乗るという選択も可能だ
割増倍率は乗客にも表示される。時間をずらして安く乗るという選択も可能だ

40%の単価引き下げで乗車回数は2倍に

 Uber Japanの配車サービスは2018年5月に淡路島からスタートした。その後2年でエリアを名古屋、大阪、仙台など全国11地域へと拡大している。東京都には2020年7月に進出し、現在は都内15区へサービスを広げている。

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 Uberはライドシェアアプリの先駆けといえる存在だが、日本における事業展開では「タクシー配車アプリ」という形態で運営されている。エリア展開もタクシー会社と連携できた地域から順次拡大していった形だ。

 Uber Japanではダイナミック・プライシングの導入に向けて、運賃の引き下げによる売上の変化を主とした独自の実証実験を行っている。広島、京都、名古屋で実施し、東京と福岡でも進行中という。

Uber Japanはタクシー運賃を自動割引するという形式で、ダイナミック・プライシングの可能性を検証している
Uber Japanはタクシー運賃を自動割引するという形式で、ダイナミック・プライシングの可能性を検証している

 2020年11~12月に行われた広島での実証実験は、利用者を2つのグループに分け、片方に20%の割引運賃を適用した。その結果、20%割引を適用したグループでは、1人あたりの乗車回数が36%増加。乗車距離も5%増加したという。運賃単価は下がっているものの、結果として1人あたりの利用金額は15.7%増加する結果となった。

 京都と名古屋での実証実験では、割引を0%、10%、20%、40%の4種類用意した。その結果、割引率が高かったグループほど乗車回数が顕著に増え、1人あたりの利用金額の向上につながった。京都と名古屋の実験は2021年2月中旬から8週間に渡って実施されたが、割引率を高くしたグループは実験期間が進むにつれて利用頻度が増していったという。


京都での実証実験の結果。ダイナミック・プライシングの割引率が高いほど1人あたりの利用額が多くなる傾向が見られた

 こうした実証実験の結果から、Uber Japanでは「割引率が高いほど乗車頻度が増える」と分析。弾力的なダイナミック・プライシングが導入できれば、タクシー会社の収益改善にも繋がるとしている。国土交通省が導入を検討している変動運賃制に対して、弾力的な運賃設定が可能となるよう働きかけているという。

 また、同社の調査では、Uberアプリのユーザーは75%が40代以下としており、60歳以上が6割を占める日本のタクシーの利用者とはユーザー層が大きく異なる。ダイナミック・プライシングの導入によって、新たな利用者層の発掘につながると主張する。

 なお、Uber Japanの実証実験には、実際のダイナミック・プライシング制度とは異なる部分もある。1つには「割引クーポンを配布する」という形態を取っていることだ。価格が低下した場合の利用率向上の効果のみを示しており、価格が上昇した場合の売上の増減影響は検証できない。

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Uber Japan 政府渉外・公共政策部長 西村健吾氏

 また、実証実験では全時間帯で割引が適用されるため、ピーク時間帯の利用も増えている可能性が高い。ただしこの点についてUber Japanの西村氏は「たとえば、名古屋では40%オフの適用で乗車回数が2.1倍となった。これはピーク時間帯だけの利用では達成できない数字だろう」と補足している。

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