タクシーのダイナミック・プライシングは「変動幅が大きいほど効果的」--Uberの主張とは - (page 2)

日本のダイナミック・プライシングはどうなるのか

 Uber Japanは独自の実証実験をもとに、国土交通省への提案を行っている。同社の主張は「“Real”なダイナミック・プライシングを導入するべき」というもの。割引・割増率が限られるなど、実効性が乏しい内容となると、十分な需要創出効果が発揮できないとする。

Uberが主張するダイナミック・プライシングの要約。弾力的な価格設定や柔軟な申請制度、早期の導入を求めている
Uberが主張するダイナミック・プライシングの要約。弾力的な価格設定や柔軟な申請制度、早期の導入を求めている

 それでは、日本でのダイナミック・プライシング導入の議論はどのように進められているのだろうか。

 政府によるダイナミック・プライシングの議論は規制改革推進会議が主導し、経済産業省が5月28日に発表した第2次交通基本政策にも盛り込まれている。国土交通省はこの内容を踏まえて、2021年度中に実証実験を行い、2022年度以降に制度化する方針だ。

 つまり、ダイナミック・プライシングの導入自体は決まっているが、実際にどのような制度設計となるのかは今後の検討課題となっている。

 制度設計のうち、実施内容の一部はほぼ固まっている。ダイナミック・プライシングは、対応する配車アプリから予約した場合のみ、適用となる。割増率は乗客に表示され、目的地までの概算運賃も事前に示される。確定運賃制となるため、最初に提示された運賃で利用することが確約される仕組みだ。タクシーの供給台数が多い都市部からスタートし、段階的にエリアが拡大することになるだろう。

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Uber Japan モビリティ事業 ゼネラルマネージャー 山中志郎氏

 今後の議論で注目されるのが、ダイナミック・プライシングでの運賃の変動幅だ。どのくらいの変動幅が適切なのかは「タクシー業界のさまざまな事業者にヒアリングしているが、誰に聞いても違う答えが返ってくる」(Uber Japan 山中氏)という状況といい、探り探りのスタートとなりそうだ。

 ただし、この変動幅について国土交通省はヒントを提示している。5月31日付けの東京交通新聞によると、同省の秡川直也自動車局長は「2割増し・1割引き」という想定を明かしている。Uber Japanの主張は、国交省が想定する水準では、ダイナミック・プライシングとして効果が発揮されないため、より大きな変動幅を実現するべき、ということになる。

 また、ダイナミック・プライシングの導入時期についても、Uber Japanはなるべく早期の実現を要望している。西村氏は「現在の政府のシナリオ通りなら、2022年度に導入し、変動幅が拡大するのはその効果を見てからとなるため、23年度以降になるだろう。しかし、タクシー業界の需要創出の効果を踏まえると、今から2年後ではなく、なるべく早期に実現するのが望ましい」と述べている。

ダイナミック・プライシングが解除されるケースとは

 なお、ダイナミック・プライシングの適用が一時的に解除される場合もある。それは、台風の直撃時や地震災害の発生時など、大規模な災害発生時だ。

 Uberでは過去に、米国でのハリケーン直撃時にダイナミック・プライシングが急騰して批判を浴びた経験がある。また、オーストラリアでのテロ事件発生時にダイナミック・プライシングが同様に急騰し、返金する事態となった。こうした事例から、緊急災害時にはダイナミック・プライシングを停止するポリシーを定めているという。

 日本においてはダイナミック・プライシングは配車アプリでの適用を前提としているため、駅のタクシー乗り場から乗車すれば従来のメーター運賃となる。一方で、ダイナミック・プライシングに多くのタクシーが流れると、タクシー乗り場での乗車が困難になるおそれもある。極端に需要が急騰する非常事態時などには、ダイナミック・プライシングは停止するのが望ましいだろう。

タクシー業界の希望の光になるか

 ダイナミック・プライシングの導入を巡っては、タクシー業界もおおむね前向きな姿勢を見せている。

 たとえば法人タクシー事業者の業界団体、全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)は2017年に公表した「タクシー業界において今後新たに取り組む事項について」という意見表明において、取り組むべき11の検討課題の1つとしてダイナミック・プライシングを挙げている。

 その背景にはタクシー事業者の共通の危機感として、需要の縮小が挙げられる。タクシー業界では2000年代初頭の規制緩和により、小規模な事業者が大幅に増加した。その結果、過当競争に陥り、業界全体が疲弊した背景がある。

 規制は再度強化されたものの、依然として供給過多の状態が続いており、経営状態の目安となる実車率(稼働率)は全国平均では42.3%程度(2016)と、適正水準とされる50%を下回っている。また、多くの運転手が歩合給制で働いており、実車率の低さは運転手の待遇の低さにも繋がっている。

 実車率の向上は業界の長年の課題とされているが、向上を目指すための打ち手を欠いている状況だった。ダイナミック・プライシングで新しい需要が発掘できるとしたら、タクシー業界にとっては希望の光となるだろう。

Uberの試算では、ダイナミック・プライシングにはタクシー業界の売上高減少を反転させる効果があるとしてる
Uberの試算では、ダイナミック・プライシングにはタクシー業界の売上高減少を反転させる効果があるとしてる

 一方で、タクシー事業者の中にはダイナミック・プライシングに否定的な意見もある。山中氏によると「同じ系列のタクシー会社の中でも、ダイナミック・プライシングに慎重な事業者もある。そうした事業者は当初、ダイナミック・プライシングの適用対象外となるだろう」としている。

 Uber Japanではダイナミック・プライシング対象のタクシーとメーター運賃のタクシーの両方が配車可能な場合、運賃と待ち時間を比較して選べるような仕組みを用意する方針だ。

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