米Facebookは5月20日、同社のプライバシーへの取り組みに関する説明会を実施。公共政策担当ディレクターであるスティーブ・サターフィールド氏が、近年注目されているFacebookのプライバシーに関する取り組みと広告、規制のあり方などについて説明した。
スティーブ氏は、Facebookにとってプライバシーは「現代社会を決定づける課題の1つであり、将来のビジョンの軸となるもの」だと説明。コミュニケーションをビジネスとしている同社にとって、利用者のプライバシーを守ることは非常に重要との認識を持っているという。
ただし、プライバシーは人や文化によって求めるものが異なる、非常に難しい概念でもある。そこでFacebookでは、データの収集は最小限にとどめる、自身のプロダクトではないものに関するデータ収集を認めない、データの収集や利用、共有のプロセスを透明化することなど、プライバシーに求められる要素を8つにまとめ、それらを指標として各プロダクトのプライバシーに関する検討を進めているのことだ。
その上で、Facebook社内では4つの軸を設けてプライバシー保護に取り組んでいるとのこと。1つ目は「プライバシーの観点からの審査」で、エンジニアから広報、マーケティングなどあらゆるチームの担当者が話し合い、プロダクトをデザインするにあたって、いかにプライバシーリスクを最小化できるか、話し合って決めているという。
2つ目は「体制の見直し」で、プライバシー保護のモニタリングやコンプライアンスの定期的なリポート、さらに経営層の説明責任対応なども実施し、社内全体でプライバシーに対する責任を持っているとのこと。さらに同社では、プライバシー専門の取締役と独立した評価機関を設けるなどして、プライバシー専用の管理体制も整えているという。
3つ目は「第三者機関」で、Facebookのアカウントを使ってログインする機能を利用するサービス開発者に、新しい規約やポリシーを採用してもらい、プライバシー保護への理解を進めているほか、1年に1度、開発者が権限を審査してFacebookのポリシーに準拠していることを確認する「データアクセス状況の確認」を導入しているとのこと。そして4つ目は「設計」で、プライバシーに配慮しデータ利用の透明性を担保するべく、ユーザー体験のデザイン設計に配慮しているという。
スティーブ氏はさらに、広告と利用者のプライバシーデータ管理のあり方について説明。Facebookでは利用者のデータ利用の透明性を高めるため、簡単な質問に答えて大事なプライバシーに関する制御ができる「プライバシー設定ツール」や、個人情報をどう扱うべきか、投稿やアクティビティをどう管理するかなどについてユーザー自身が管理できる「個人データ管理ツール」などを提供しているという。
その上で、スティーブ氏は広告のパーソナライズ化について説明。Facebookは利用者のデータを信頼に基づき責任をもって管理した上で、広告のパーソナライズ化に使用しており、表示される広告に関しても、特定の利用者をターゲットにした広告が、特定の条件を満たした利用者に表示されるとする理由を明記しているという。
同社はデータを活用した広告のパーソナライズ化をビジネスの軸としているが、「個人のデータを売買してお金を稼いではいない」ともスティーブ氏は説明。同社のサービスは世界30億人に利用されていることから、データを守ることが利用者から信頼を得る上で重要な要素となっており、データの管理に多額の資金と時間を費やしてプライバシー情報保護の研究をしていると話す。
さらにスティーブ氏は、プライバシーと規制のあり方についても言及。同社を始めとした米国のIT大手がプライバシー規制に反対しているのは誤解であり、「世界的に一貫したプライバシー規制を作って欲しいと望んでいる」と話す。プライバシーに関する規制が国によってまちまちであることから、同社としては各国の政府と協力し、世界的に一貫性のある包括的なプライバシー規制を作る取り組みを続けているそうだ。
その上でFacebookとしては、利用者が安心できるデータ管理をするとともに、利用者が好みの方法で削除や移動ができるデータアクセス環境を提供することを基本原則としているとのこと。そこでデータを保有している企業は説明責任を果たし、世界中どこに住んでいても一貫した強固なプライバシー保護を提供することが大事だとしており、「世界規模で一貫した規制を推進し、利用者とビジネスの双方にメリットがあるようにしなければならない」と話した。
では、昨今話題となっている、米アップルの「iOS 14.5」によるアプリを通じたトラッキング許可の義務付けについて、Facebookはどう考えているのだろうか。この点についてスティーブ氏は「オンライン広告の透明性を高めたいというゴールとしては正しく、Facebookも同じだ」と賛同する一方で、「アップルが自らの製品に特権を有し、有利な立場を使っているというプロセスが問題」と指摘する。
具体的には、アップルがFacebookをはじめとしたアプリを提供する企業に対し、iOS 14.5の一連の措置でパーソナライズ化されたデータを使わないよう促しているにもかかわらず、アップル自身もパーソナライズ化された広告を展開しており、自社のプロダクトはその対象となっていないとスティーブ氏は問題視する。
またスティーブ氏は、一連の措置がインターネットサービスの本質的な部分でも問題になってくると見ている。Facebookはパーソナライズ化された広告で収益を得ることにより、フリーでオープンな環境を提供することを重視しているが、アップルは自身に直接お金を支払うことで初めて体験価値を提供することを重視しているとスティーブ氏は話す。
そこでもしパーソナライズ広告が展開できなければ、多くの事業者は別の収益源としてアプリによる課金ビジネスを展開する必要があり、その場合はアプリ配信プラットフォームを持ち、アプリ課金から15〜30%のマージンを得ているアップルだけにメリットがある状況が生まれると指摘する。iOS 14.5での一連の措置はアップルに大きなメリットがある一方で、消費者の機会を奪うことになるというのがFacebookの反対理由のようだ。
一方で、iOS 14.5におけるユーザーのトラッキング設定状況については、「全ての人が同じようにアップグレードするわけではなく、時間がかかる」とスティーブ氏は話し、現時点で明確な数は分からないという。しかし、アップルの措置に異を唱える人も多いことから、「利用者の中でも(トラッキングの拒否に)ノーという人が多いのではないか」とスティーブ氏は考えを述べた。
またFacebookはここ最近いくつかのサービスで、公開された情報を収集する「データスクレイピング」による情報流出の被害に遭っているが、この件については、データスクレイピングが規約に違反する行為であり「全く許容できない」とスティーブ氏はコメント。ただし、データスクレイピングは公開されている情報を取得する行為でありハッキングとは異なる対処が求められる上、「LinktIn」や「Clubhouse」など他のサービスでも被害が起きていることから、「業界が一緒になって対応しないといけない問題だ」との認識を示した。
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