携帯大手4社の決算が出揃った。先行投資が続く楽天グループを除けば、2020年度通期で増収増益を達成するなど好調だったが、2021年度は「ahamo」「povo」などのオンライン専用プランをはじめとした料金引き下げの影響が如実に現れることとなる。その影響の大きさと今後の対処について、各社の決算説明会の内容をもとに追ってみたい。
まずは各社の決算を振り返っておこう。楽天グループの2021年度第1四半期決算は、売上高が前年同期比18.1%増の3915億円、営業損益は373億円と、引き続き楽天モバイルへの先行投資で引き続き赤字決算となっているが、他の3社の業績は非常に好調なようだ。
実際、NTTドコモ(以下ドコモ)の2020年度決算は売上高が前年度比1.5%増の4兆7252億円、営業利益は前年度比6.4%増の9132億円。またKDDIの2021年3月期決算は売上高が前年度比1.4%増の5兆3126億円、営業利益は前年度比1.2%増の1兆374億円。ソフトバンクの2021年3月期決算は売上高が前年度比7.1%増の5兆2055億円、営業利益は前年度比6.5%増の9708億円となっており、いずれも通期での増収増益を達成している。
3社が好調な要因はおおむね共通している。市場の飽和や政府による料金引き下げ要請などによって通信事業が落ち込む一方、金融やEコマースなどのコンシューマー向けサービスと、コロナ禍で急増した企業のデジタル化需要拡大による法人向けソリューション事業が大きく伸びることでそれを補っているのだ。
その一方で、通信事業に関しては菅政権による料金引き下げ圧力の結果、2021年3月には「ahamo」「povo」「LINEMO」といった低価格・大容量のオンライン専用プランが相次いで投入されるなど、従来より安い新料金プランの投入を余儀なくされている。
しかも、ドコモによるとahamoの契約数は2021年4月末時点で100万契約を突破しているほか、KDDI代表取締役社長の高橋誠氏も、povoに関して「なんとなく100万が見えてきた」と話すなど、短期間のうちに多くの顧客を獲得しているようだ。
そうしたことから、2021年度は新料金プランによる料金引き下げの影響が業績を直撃することは確実で、好業績を維持するためのハードルは大幅に上がることとなる。その影響についてKDDIの高橋氏は「ざっと計算すると600〜700億円」、ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏も「700億円」と話していた。
さらに契約数が多いドコモは、具体的な数字を明らかにしなかったものの、より大きな影響を受けるものと考えられる。同社代表取締役社長の井伊基之氏は、さまざまな対策を打って減少幅を抑えることにより、2021年度の通信事業の営業利益を「111億円減にとどめる」と話していたが、裏を返せば多くの策を講じてもなお、それだけの利益が確実に吹き飛ぶと見ることもできる。
楽天モバイルを有する楽天グループも、料金引き下げの影響は大きく受けている。同社は、ahamoなどの登場で料金面での優位性が失われた結果、月当たりの通信量が1GB以下の場合は月額料金が0円になる「Rakuten UN-LIMIT」を投入するに至っており、当初の想定ほど通信料収入が得られない可能性も高まっている。
楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、通信量を1GB以下に抑える人が「極めて少ない」と話し、現在のところは大容量通信を活用するユーザーの方が多いとの見方だ。だが今後、300万人以上に提供していた1年間無料キャンペーンが終了するユーザーが増えていくだけに、その傾向が今後も続くかは未知数だ。
一連の料金引き下げが政治主導である以上、各社が好業績を維持するには必然的に、(1)通信以外の事業を強化する、(2)通信事業のコスト削減を推し進めて利益を増やす、という2つの策を取る必要がある。
各社はこれまで、前者の通信以外の事業拡大を積極的に推し進めてきただけに、今後その流れは一層加速することになるだろう。中でもソフトバンクはLINEを実質的な傘下に収めたことで、その顧客基盤とコンテンツ、サービスを通信と連携してビジネスを拡大できる体制が整ったことは大きい。
また各社は料金引き下げを逆手に取り、低価格のプランを充実させて顧客基盤を拡大し、サービス利用を拡大することに力を入れていく考えのようだ。高橋氏は、サブブランドとなったUQ mobileの統合を「やっておいて良かった」と話しており、低価格領域の強化で3つのブランド・プランで幅広い顧客にアプローチできる“構え”を料金引き下げが本格化する前に整えられたことが、今後大きな強みになると見ているようだ。
その低価格の領域に関して唯一、動きを見せていないのがドコモだが、井伊氏は今回の決算説明会で、ahamoより低価格の「エコノミー」の領域に関して具体的な方針を言及した。同社はこれまで、エコノミー領域に関してMVNOと連携する方針を示していたが、井伊氏は新たに、「dポイント」の会員基盤「dポイントクラブ」を活用してもらうことを複数のMVNOに打診していることを明らかにしている。これはMVNOをdポイントのエコシステムに取り込むことで、dポイントと連携したサービスの利用拡大につなげる動きと言えるだろう。
ただ、MVNOとの交渉は順調に進んでいないようで、「調整に時間がかかっている」とも井伊氏は話す。dポイントクラブの基盤を使うとなれば、MVNOがドコモから受ける影響もそれだけ大きくなるという懸念もあるだけに、どこまでMVNOを説得して仲間を増やせるかが、同社にとっては勝負になってくるといえそうだ。
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