NTTは5月12日に2020年度の連結決算を発表。売上高は前年度比0.4%増の11兆9440億円、営業利益は前年度比7%増の1兆6714億円の増収増益となった。完全子会社化したNTTドコモ(以下ドコモ)の通信料や端末販売などの収入が減少した一方、同じくドコモのスマートライフ領域の好調や、国内のデジタル化需要の高まりによるシステムインテグレーション関連の事業が大きく伸びる形でそれを補い、NTT代表取締役社長の澤田純氏によると「過去最高を更新した」という。
それを受ける形で2021年度の業績予想は、売上高が前年度比560億円増の12兆円、営業利益が前年度比586億円増の1兆7300億円と、引き続き増収増益を見込むとのこと。ドコモの「ahamo」など値下げプラン導入による顧客還元の影響を強く受ける一方、引き続きデジタル化需要の獲得と、ドコモのスマートライフ領域の伸びなどを見込むとしている。
一方で中期経営戦略の見直しに関しては、ドコモの完全子会社化を受け総務省が進めている有識者会議「公正競争確保の在り方に関する検討会議」の報告書が出るのを待つとし、報告書が出た後に改めて公表するとしている。
澤田氏は同日に実施された決算説明会の冒頭、NTT幹部による総務省関係者らへの接待・会食などに関する一連の問題について「関係者に多大な迷惑とご心配をかけたことを深くお詫び申し上げる」と改めて謝罪。現在は3月9日に立ち上げた特別調査委員会で事実関係の解明に向けた調査を進め、再発防止の取り組みを徹底するとともに、今後の取り組みは特別調査委員会からの調査が出た後に改めて公表するとしている。
またこの問題に関連して、先の総務省有識者会議に対し、KDDIやソフトバンクなど競合の21社は連盟で、一連の問題が検証される前にNTTグループ内での再編が一方的に進むことがないことなどを求める意見書を提出している。この件については総務省内でも一連の問題に関する「情報通信行政検証委員会」が実施されている。澤田氏も、その検証が進まなければ公正競争の検討に関する結論を出すのは難しいと見ているようで、「その中でわれわれが先行して施策を進めるのも難しい状況だと認識している」と話した。
そうしたことから、ドコモによるNTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアの子会社化に関する議論は「遅れていく部分はあるかと思う」と澤田氏は答えた。ただし、組織統合をせずにできる取り組みについては、議論を進めているとのことだ。
NTTの主力子会社となるドコモの2020年度決算は、売上高が前年度比739億円増の4兆7252億円、営業利益が前年度比586億円増の9132億円。「ギガホ」「ギガライト」など顧客還元の影響による通信料収入の減少や、端末販売の減少などが響いて通信事業は売上高が前年度比で微減となる一方、スマートライフ領域の売上高が前年度比839億円増の1兆815億円となるなど、好調を維持して増収増益の決算となった。
また2021年度の業績予想は、売上高が前年同期比648億円増の4兆7900億円、営業利益が前年同期比68億円増の9200億円と、引き続き増収増益を見込むとしている。とりわけ通信事業に関しては、ahamoなど新料金プランによる料金引き下げの影響が本格化することで営業利益が大幅に減少するものの、それらプランによって顧客基盤を拡大し、端末販売拡大など他の部分を伸ばすことで減少幅を「111億円減にとどめる」と、ドコモ代表取締役社長の井伊基之氏は意欲を示す。
実際、3月にサービスを開始したオンライン専用プランのahamoは、すでに100万契約を突破しているとのこと。従来にない領域のサービスを提供したことで「他社に流出した人も一定程度戻ってきている」と井伊氏は話しており、2020年12月と2021年1月に続き、2021年4月にも契約数は純増を記録したという。
そこで2021年度は、ahamoより安い価格帯の「エコノミー」の領域に関する取り組みを推し進めていくとのこと。その内容について井伊氏は、複数のMVNOに「単に安い料金メニューを出すだけでなく、dポイント会員基盤にぜひなっていただけないかとお願いしている」説明。調整に時間がかかっているというが、dポイントやサービス面での連携を進める方針を示した。
そしてもう1つ、2021年度に井伊氏が力を入れるとしているのが販売チャネルのデジタル化である。ドコモショップやコールセンターでのデジタル化による業務効率化を推し進めるだけでなく、ドコモショップなどを地域のICTのサポートや、デジタル化を推進するための拠点へと役割を広げる考えを示した。
井伊氏は、ahamoの店頭での有料サポートを提供したのも「顧客のデジタル化を支援するための一環として始めたもの」と話しており、今後顧客のデジタル化のサポートを有料で展開していくことで、ショップや代理店の役割を再構築していきたい考えを示す。一方で、社会全体でのデジタル化が進んだ暁には「今の店舗数がいつまでも必要かどうかは別の議論」とも答えており、環境が整えば将来的にショップの統廃合を進める可能性があることも示唆した。
スマートライフ領域に関しては、「dカード」「d払い」などで注力している金融・決済の取り組みを拡大する考えを示している。ドコモは決算発表前日の5月11日に、三菱UFJ銀行とデジタル金融サービス提供に向けた提携を発表しているが、それも新たな金融サービスを創出するための取り組みの一環になるようで、「金融関係の商材がまだまだ少ないという問題意識が生まれている。会員基盤の結合だけでなく、両者の強みを合わせた新たな金融サービスを提供したい」と話した。
ドコモは他の銀行とも提携してさまざまな取り組みを進めているが、井伊氏によると三菱UFJ銀行とは「ノンエクスクルーシブでやろうと進めている」とのこと。一方で「競合する領域はやらない」とも答えており、他の銀行とは領域の異なるサービス開発を進めていく考えのようだ。
また井伊氏は、スマートライフ領域の拡大に向け、法人事業の強化も積極的に推し進めていく考えを示している。具体的には5Gを活用したビジネスソリューションの国内外への展開、そして5月13日より提供する、法人向けの「ビジネスdアカウント」を活用した、法人顧客のデジタル化推進だという。
5Gに関しては、契約数が2020年度の時点で309万に達し、当初の目標だった250万を突破しているとのことで、2021年度は1000万契約獲得を目標にするとしている。一方で、2021年度に5G基地局を2万局設置し、5Gの実力を発揮できるスタンドアローン(SA)運用への移行を進めるという計画は大きく変わっていないが、井伊氏はSAへの移行について「なるべく早くやりたい」と話し、早期の移行開始を示唆した。
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