西濃運輸を傘下に持つセイノーホールディングス(以下、セイノー)と、ドローンスタートアップのエアロネクストが、山梨県小菅村で4月末に新たな配送サービスをスタートする。ラストワンマイルにおける輸送手段にドローン配送を加え、これを日常的に運用して“小菅モデル”を確立し、将来的には日本全国817の過疎地域への展開を目指すという。
両社は1月に、新スマート物流の事業化に関する業務提携契約を締結しており、小菅村でのドローン配送はこの一環だ。今回の具体的な取り組みは2つ。小菅村までの陸上輸送を、セイノーが同業他社などに呼びかけて共同配送に切り替え効率化を図ること。そして、既存の陸上輸送とドローン配送を連結・融合するスマートサプライチェーン「SkyHub」をセイノーとエアロネクストが共同開発することだ。
山梨県東部に位置する小菅村は、東京からクルマか電車で約2時間の多摩川源流地域。最近ではクラフトビールメーカーのFar Yeast Brewingが本社を渋谷から小菅村に移転するなど話題の村で、人口約700人の過疎地だが共働き子育て世帯や移住者も多い。エアロネクストは2020年11月に小菅村とドローン配送による地域活性化を図るための協定を締結、2021年1月にはドローン配送サービスを主事業にする戦略子会社「NEXT DELIVERY」を小菅村に設立して、村民の理解と協力を得ながらこの取り組みを進めてきた。
現在、村内には「ドローンデポ」と呼ばれる、既存物流で運ばれてきた荷物を一時保管しドローン配送の起点となる倉庫と、荷物をドローンが置き配して村民が受け取る「ドローンスタンド」を設置中で、ドローンが運航するルートの開設も合わせて計画中だという。
セイノー ラストワンマイル推進チーム 執行役員の河合秀治氏と、エアロネクスト代表取締役 CEOの田路圭輔氏に、小菅村での取り組み内容や狙いを聞いた。
——最初に、業務提携の背景を教えてください。
河合氏:ご存知の通り、物流業界は人手不足やドライバー不足が深刻ですが、一方で営業用トラック全体の積載率は40%前後という、ほとんど空気を運んでいる状況です。セイノーは物流業界全体としての効率化を図るために、オープン・パブリック・プラットフォーム(O.P.P)の構築を提唱し、佐川さんなど同業他社との提携や連携を積極的に進めてきました。実際にいま物流業界では、共同配送や連結トラックなどの新たな取り組みが次々と生まれ、ラストワンマイルにおいても東京都内の館内配送などは、仕組みがだいぶ出来上がっております。
小菅村のような物流課題が多い地域においても、同業他社さんと手を組みながらオープンに物流の最適化を図っていく必要があります。今回のドローン宅配も、各社のドローンがバトルし合うということではなく、「オープンな動きのなかでの輸送手段の1つ」として位置付けて、各配送事業者さんの配送システムとドローン運航システムを連携できる仕組みを構築する予定です。同じ想いで本気でコミットしていただける企業様にはどんどん入っていただいて、知恵を出し合って、新たな物流の形を作っていきたいと思っています。
田路氏:ドローン配送実証実験は、これまで数多く行われてきましたが、ある荷物とあるユーザーを1対1で結びつけて、顧客不在のままドローンをいくら飛ばしても、およそビジネスにはなりません。「ドローン配送が誰のどんな課題を解決するのか」という“リアリティ”がないからです。だから僕は、実際に輸送を行っている事業者と一緒に取り組んで、「不特定多数の荷物を不特定多数のユーザーに、多様な手段で輸送する」という新たな物流システムのなかで、ドローン配送サービスの立ち上がりを自ら証明していきたいと考えていました。
輸送会社のなかでもセイノーさんはB2Bの幹線物流の会社ですが、幹線物流の未来のためにはラストワンマイルの課題を解決することが不可欠だというビジョンをお持ちです。そしてセイノーさんが目指す未来のなかには、ドローンがちゃんと組み込まれていて、これはとても嬉しいことでした。セイノーさんと組めたらいいなと思っていたところ、河合さんという行動力とビジョンのある方と出会えたので、迷うことなくセイノーさんと一緒にやっていこうと決めました。
——セイノーはこれまで、いくつかのドローン配送実証実験に参画しています。今回、両社が業務提携にまで至ったのはなぜでしょうか。
河合氏:過去にいろんな事業者さんと一緒に、実証実験という名の飛行テストを何度か繰り返して、そのたびに私も現地へ行きました。けれども、おばあちゃんにお弁当を届けるといったテストが1日で終わってしまう。なかなか世のため人のために直結しないし、「物流の未来にドローンを組み込んではいるけれども、ドローンのリアリティがいまひとつ描けない」という課題感が拭えなかったのです。
そんなとき田路さんに出会いました。「やっぱり社会実装して、毎日ドローンが飛んでいる状態を作ることがまず第一歩なのでは」と聞いて、その通りだなとすごく刺さりました。そして、具体的に小菅村という場所を提示していただいたので、われわれも本気で現地に入って取り組もう、やるからにはたくさんの仲間を集めることも重要だと思い、グループとして業務提携という形を取らせていただきました。
田路氏:「僕が具体的な地域をちゃんと見つけてきます、だからドローンのリアリティを一緒に探しませんか」と、最初からお伝えしていました。それから小菅村という場所が見つかって、現地の方々とのコンセンサスも取れてきて、2020年11月に小菅村と協定を発表した頃から、セイノーさんとの会話量がグッと上がってきています。
——小菅村での取り組み内容を教えてください。
河合氏:過疎地域の人口減少と高齢化はますます進み、日本全国817の過疎地域が増えていくなか、過疎地域における物流のスマート化は非常に重要な問題ですが、小菅村も週3日配送というご迷惑をおかけしているエリアになります。小菅の荷物量は、1日あっても数トンレベルと少量であるため毎日配送できなくて、1配送あたりの積載率も高くないため採算を取りづらい、いわゆる「配送限定地域」です。各運送会社さんにとっても、荷物量は異なれども負担が重いエリアなのは間違いないので、たとえセイノーでなくてもどこかがまとめて運んでいく共同配送の体制が取れると、各社ともに助かるのではないかと考えています。
——共同配送で小菅村に荷物を運び、ドローンデポに一度集約して、そこからドローン配送するということですね。
河合氏:そうですね。ラストワンマイルになる手前の「ラストマイル」については、共同配送でドローンデポに運び、ドローンデポ側には複数の輸送手段を持たせます。これにドローン配送がオプションとして加わるイメージです。貨客混載に近いものや、村内を走るバスなども輸送手段として活用できると考えています。
というのも、ドローンは直線的な短距離で配送できて効率的ですが、天候などに左右されて配送にムラがあるのが課題です。100%届けられる仕組みを担保しつつ配送手段を多様化し、ドローンの機能を生かせるところではドローン配送を行う予定です。要は、既存の陸上輸送とドローン配送を組み合わせることに価値があるので、両者を連結・融合するスマートサプライチェーン「SkyHub」をわれわれで共同開発するということです。
——両社はどのような役割分担で、SkyHubを手がけていくのでしょうか。
田路氏:陸上の輸送はセイノーさん、空中の配送はエアロネクストの領域で、その接合点となるドローンデポを共同運営していくことになります。河合さんがおっしゃったように、ドローンは万能ではなく天候などによって運べないときもあるので、地上で運びきることを大前提にしつつ、採算があっていない効率が悪い部分を積極的にドローン配送に置き換えていくことで、全体の効率化を図っていきます。
——ドローン配送は何を運び、どれくらいの比率で稼働する予定ですか。
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