田路氏:最初は、医薬品や生鮮食料品などを運び、ドローンデポにある荷物量の15%を目標にドローン配送を始めます。80サイズで5kg未満というECで最も動いている荷物は、ちょうどドローンが運べるものですが、現在の全物流の約40%を占めるといわれているので、小菅村でもドローン配送の比率を少しずつ引き上げたいと考えています。
——利用者である村民は、どのような便益が期待できるのでしょう。
河合氏:まずは週3日配送から、常時配送に切り替えられると見込んでいます。従来より短い時間で、購入した商品の受け取りが可能になります。
——ラストワンマイルのドローン配送を社会実装するにあたり、いま最も苦労していることは何でしょうか。
河合氏:エアロネクストさんが村長はじめ村民の皆さんとコミュニケーションをかなり密に取ってくださっていることもあって、ドローンデポやわれわれの拠点も空き家をうまく割り当てていただくなど、非常に順調に進んでいます。村内の皆さんはとても協力的でご期待も大きいのですが、いざ始まるとバグも含めていろいろなことが起きると思うので、村内の方々の話を聴きながら修正し、期待を裏切らないようにしないといけないなと思っています。
田路氏:苦労しているというわけじゃないのですが、一番エネルギーをかけていることでいうと、ルートの開設です。いま1ルート目が決まりかけているところですが、小菅村にはあと7ルート開設予定なので、ドローンを飛ばすこと自体に理解を得るという作業は丁寧に進めたいと思っています。
——ビジネスモデルはどのように検討していますか。
河合氏:基本的には従来通りの運送モデルです。発荷主さん、利用者さんともに既存の輸送料負担のなかで、ドローン配送というオプションを選択いただけるようになります。ただ先々には、たとえばピザ窯で焼いたピザをドローンで届けてほしい、緊急で薬を届けてほしいといったオーダーなど、村内の利用者さんから輸送料をご負担いただくことも出てくるかなと思っています。
田路氏:そうですね。いったんは共同配送にせよドローン配送にせよ、1配送あたり数百円という既存料金の配分が変わるだけなのですが、ドローン事業側として意識すべきは、これまで運ばれていなかったものを新たに運ぶという需要を喚起してそこにドローン配送をアジャストさせて、市場を大きくしていくことだと思っています。
ここでキーポイントになるのは、「いますぐ欲しい」という時間価値です。既存物流はルート配送なので順番があり、どんなに短くても30分単位でしか到着時間をコントロールできないし、陸上輸送である限り遠回りせざるを得ませんが、ドローンだけは直線のピンポイント輸送ができます。利用者が欲しいと思ったときに、荷主がその荷物をドローンに託せば、全国どこへでもドローンが運んでくれる。10年や20年で実現できないかもしれないけれど、これこそ僕がドローンで描いている未来です。
——今後、物流はどのように変わっていくと考えますか。
河合氏:セイノーグループはB2Bの物流を担う会社ですが、われわれの顧客がいま戦略上重要視しているのは「在庫をいかに持つか」です。在庫移動のために物流コストをかけるのは本当に無駄だということで、これは物流会社が言うのは変なのですが、「無在庫化、つまり需要を予測して物を動かす仕組みを作る」ことこそ、物流の最適化であると考えているのです。
人口減少と小口多頻度化によるドライバー不足を打開するため、物流無人化の1つの手段としてドローン配送を実装し、これを足がかりにAIを活用した需要予測やオンデマンド配送を行って、無在庫・無人化の「新スマート物流」を推進することを目指してます。
田路氏:需要を予測できれば、村や町全体を倉庫みたいにして品物を生活圏内に整備して経済的な循環を生むことができ、地域コミュニティの維持にもつながります。ドローン配送は、この一翼を担う存在を目指すべきだと考えています。無在庫・無人化とは究極のオンデマンド配送であり、オンデマンドこそドローンに一番向いているからです。セイノーさんの「新スマート物流」は、言葉やアプローチは違うけれど僕らが目指すのと同じ未来だと思っています。
河合氏:そうですね。本当に、目指すところは一緒だという分かり合えた感じがしています。
——SkyHubにおいては、SkyHub IDという新たな識別番号の発行も検討されています。
河合氏:はい。既存物流では住所が最終到達地点で、従来の荷物IDには住所が紐づいていましたが、ドローン配送ではドローンスタンドに届きますし、個人として受け取りたい荷物をコンビニで受け取るとか、不在票なんて要らないから置き配にしてくれというニーズも世の中的には増えており、「受け取りの自由化」が進んでいます。多様化する受け取り方法を取りまとめ、また荷物がドローンデポに届いたという通知をするにも、個々人が持つ新たなIDが必要だと考えており、これを「SkyHub ID」と呼んで最終調整中です。
——最後に、今後の展開について聞かせてください。
河合氏:共同配送については、同業他社さんにドローンデポを見ていただきつつ、話し合いを進めていきますが、少なくともセイノーの小菅村への荷物は一定量あるので、甲府の拠点からドローンデポに荷物が入ってくる流れは作れると思っています。
田路氏:ドローン配送サービスは4月末から稼働して、ドローンが常時運行している体制を1年くらいかけてしっかり整えていく予定です。また、次のステップとしては、ドローン配送オペレーションの標準化や荷詰めする箱の規格化なども絶対に必要になると考えており、実はすでに動き始めています。
河合氏:そして将来的には、小菅村モデルを全国817の過疎地域へ展開していきたいと考えていますが、エアロネクストとセイノーの2社だけで勝手にやるということではありません。同じ志の企業さんにはぜひ仲間に入っていただいて、できる限りいろんな方からの知見を集めて、よりよい形に仕上げていきたいですね。
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