長年にわたりライバルとの競争で苦戦を強いられてきたIntelが、ライバル各社が中核に据える戦略を取り入れ、他社開発のチップの製造に乗り出すことになった。この方針は新たに同社の最高経営責任者(CEO)に就任したPat Gelsinger氏が、米国時間3月23日に明らかにしたものだ。Intelはこれまで自社開発チップの製造にほぼ専念してきたが、新設の独立した事業部門Intel Foundry Servicesの開設により、そうした現状に変化が訪れることになる。
この変更が吉と出るなら、何十年にもわたりシリコンバレーの有力企業の座にあったIntelにとっては、大きな方針転換となる。Intelは長年にわたり、技術の優位性と「Intel Inside(インテル、入ってる)」をキャッチフレーズに掲げるマーケティングキャンペーンで、パーソナルテクノロジーの先頭を走っていた。しかし、近年はモバイル市場にうまく入り込めず、PC向けプロセッサーでも開発スケジュールに何度か遅れが生じている。
Intelの今回の動きは、テクノロジーのサプライチェーンを米国につなぎとめるのにも役立つ可能性がある。現在は政治家がアジアのメーカーへの依存を懸念している事情があることを考えると、これは強みになる。Gelsinger氏は、Intelは米国のプロセッサー事業を強化する政治的な取り組みを歓迎するとしながらも、今回のファウンドリー事業進出はこうした取り組みに依存するものではまったくないとした。
今回の戦略は、チップの大幅な不足により、自動車製造の遅れをはじめさまざまな問題が起きている中で発表された。ファウンドリー事業のトップを走るTaiwan Semiconductor Manufacturing Company(TSMC)は需要に応えるため、この2021年、チップ生産能力の強化に280億ドル(約3兆円)もの大金を投じる計画だ。
Intelがチップ製造の分野で優位性を失い、Apple、NVIDIA、Qualcomm、AMDら各社は、TSMC、サムスン、聯華電子(UMC)といったファウンドリーを採用するようになった。こうした業界の地殻変動の象徴が、TSMCが製造し、複数の新型Macが採用しているAppleのプロセッサー「M1」だ。M1は、処理速度とバッテリー省電力の性能において、複数のテストで競合するIntelのチップを上回っている。
Gelsinger氏は10ナノメートル(nm)プロセスへの移行の進捗や、2023年の7nmプロセスへの移行に向けた自信を示し、「Intelが帰ってきた。古いIntelは、未来を見据えて新しいIntelになった」と語った。
Gelsinger氏は、これまでのIntelのファウンドリーに対する取り組みを「不十分」だったと認めた上で、今回は違うものになると断言した。たとえば、今回のファウンドリー事業は独立した事業部門が担い、部門としての利益責任を負う。また、顧客向けに専用の製造能力を確保する予定だと同氏は説明した。
ただし、Linley Groupのアナリスト、Linley Gwennap氏は、Intelには別の課題もあると指摘する。それは7nmチップ製造の量産化や、5nmチップへのさらなる移行の促進、そしてより小さな「チップセット」を、単一のより強力なチップパッケージに統合する新技術の採用だ。
「仮にこれらの課題を解決できる人物がいるとすれば、Pat(Gelsinger氏)こそがその人だ」と、Gwennap氏はGelsinger氏を評価する。Gelsinger氏はIntelに30年間務めて最高技術責任者(CTO)まで上りつめたのち、同社を離れて過去約8年間はソフトウエアメーカーのVMwareに在籍していた。
Intelは発表したばかりの新戦略によって、Intel Foundry Servicesが同社にとって新たな稼ぎ頭になることを期待している。同社は200億ドル(約2兆1800億円)という巨額の資金を投じてアリゾナ州に2つのファブ(半導体製造施設)を新設し、顧客専用のファウンドリー設備を確保することで、依頼したチップをIntelが確実に製造するとの信頼感を、顧客に与える考えだ。
Intelの今回の動きは、Microsoft、Google、Amazon、Qualcomm、Cisco Systemsからも支持を得ているというが、具体的な内容は明らかにされていない。加えて、Intelはチップの技術やパッケージングの分野でIBMとの提携を発表した。「(Intel Foundry Servicesは)米国の競争力を高めるものとなるだろう」と、IBMの最高経営責任者(CEO)、Arvind Krishna氏は声明の中で述べている。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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