Appleのカスタムチップ「M1」と、それを搭載する新しい「MacBook Air」「MacBook Pro」「Mac mini」は、Intelにとっては悩みの種だ。Appleが自社製パーソナルコンピューターからIntelのプロセッサーを排除する「離婚手続き」は、2年ほどかかる見込みだ。
とはいえ、Intelの命運が尽きたわけではない。
Intelには、Appleの脅威からPC市場を守る幾つかの強みがある。Apple以外のPCメーカーは、そう簡単にはIntelから離れられない。Intelはいまだに、M1よりパワフルなハイエンドチップのリーダーだ。それに、状況改善のために必要十分な資金(182億5000万ドル相当の資産)を持っている。
Linley Groupのアナリスト、Linley Gwennap氏は「短期的には、重要な顧客を1社失う以外にはIntelのPC事業にとっての脅威はそれほど大きくはない」と語った。だが、これはIntelが安泰だという意味ではない。
Appleに「離婚」の理由を与えたことは、Intelの最近のさまざまな悪い兆しの1つだ。ムーアの法則による数十年にわたるプロセッサー業界の着実な成長や、PCのテクノロジー標準のけん引、データセンター向けチップの成功といった、Intelの過去の栄光は、最近の度重なる失敗のせいで影が薄くなってしまった。失敗には、プロセッサー業界におけるリーダー的な地位を失い、スマートフォン市場に参入しそこねたことなどが含まれる。Intelは結局、スマートフォン向けモデム事業をAppleに10億ドルで売却した。
調査会社IDCによると、MacのPC市場におけるシェアは約8.5%にすぎないが、Appleは特に巨大で影響力のあるテクノロジー企業の1つだ。MacBook Airシリーズはスリムで便利なノートPCの流行の先端を行き、MacBook Proはプログラマーやクリエイターの間で根強い人気を持つ。Appleは、ほとんどのWindows PCよりも数百ドル高いマシンを販売することで利益を得ている。
顧客としてのAppleを失うのはIntelにとって痛手になるだろう。New Street Researchのアナリスト、Pierre Ferragu氏は11月11日のレポートで、IntelのAppleからの収益は総収益の4〜5%に相当すると推定した。だが、これはIntelが対処する必要のある懸念事項の1つにすぎない。
Intelは、優れたチップの開発に「絶え間なく」注力していると述べた。同社は「競争はわれわれをより良くするものなので、歓迎だ」「Intelにしかできないイノベーションが多数あると信じている」としている。そこには、幅広い価格帯のPC向けチップや、企業でまだ一般的に使われている古いソフトウェアを実行できるチップの供給も含まれるという。
同社は、2021年投入予定のPC向けチップ「Alder Lake」のサンプルを開発する一方で、2022年にも新たなラインアップを供給するという。「2023年の製品で主導権を取れる自信を強めている」とIntelは述べた。
だが、Intelはそこに至るまでに幾つかの課題に直面することになるだろう。
AppleのM1登場に関わる大きな懸念の1つは、それがIntelの別のライバルであるQualcommを大胆にする可能性だ。同社は既にPC向けのモバイルベースのプロセッサーを販売している。
M1は、今日のほとんどすべてのスマートフォンで採用されているArmベースプロセッサーの1つだ。Androidスマートフォン向けプロセッサー設計大手であるQualcommは、PC向けのより強力なSnapdragonプロセッサーも推進しており、複数のPCメーカーがこのプロセッサーを採用したWindowsノートPCを販売している。
今のところ、ArmベースのWindowsノートPCは性能がいまひとつで、消費者の間ではもの珍しい製品でしかない。ArmベースのPCを普及させるには、メーカーがより良い価値と性能を示す必要があると、CCS Insightのアナリスト、Wayne Lam氏は語った。
AppleのArmベースのM1への移行は、Qualcommプロセッサーを採用するWindows PCメーカーとはかなり異なる動きだ。PCメーカーでAppleのようにIntelを完全に捨てた企業はなく、したがってソフトウェアメーカーは新たなプロセッサーのアーキテクチャーに製品を適合させる事態を心配する必要はそれほど大きくない。適合させるに越したことはないが、Qualcomm搭載PCのサポートはそれほど重要ではない。
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