MRデバイスやアバターロボットで「働く場をDX」--イトーキが提案する未来のオフィス

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 「常識を再定義するニュービジネスが前例なき時代を切り拓く」をテーマに、2月1日から約1カ月間にわたって開催されたオンラインカンファレンス「CNET Japan Live 2021」。2月25日に登壇したのは、オフィス家具で知られるイトーキにおいて、AI、IoT、ビッグデータ、クラウドといったテクノロジーを活用した次世代オフィスを研究している先端研究統括部 統括部長の大橋一広氏とスマートオフィス企画部の新居貴志氏だ。

イトーキ 先端研究統括部 統括部長の大橋一広氏(左上)、同社スマートオフィス企画部の新居貴志氏(右下)
イトーキ 先端研究統括部 統括部長の大橋一広氏(左上)、同社スマートオフィス企画部の新居貴志氏(右下)

 コロナ禍でオンライン、テレワークへとシフトしている昨今、以前と比べてオフィスなどのリアル空間の価値は間違いなく変化してきている。これまで働く場所や学ぶ場所を設計してきたイトーキにとっては、リアル空間とオンラインのサイバー空間との関係をどう構築していくのか、という新たな課題を突きつけられている格好だ。2020年に創業130年を迎えた老舗企業のイトーキが、人々が働くオフィスのあり方についてどんな未来像を描いているのか、現在の取り組みを語った。

オフィスは人と人との信頼関係を深める「協調の場」に

 オフィスや大学のキャンパスなど、働く場所、学ぶ場所の多くがオンラインへと変わり、それは2021年になってもいまだ現在進行形の状況だ。しかしオンラインで大半をカバーできているように見えることから、リアル空間の必要性は薄くなっていると感じている人もいるはずだ。

 ところが、イトーキでテクノロジーとデザインの両方の観点から研究開発をしている大橋氏は、「リアルな空間の重要性もますます高まっている」と断言する。そもそも2019年頃から政府方針としても掲げられてきた働き方改革によって、テレワークなどの動きは大企業を中心にすでに見られていたことでもある。コロナ禍で「数年かけようとしていた変革が、1年で対応せざるを得なくなった」だけであり、感染症の影響がなかったとしても「テレワーク化は進んでいた」と同氏は考えている。

イトーキではホームオフィス、シェアオフィス、サテライトオフィス、モバイルオフィスという4つのワークスタイルについて以前から研究を進めてきた
イトーキではホームオフィス、シェアオフィス、サテライトオフィス、モバイルオフィスという4つのワークスタイルについて以前から研究を進めてきた

 全員が1カ所のオフィスに集まって同期的に、協調して仕事をする「集合」状態から、個々人が自律的に、それぞれの自宅などで仕事をする「分散」状態へと一気に移行した現状。時間や場所に囚われず、自由度高く仕事できるようになった反面、対面型のコミュニケーションが取れなくなったことで、雑談が減り、新たな発想が生まれにくくなる問題も顕在化してきている。

 同社の調査によれば、「チームメンバーとのコミュニケーションがチームの創造性を高める」ことは明らかだとする大橋氏。特に対面のフォーマルなコミュニケーションが創造性に一番寄与し、次いで非対面のSNSやチャットなどでプライベートな話をする機会が多いほど創造性を発揮しやすい素地があるという結果が得られたのだという。

ワークスタイルは左側の「集合」から右側の「分散」へと、急速に変化してきた
ワークスタイルは左側の「集合」から右側の「分散」へと、急速に変化してきた
対面のフォーマルなコミュニケーションが創造性に最も寄与するという
対面のフォーマルなコミュニケーションが創造性に最も寄与するという

 したがって、「自律・分散と協調・協創のハイブリッド」で効率的に仕事できる手法を考えることが重要となるだろう。これからは自宅などオフィス外が効率的に働くための場所となり、オフィスは高度なコラボレーション、協調の場として、「人と人をつなぐエンゲージメントや、仕事を進めていく上での信頼関係」を深めることが大きな役割になっていくと大橋氏は見ている。

 「ハイブリッド」という意味では、「時間と空間を飛び越えた遠隔コミュニケーション」の実現も次世代のオフィスにおける鍵になる。一方で、スケジュールを合わせ、対面で会って同期しながら仕事することは、もはやリッチな体験であり、それを「どういう時間、どういう活動に充てるのかは、これからのワークスタイルをデザインしていくにあたってはとても大事な要素になる」とも話す。

複合現実とロボティクスによるイトーキの新たな提案

 そうした背景から、イトーキが現在特に注力していることの1つが「MR」(複合現実)を活用した「サイバーフィジカルオフィス」だ。新居氏によると、サイバーフィジカルオフィスとは、「仮想空間と現実空間がシームレスにつながり、働く人やチームを柔軟にサポートする」ためのオフィスのこと。同社ではサイバーフィジカルオフィスを実現するための1技術として「Holo Communication」の開発を進めている。

サイバーフィジカルオフィスのイメージ
サイバーフィジカルオフィスのイメージ

 Holo Communicationは、MRデバイスを用いることにより、離れた拠点間であっても「リアルタイム3D映像によってあたかも同じ空間にいるような形で共同作業できる」もの。人の姿を3Dセンサーカメラで捉え、その映像をインターネットを通じて送信し、遠隔のMRデバイスで現実世界にホログラム的に映像を投影する。たとえば対面型のミーティングを仮想的に実現したり、工業製品の3次元モデルを映し出しながらチームメンバーと議論を深めたりすることができ、新居氏いわく「細かなニュアンスが伝わり、リッチなコミュニケーションが可能に」なるものだ。

使用するのは3DセンサーカメラとMRデバイス、ネットワーク、パソコンなど
使用するのは3DセンサーカメラとMRデバイス、ネットワーク、パソコンなど
あたかも目の前にいるかのように相手の姿を再現する
あたかも目の前にいるかのように相手の姿を再現する

 Holo Communicationの実証実験もすでに行われており、NTTドコモとは高速・広帯域の5G環境下における検証を、イベントではグアムにいる人との遠隔会話を実施。MRデバイスに投影される映像によって、リアルで対面したときに近い臨場感がしっかり伝わってくるようで、SF映画で目にしたような未来のコミュニケーションが間近に迫っていることを実感する。

 実用化に向けては、5Gなどの「より高速な情報インフラ」の整備が欠かせないとしているが、これはあくまでもサイバーフィジカルオフィスを具現化するのに必要な技術要素を検討するなかで生まれたもの。「どの場面でどういうデータを使ってサイバーフィジカル(間のやりとり)をシームレスにするか」が本来の目的であり、目処としている2025年までに異なる技術が使われている可能性もありそうだ。

 もう1つ、イトーキがMRと並んで注目しているのがアバターロボットだ。これは、CNET Japanが2020年8月26日に開催した遠隔コミュニケーションのオンラインセミナーにおいて、イトーキと、アバターロボット「newme」(ニューミー)を開発するavatarinが登壇したことをきっかけに生まれたコラボレーションだという。イトーキでは「利用者の意志で能動的に動ける」点に着目し、newmeのオフィスでの活用がどんな効果をもたらすのか、自社オフィスに導入して研究を始めている。

人とアバターロボットが同居する活動・空間を検証中(avatarin)
人とアバターロボットが同居する活動・空間を検証中(avatarin)

 オフィス空間を模した検証施設を用意し、たとえばアバターロボットが走行することを想定したオフィスレイアウトを検討したり、ロボットが走行する位置をカーペットの模様で表現したりして、人とロボットが共存して働ける空間を目指している。新居氏によれば、アバターロボットを使うことで、雑談などのインフォーマルなコミュニケーションで特に大きな効果があるとし、「狙って話すのではなく、たまたま出会った人と話ができる」という対面型に近い体験ができることがメリットになるとした。

カーペットの模様でアバターロボットが通行する場所を明示するなど、人と共存して働ける空間作りを意識している
カーペットの模様でアバターロボットが通行する場所を明示するなど、人と共存して働ける空間作りを意識している

 老舗企業だけに、既存事業とは離れたDXに向けた取り組みには反発する声もありそうだが、大橋氏によると「会社としてDXに取り組んでいかないとならない、という共通認識がある」ことから、社内的な理解も進んでいる様子。ただし、技術などについては「何を取り込んでいくか、社内の研究開発、営業的な戦略の合意のなかで進めていくこと」や、「研究、開発、製造、デザイン(の各部門)が一体となって開発していくこと」が大事だとする。さらには「直面している目先の問題に対するソリューションなのか、2、3年先を見据えた技術なのか、しっかり説明すること」も円滑に進めるには必要になってくるとした。

 この1年で、「距離と時間に対する意識、価値観がものすごく変わった」と振り返る大橋氏。「価値観が多様になればオフィスにおける働き方が多様になり、常識も変わってくる。非常識があっという間に常識になったり、その逆もある」ことから、常識はつねに変わっていくものとして捉えるべきだとする。そして自分を取り巻く現状についても「疑っていく感覚が大事。(イトーキも)そうやって常識を作っていきたい」と付け加えた。

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