会社やサービスを立ち上げた時、その内容を伝えるため必要になる企画書。その中にはどういった情報が盛り込まれ、どんな思いが詰め込まれているのか。ここでは、数多くのプレゼンをこなす起業家、ビジネスパーソンらが手掛けた企画書の中身を公開。企画書を作る上でのこだわりや気をつけていること、アイデアなどを紹介する。
今回は、宅配スタッフの現在地や到着予想時間などを携帯電話のSMSに通知する新サービス「Lobeam(ロービーム)」を手掛ける、Logical Fabrics 代表取締役の堺礼氏の企画書を公開する。Lobeamを本格スタートへと導いた企画書のその中身とは。
Lobeamは、宅配スタッフの位置をリアルタイムでユーザーに知らせる新サービス。Google Mapを使い、渋滞状況なども考慮した高精度な到着予想時間を表示できることが特徴だ。ユーザーへの通知は携帯電話のSMSを使うため、アプリのインストールなどが必要なく、フィーチャーフォンにも対応する。
「宅配便がいつ来るのかわからず困る、という体験は誰でもあるはず。15~17時と大まかな到着時間はわかっても、2時間待つのは長い。インターネットが普及し、地球の裏側にあるホテルが瞬時に予約できるのに、500メートル先にいる宅配便の状況がわからないのはすごいストレス。これを解消したかった」と堺氏はLobeamのきっかけを話す。
解決策は状況を可視化すること。「Uber Eats」などでもおなじみの配達担当者の現在位置表示を、宅配や食品デリバリー、家事代行スタッフなどあらゆるカテゴリに適用する。
「直接的な意味での競合はいない」(堺氏)というLobeamだが、その分サービス内容を一言で伝えるのは難しい。企画書の表紙は「待つのも待たせるのもゼロにするLobeam」のキャッチコピーとともに、宅配便のスタッフがユーザーに荷物を手渡しているイメージ画像を採用。「宅配便を待たずに受け取れる快適な生活」という目指す未来をここに集約する。
2ページ目には「『いつ来るか』わからない」と誰もが抱いたことがあるであろう感情をストレートに言葉で表現している。「プレゼン時は、Uber Eatsの位置情報を切り取ったものと言葉で説明することで、サービス内容を理解してもらう。できるだけシンプルに説明するために、最初に『あるよね』という感情に訴えるキーワードを持ってきた。誰もが感じたことのある『あるある』と、なぜこのサービスをやるのかという『目的』を企画書の中に入れ込んでおきさえすれば、聞いている人はそのほかの部分を脳内補完してくれると思っている」と、簡潔さを心がける。
堺氏がプレゼン時に留意しているのは「逆から話す」こと。「10年くらい前のTED Talksで、逆からしゃべるプレゼンというのがあった。通常は、こういうものをつくり、スペックはこれ。で、これはどう?という流れになるが、逆から話すと、それがよりわかりやすくなる。一般的にはWhat(何を)、 How(どうやる)、Why(その理由)の順番で話す事が多いが、それを逆に Why(なぜやるのか)、 How(どう実現するか)、 What(手段=プロダクト) の順に入れ替えるだけで伝わりやすくなる」(堺氏)と話す。
その1つの例として上げたのがアップルの広告。「PCの広告はCPUの速さやHDDの容量などスペックをアピールすることで『これを持っているとすごい』と表現するケースが多いが、アップルは1997年に『Think different』というキャッチコピーを展開。これは、『従来の考え方ではないものに価値がある(と信じる)』みたいなニュアンスがあり、製品はその表現手段の一つに過ぎない的なメッセージが込められていた。このように、WhatではなくWhyから入ることで、伝わるわかりやすさを意識するようになった。単純にものすごく洗練されていてかっこいいと思った(笑)ことも一因だが、プレゼンをする上では、このWhyを意識するようにしている」(堺氏)とこだわる。
こうした思いからか、Lobeamの企画書は全体的に大変シンプル。文字数を極力抑え、ページ数も13ページにまとめる。「文字数は、作成途中でこれでも増やしていて、個人的にはめちゃくちゃ文字数多くなってしまったなという印象。投資家向けにプレゼンするときは、興味を持ってもらうことを第一に考え、もうちょっと詳しく話を聞きたいと思ってもらう分量が大切」と、説明しすぎないことを重要視する。
これには学生時代を米国で過ごしたという堺氏の経歴が大きく作用している。「米国で『説明していたらお前はすでに負けている』みたいなことわざがあって、要は説明しているようではだめという意味。プレゼンでは、5秒、10秒といった短い時間で伝えられることが大事だと思っている」と短く、簡潔に伝えるスタイルを貫く。
もう一つのこだわりが抽象化だ。「いつ来るかわからない」「状況を可視化すること」など、抽象度の高い言い回しを多用しながら、終盤の11ページ目に再度「あって、あたりまえ」という抽象度の高い言葉を持ってくる。
「抽象度の高い言葉を並べて、再度に抽象度の高いことを別の言い方で結論づける。『いつくるかわからない』という結論を、どうしたいかといったら、配達スタッフの居場所を知ることでイライラしない『あって当たり前』の世界を作りたいということ。これは言い方は違うけれど、内容はほぼ同じこと。最初の部分がプレゼンを聞いている人に刺さっていれば、途中の数値や適用可能領域などの部分は耳を傾けてくれなくても、大事な部分は伝わる。その部分が伝わっていればビジネスチャンスにつながるはず」(堺氏)と、抽象化の重要性を説く。
堺氏は、Lobeamのプレゼンを直接堀江貴文氏にした経験を持つ。「その時に15秒でサービス内容を理解させろと言われた。実際のプレゼン時間は3分間で、早口で説明したが、プレゼンに耳を傾けてくれる方々の時間をいただいていることを常に忘れないように取り組んでいる。5分もしくは3分でと言われることが多い。堀江さんにプレゼンしたときは、iPhoneのタイマーを表示しておいた」と時間との戦いになるという。
堀江氏から受けたアドバイスのもう1つが「サービスがわかる動画の用意」。それを受け、Lobeamでは動画も用意し、すでにウェブサイトなどで公開している。企画書の中で使用している画像は、動画に合わせて撮影したもの。「それまではフリー素材などを活用していたが、オリジナルで撮影したものを使うことで、動画との統一感も出た」とする。
重きを置くのは、「いつ来るかわからない」という掴みの部分。「なんとか興味を持ってもらうためには、最初の1分程度が勝負。そこにアクセントを置き、プレゼンしている。売上目標など資料を見てもらえばわかることは、数枚飛ばすこともある」(堺氏)と話す。
「練習はあまりしないタイプ(笑)」(堺氏)ということで、資料を読むのではなく、自分の言葉で伝えることを重視する。「以前、小泉純一郎元首相の演説を見た時に、自分の言葉でしゃべっていて、伝わってくるなと感じたことがあり、気をつけているのはそのくらい」とのこと。
ここ最近のオンラインプレゼンも「もともと出不精なので、オンラインだとありがたい。確かに聴取者の方とアイコンタクトが取れない点などはやりづらいと感じるが、それ以外は特に不自由さはない。逆に、画面に注釈を付けたりしやすく、強調したい部分をリアルタイムに加えながら話せる点はすごくいい」と、得意とする。
資料作りに要した期間は2週間程度。そのほかの仕事と並行しながら進め、周りの人に見せたり、意見を聞いたりしながら完成させていくという。「図版を作るのがあまり得意ではなく、ビジュアル部分は得意な人に手伝ってもらうケースも多い」(堺氏)とのことだ。
数多くのプレゼンをこなしてきた堺氏だが「機材トラブルは避けられない」とし、困ったことも多いという。加えて「聴取者のターゲットが見えづらく、誰に向けて話せばいいのか迷うことがある。そうした場合は、資料の変更できないので、その場の空気を読みつつ、興味がなさそうなパートは省いて、興味を持っていただけそうな部分を膨らますなどしているが、それでも限界がある。聞く人は誰なのかを必ず頭に入れておくこと」と心構えを話した。
Lobeamの企画書では、エンドユーザーとサービス提供者(訪問スタッフ)の間にLobeamのサービスを入れた3つのビジュアルを軸にサービス内容、利用手順、メリットなどを説明。しかし、エンドユーザーとサービス提供者の左右を入れ替えた「逆バージョン」も用意している。
「流れから言うと、左から右、エンドユーザーからサービス提供者の形でお話するのが自然だが、サービス提供者からエンドユーザーの流れで話した方が受け取りやすい人もいるかもしれないと思い、どちらでも対応できるよう2パターンを作成している」(堺氏)と臨機応変の対応を心がける。
Lobeamを2月1日に本格スタートまでこぎつけた企画書は文字数を極力抑えたシンプルな構成で、聴取者と場に応じたプレゼンがポイントだ。
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