会社やサービスを立ち上げた時、その内容を伝えるため必要になる企画書。その中にはどういった情報が盛り込まれ、どんな思いが詰め込まれているのか。ここでは、数多くのプレゼンをこなす起業家、ビジネスパーソンらが手掛けた企画書の中身を公開。企画書を作る上でのこだわりや気をつけていること、アイデアなどを紹介する。
今回は、現場向け遠隔支援コミュニケーションツール「SynQ Remote」を展開する、クアンド 代表取締役CEOの下岡純一郎氏に、SynQ Remoteの紹介時やオンライセミナーで使用している企画書を紹介していただく。
クアンドは、2017年4月に設立。福岡県北九州市と福岡市にオフィスを構え、アプリやウェブ開発などを手掛ける。SynQ Remoteは、実家が建設業を営むという下岡氏が、建設現場の課題解決をするために開発した新ツール。複合商社の三谷産業が実証実験の場を提供するなどサポートし、2020年11月に製品版をリリースした。
表紙に使われている画像は、すべて実際に現場で撮影したもの。「表紙はサービスのイメージがすぐに湧くように、現場で撮影した画像を組み合わせた。ほかのプレゼンページと違い、表紙はプレゼン前の待機時間にも表示されるため、見ていただく時間が長い。説明しなくとも、伝わるイメージが大事」(下岡氏)とわかりやすさを優先する。
建設現場向けのコミュニケーションツールは、他社製含め複数登場しているが、SynQ Remoteは、双方からのポインタ表示や声に出した指示を即座に文字に変換できる音声テキスト機能など、現場に即した的確な指示と確認ができることが特徴だ。
最初のページでは、サービスの概要をイラストを使って説明。文字数を抑え、「現場に最適なリモートワークツール」という最も伝えたい部分のみ、フォントサイズと文字色を変更して目立たせている。ここでは、どのような人がどんな風に使うツールかを説明するために、補足的にイラストを使っているという。
続くページでは「現場におけるあらゆる課題」として、現場での困りごとを吹き出しで表示。「プレゼンを見ている人に自分ごととして感じてもらうため、具体的な課題を複数表示している。これはヒアリングや現地調査の際にいただいた現場の方の声を反映したもの。2ページ目のツール説明だけでは見えてこない、困っていることの具体例を表示することで、現場を知らない人からの理解を深めることが狙い。この1ページを加えることで“腑に落ちる”ようにできたと思っている」と、現場感を企画書にも落としこむ。
下岡氏が企画書作成の際に特に重視していているのは、この課題部分。企画書では業界課題として「現場確認・指示のための移動」「電話やテレビ電話ではうまく伝わらない」「現場まで行けない」という3つの課題をイラストを用いて深堀りしている。
「この課題感がずれていると、自分に必要ではないと思われたり、他人事に捉えられてしまったりする。今回はこの3つをピックアップしたが、SynQ Remoteは建設業以外にもメンテナンスや海外での技術支援など幅広く活用できるツール。ターゲットによって合致する課題へと変更している」と共感してもらうことで、聴講者を引きつける。
課題を提示したあと、その課題解決ができるSynQ Remoteの機能を紹介。ここでは、遠隔地にいながらビデオチャットができる点や、ポインタを使っての指示、遠隔撮影した写真をそのままレポートできる点を紹介。画像を盛り込むことで、イメージをより鮮明にする。
この後に使い勝手のわかる動画を入れ込み、理解度を深める。「実際に動くものを見てもらうのと、もらわないとでは、反応が大きく異なる。デモするのが一番良いが、端末の動作や通信環境が不安定な場所もあるので、予知できないトラブルを引き起こしやすい実機を使ったデモはせず、動画を使うことが多い。動画は時間が毎回同じで安定して披露できる点がメリット。一方、営業先などでは、もっとも伝わりやすい実機でのデモを採用することが多い」と動画とデモを使い分ける。
SynQ Remoteの内容を深めた上で、コスト削減率、導入実績といった数字へとつなげる。「図が入っているとよりわかりやすいため、コスト削減率は円グラフや棒グラフを使って視覚に訴えかけるようにし、『そこで、実際はどのくらい使われている』という導入実績につなげる」と、流れで見せる。
全15ページの資料を使ったプレゼンテーションは、時間にすると約5分程度。「クアンドとしてのミッションやビジョンまで語ろうとすると足りない」とやや短い様子だ。
実際のプレゼンにあたっては、何度も練習して言い回しや使用時間が同じになることを目指すという。「30回くらい繰り返すと、言葉がスラスラと出てくるようになる。リアルのプレゼンであれば、できるかぎり聴講者の反応を見るように気をつけている。最近はオンラインが主なので、反応が見えず、やりづらい」と心構えを話す。
資金調達やピッチイベントなど、数々のプレゼンをしてきた下岡氏だが「どれだけ準備していても、スライドが表示されなかったり、動画が再生できなかったりとトラブルはつきもの。こういうときのためにちょっとした”小話”を用意しておかなくてはと思っている(笑)。またプレゼン後の質疑応答はワンセットなので、ある程度の回答は用意しているが、あえてツッコミどころを残しておいて、その質問に対し回答することで、より理解を深めたり、こちらの考えを浮き彫りにさせたりと、質疑応答まで含めたプレゼンを行なうこともある」とケースバイケースの対応を見せる。
今回の企画書は、既に作成していた資料などを組み合わせながら、5日程度で仕上げたもの。使用しているイラストは社内のデザイナーが描いたオリジナルで、下岡氏とデザイナー、ビジネスサイドを担うスタッフの約3名が関わっているという。
資金調達やリード獲得などを担う企画書の一方で、クアンドでは人材を獲得するための採用資料なども公開している。そちらはプレゼンを想定していないため「ひとり歩きしても分かる内容にしている」と、適材適所の資料作りをしているという。
参考にしているのは、SlideShare内でTakaaki Umada氏が公開している「スタートアップの3分ピッチテンプレート」。「課題、解決策、市場規模とプレゼンの基本骨子がまとまっており、参考になる」とのこと。
「どちらかと言えば10~20人規模で来場者の顔が見えるプレゼンが得意」とする下岡氏だが、「大事なのは情熱。自分たちはなぜこのサービスを提供しているのか、なぜ起業したのかという強い思いを伝えたい」とプレゼンの極意を明かす。
以前は、淡々とロジカルなプレゼンをしていたというが、とあるビジネスコンテストでメンターの人に「もう少し気持ちを乗せてみては」とアドバイスされ、プレゼンのやり方を変えてみたところ反応も変わったという。「内容自体は変わらなかったが、表現の仕方を変えることで、伝わる熱量のようなものが増えた。思いは人に伝わることに気づいた」と話す。企画書同様に、伝えたい思いの熱量も大切だ。
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