NTTドコモが12月3日に発表した新料金プラン「ahamo(アハモ)」が大きな話題となっている。各種割引の適用が不要で月額2980円、しかも4G・5Gによる20GBの高速データ通信と1回あたり5分間の無料通話、82の国や地域での国際ローミングなどが追加料金なしに利用できるという破格の内容で、SNSなどでは早速大きな注目を集めていたようだ。
その一方で、ドコモショップではサポートをしないなど従来の料金プランとは決定的に違い、不自然な部分も多い。そこで、ahamoの安さの理由や競合他社に与える影響、さらに料金引き下げを要求する菅政権との関係を考えてみたい。
ドコモがなぜahamoのようなプランを提供するに至ったのか。12月1日に代表取締役社長に就任した井伊基之氏は、その理由について、同社が若い世代をうまく取り込めていなかったことを挙げている。「今20代の人は今後30、40代の中心層となる。今負けたままだとずっと負けたままだ」と井伊氏は将来への危機感を訴え、若い世代の取り込みに力を入れた料金プランを提供するに至ったと説明する。
実際、ahamoではスマートフォンに慣れ親しんだ「デジタルネイティブ世代の20代単身者」という、非常に明確なターゲティングをしている。そのため、従来の料金プランとは決定的に異なる部分が多く、その代表例といえるのが契約やサポートをオンラインのみに絞っていることだ。
ahamoユーザーは、ドコモの料金プランでありながら、ドコモショップ店頭での契約やサポートは基本的に受けられない。スマートフォンにとても詳しいデジタルネイティブ世代だけに対象を絞ることで、携帯電話料金の大きなコスト要因の1つである店頭でのサポートをそぎ落として低価格を実現しているわけだ。
ほかにもahamoは、他のプランから移行するとドコモの継続利用期間がリセットされることに加え、「ファミリー割引」が適用されないだけでなく、そのグループ人数にもカウントされない。また、既存プランから移行する際はシステムの都合上、2021年3月から5月まで番号ポータビリティ(MNP)による転出と新規契約が必要になるなど、従来の料金プランとは明らかに異なる、別のサービスであるかのような制約が多く見られる。
そのためahamoは、実質的にドコモブランドとは異なる、サブブランドのサービスと言っても過言ではないだろう(この点については後述する)。しかし、それが「ギガホ」「ギガライト」などと同じドコモの料金プランとして提供されることで、料金とサービス以外の部分が非常に複雑になってしまっている印象は否めない。
特にドコモショップの店頭では、今後「同じドコモの料金プランだから」という理由だけで、ahamoの契約やサポートを求めるユーザーが多く現れるなどして混乱が起きる可能性が非常に高い。キャリアショップは近年、現場の疲弊とモラルの低下によるトラブルが多発しているだけに、複雑な存在となるahamoの登場で現場スタッフへのさらなる負担増が懸念される。
ただ、ahamoの破格の料金とサービスが大きなインパクトを与えたことは確かであり、競合他社の大きな脅威となることは間違いない。同じ20GBの料金プランといえば、KDDIの「UQ mobile」やソフトバンクの「ワイモバイル」といったサブブランドがすでに「スマホプランV」「シンプル20」といった料金プランの提供を発表しているが、ahamoはそれらと比べても1000円以上安い上、5Gも利用できる。
そうしたことから双方のプランはともに、開始前から料金の見直しが求められることになるかもしれない。ただ、UQ mobileとワイモバイルはともに、数が少ないとはいえ実店舗を持つ安心感があるし、若年層だけでなくファミリーやシニアの獲得にも積極的であることから、ahamoが必ずしもサブブランド全体の脅威となるわけではないだろう。
ahamoの存在がより脅威となるのは楽天モバイルだ。ahamoの月額料金は楽天モバイルの「Rakuten UN-LIMIT V」と同じで、4Gだけでなく5Gも利用できる、契約やサポートがオンライン主体であるなどコンセプトも非常に近い。
しかも、携帯電話サービスの生命線であるエリアの充実度は圧倒的にahamoが上なので、ahamoがエリア整備途上の楽天モバイルに不満を抱くユーザーの受け皿となる可能性も高い。2021年4月からはRakuten UN-LIMIT Vの無料キャンペーンが終了するユーザーが出てくるだけに、厳しい立場に追い込まれるかもしれない。
同様に、ahamoの存在が脅威となるのがMVNOだ。MVNOも最近は10GBを超える大容量のプランに力を入れつつあるが、昼休みなどに通信速度が遅くなるという構造的問題を抱えているため、ストレスなく通信できるahamoに流れてしまう人も少なからず出てくるだろう。
そうなるとMVNOが生き残る道は、より低価格で低容量のプランのみとなってくる。井伊氏はahamoより低価格の領域について、自社ではなくMVNOと協力して取り組む姿勢を見せるが、価格の安いプランはビジネス的なうまみも少ないだけに、将来性が見込めず撤退する事業者も増えてくるのではないだろうか。
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