そしてahamoの発表内容とその後の動向を見ると、非常に気になるのが政府との関係だ。そもそもahamoのような低価格プランが登場した背景には、菅義偉氏が内閣総理大臣に就任して以降、携帯電話料金の引き下げを政権公約に掲げ、市場寡占と名指しされたドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社に料金引き下げの強いプレッシャーをかけてきたことがある。
しかも、総務大臣の武田良太氏は、携帯2社のサブブランドによる20GBプランの提供を当初評価する姿勢を見せていたのだが、11月20日の記者会見でその姿勢を一変させ、メインブランドでの料金引き下げを求めるかのような発言をしている。さらにその後の会見を見ると、メインブランドでの値引きにこだわる理由は事務手数料にあるようだ。
サブブランドはもともと別の会社だったこともあり、メインブランドからサブブランドに移る際は他キャリアに移るのと同様、MNP転出手数料や、新規契約手数料などがかかるし、10月の電気通信事業法改正以前のプラン契約者などは、いわゆる「2年縛り」の解除料の支払いも必要になる。
だが、2社はサブブランドからメインブランドに移る際、事務手数料がかからないキャンペーンなどの優遇策を実施している。それに対して武田大臣は、「料金が高いところからどの顧客も出て行かないようにしっかりと制度設計されている」と、高額プランの囲い込みにつながっているとして強く批判。変更時に事務手数料がかからないメインブランド内での料金引き下げにこだわる姿勢への転換へと至ったようだ。
実際、メインブランドの料金プランとしてahamoが発表された翌日の12月4日、閣僚からはahamoを絶賛するかのような発言が相次いだ。同日に実施された記者会見で武田大臣は「実に6割強の値下げ、2018年度段階からは70%を超える値下げに踏み切ったわけであって、公正な市場に競争を導く大きなきっかけになることは、我々も期待している」と答えている。
また菅総理も、同日の記者会見で「今回、大手のうちの1社が、大容量プランについて、2年前に比べて7割安い30GBで2980円という料金プランをメインブランドの中で実現するとの発表があった。本格的な競争に向けて1つの節目を迎えたと思う」と、ahamoと思われるプランに言及。高く評価している様子がうかがえる。
そうした動向を見るに、ドコモはもともとサブブランドとして提供しようとしていたahamoを、武田大臣の方針転換を受け急遽料金プランとして提供することとなり、その結果ドコモショップでのサポートなど多くの部分で無理が生じてしまったのではないかと感じてしまう。井伊氏は否定しているものの、ドコモの対応が政権に忖度したかのように見えてしまっていることは確かだろう。
また先にも触れた通り、ahamoの内容はサブブランドそのものであり、従来のメインブランドのプランと同列に評価するのには大いに疑問がある。そのようなプランを、あたかもメインブランドの料金引き下げの大きな成果であるかのように評価する政権の対応には大きな疑問を抱かざるを得ない。
政治家の言葉遊びに業界が振り回されるような環境で、健全な市場競争が生み出されるとは到底思えない。料金引き下げという目的の実現のために強引な手法を取ることは、全ての事業者が政権に忖度して料金を決める、自由が失われた官製市場を作り出しかねない。政府はたとえ時間がかかってでも、民間同士の自主的な競争による料金引き下げを促す環境作りに注力すべきなのではないだろうか。
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