Salesforceが欧米10カ国の大学生と職員を対象に8~9月にかけて実施した調査「Global Higher Education Research Snapshot」は、新型コロナウイルス感染症が大学に業務の抜本的な改革を強いていることを浮き彫りにした。調査によると、学生の半数以上がパンデミックによって学習計画が変わり、そのうち多数が就学を無期限に延期することを考えた(28%)か、学位取得にかける時間が増えた(32%)と回答した。
新型コロナウイルスにより、異なる学習方法を求める学生や、より多くの経済的支援を求める学生が増加した。半数以上(52%)の大学職員が、学生はオンライン学習で、対面での授業と同等の教育を受けられるとの考えに同意すると答えた。筆者の見解では、われわれはこの10カ月で、10年分の文化およびデジタルの変革を経験した可能性がある。調査では、学生がパンデミックの間、以前よりも教員や大学とのつながりを重視するようになったことも明らかになった。また、学生が国を問わず、多くの共通の問題に直面していることも分かった。例えば、学生の72%は、将来の経済的不安を訴えた。ここでは、この調査の主な結果を紹介する。
2019年と比べて人(アドバイザー、教員、他の学生)とのつながりが強まったと答えた学生が、弱まったと答えた学生より多かった。アドバイザーについては31%、教員については32%、他の学生については34%が、つながりが強まったと答えた。反対に弱まったと答えた学生の割合は、それぞれ20%、19%、25%だった。学生の77%は、パーソナライズされたメッセージを受け取ると、大学が自分の成功を気にかけていると感じられると回答した。大学のコミュニケーションにおける使命は今や、学生に情報を提供し続け、実際には感じることも、見ることも、触れることもできないキャンパスコミュニティーとの関わりを保たせることだ。コミュニケーションは、大学にとって依然として課題になっている。学生がより多くのつながりを求めていることが一因だろう。
大学のオンラインコミュニティーがどのように役立ったかという問いに対し、多くの学生が、学期の準備(32%)、他の学生とつながっていると感じた(30%)、講師とつながっていると感じた(29%)、大学に属していると感じた(28%)と答えた。大学はもっと頻繁にコミュニケーションをとることで、パンデミックへの対応を改善できると答えた学生も多かった(27%)。ロックダウン期間の課題として、学生の49%がコンピューターへのアクセス、71%が自宅に勉強にふさわしい静かな空間がないことを挙げた。
多数の学生がリモートで学習している今、パーソナライズされたメッセージを受け取ることで大学が自分の成功を気にかけていると感じられると回答した学生が77%もいたのは、重要な要素だ。
今や多くの学生にとっての成功の基準は、需要のあるスキルを獲得できる教育を受けて、高給な職に長期的に就けるチャンスを得ることだ。この調査によると、学生の81%が自分の大学は学業の目標達成を支援していると答え、78%はキャリア目標を支援していると答えた。また、学生の79%が大学への帰属意識を持っていると答えた。
パンデミックにより、学生は高等教育の学位がキャリアにどう役立つかについて深く考えざるを得なくなった。多くの学生(60%)は卒業後の就職に不安を感じており、特にフランス(70%)とスペイン(77%)で不安に感じる学生が多かった。
学生の39%が、2019年よりも多くの経済援助を必要としていると答えた。この調査は、新型コロナウイルスの悪影響を浮き彫りにした。パンデミックは世界中で、特に貧困層やサービスの行き届いていない地域の雇用を壊滅させた。
学生の40%が、大学を選ぶ際、その大学がインターンシップや就職に役立つかどうかが重要な判断材料になると答えた。経済の不確実性の結果として、学生をつなぎ留めることが大きな課題になっている。調査によると、「学生の大多数が現在在籍している大学に留まると答えたが、転学するとすれば何か理由かという質問に対し、4分の1は大学によるパンデミックへの対応と答えた。別の25%は自分のキャリア目標により役立つ別の大学を探す可能性が高いと答え、24%は自分の学問的目標に役立つ大学を探す可能性があると答えた」。
現在の経済不確実性は大学職員にも影響を与えている。大学職員は大学の財務的安定について、予算削減(51%)、イベント中止(40%)、留学生減少(40%)を懸念していると答えた。
新型コロナウイルスが大学機関にもたらした大学教育のコストと価値についての課題に加え、公平性に関する懸念も高まっている。この調査は、各国の学生が置かれた生活環境と、それによって一部の学生が新型コロナウイルスに感染しやすくなる可能性があることについてヒントをもたらしている。パンデミックの変化の大きさとウイルスの拡散を制御することの難しさにより、方針を何度も大きく変更せざるを得なかった。多くの場合、利害関係者の安全を最優先にするという点で善意による方針変更だったが、これが信頼低下につながった。
経営側は大学の運営方針について自信を持っているが、かなりの数(40%)の学生が、経営側と学生の間で、大学への信頼感に関してギャップがあると答えた。これは、同様のギャップがあると答えた大学職員の割合(41%)とほぼ同じだ。ギャップがあると答えた学生の約半数(48%)は、パンデミックでこのギャップが広がったと答えた。ギャップがあると答えた学生が最も多かったのはスペインの46%だった。感染率が上がっているにもかかわらず大学を閉鎖しないでいることは、学生の信頼感に影響を与える可能性がある。学生の10人中3人は、大学が透明性を高めていれば、パンデミック対策を改善できていたかもしれないと答えた。
学生の75%は、自分の大学からもっと頻繁にパンデミック関連の通知を受けたいと答え、一部の学生(30%)は大学はより明確にパンデミックに関する意思決定を示すべきだと答えた。
ここ数年、学生の感情的、精神的、肉体的健康への関心が高まってはいたが、新型コロナウイルスのパンデミックが、心身の健康を大学生活を送るうえで重要な要素に変えた。多数の研究で、世界の不安定な経済状況と失業が、学生とその健康に対する認識に影響を与えたことが示されている。
学生の大多数(73%)が心身の健康の維持を最大の関心事として挙げ、経済的不安(72%)が僅差でそれに続いた。学生の32%が、 大学が学生に心身の健康のためのより充実した情報とサポートを提供することで、新型コロナウイルスの対策を改善できるかもしれないと答えた。学生の約20%は、大学により多くの個人用防護具(PPE)と新型コロナウイルスの検査のリソースを確保してほしいと答えた。
学生の60%はパンデミックになってから、以前よりもメンタルヘルスのケアを受けるのが難しくなったと答えた。
リモート教育への切り替えに加えて、かなりの数の調査回答者(35%)が、大学は成績評価と履修登録に柔軟性を持たせることでパンデミック対策を改善できると答え、33%は専攻の柔軟性によって改善できると答えた。学生の半数以上が、2021年にはさらに多くのオンライン授業を期待している。大学職員の52%が、オンライン授業は対面の授業と同じくらい効果的だと答えた。学生の32%は、オンラインでは対面と同じく効果的には学べないと答えた。大学職員の半数以上(57%)が、自分の大学は柔軟な学習方法への投資を増やしていると答えており、これは朗報だ。
この調査報告は、パンデミック下の困難で不安定な時期に、学生と積極的に関わる方法を探し続けるよう大学に助言することでしめくくられている。大学は、より多くのオンラインの学生コミュニティーを作り、リモートであっても、学生がアドバイザーや卒業生、メンタルヘルスの専門家、そしてもちろん教員と直接会話できる機会を増やすことで、より多くの繋がりを育むべきだ。コミュニティーに参加しているという感覚を作り、維持することが、学生に学業とキャリアの目標を達成させるための最善の方法だ。また、学生がオンライン学習に慣れ、それが日常の一部として続くと理解していても、多くの学生は依然として従来の対面学習に高い価値を置いており、教育に不可欠だと考えていることを、大学は認識する必要がある。
大学教育の現状についての詳細は、Salesforceの調査報告を参照されたい。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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