酪農・畜産のDXは「意外と進んでいる」 --ファームノートが考える、次なる打ち手とは - (page 2)

労働生産性も牛の快適性も「ICT」で追求

 ファームノートは、グループ会社であるファームノートデーリィプラットフォームを通じて自社牧場を8月に立ち上げ、生乳出荷を開始したという。その狙いは、従来IT分野に特化していた事業領域をリアルな畜産業に広げることで、牧場のさらなる効率化の手立てを自ら確立することだという。

 まず着目しているのは、従事者1人あたりの生産性だ。「酪農・畜産は、労働時間が非常に長い。技術の活用によって、労働時間の短縮を図れないかと考えている」と話し、実際にデータを表示したパネルを牛舎内に設置した様子などを紹介した。

ファームノートデーリィプラットフォームの自社牧場
ファームノートデーリィプラットフォームの自社牧場
「世界の農業の頭脳を創る」
牛舎内に設置したパネル

 下村氏は「ちょっと変わったKPIを設定している」と、1時間あたりの生乳生産量に着目していることも明かした。「我々はいま、110頭を目標として、その何割かの牛を飼育している。これくらいの規模の生産者では、従事者1人、1時間あたりの平均的な生乳生産量は150kgだが、さまざまな技術を活用して1時間あたりの生乳生産量を450kgに引き上げることを目指している」(下村氏)。

 「酪農・畜産の業界において、デジタル化や機械化・自動化は意外と進んでいる。いま現場に足りていないのは、いろんな技術を組み合わせて、インテグレート(統合)していくところ。酪農・畜産に従事する人たちの働き方をしっかりと変革したうえで、生産性を上げていくことは、今後取り組むべきポイントとなる」

 下村氏はこのように指摘し、自社牧場をモデルに牧場の労働生産性を引き上げていきたいと抱負を語った。そのためには、個体ごとの乳量や生乳に含まれる成分の品質もしっかりケアし、高めていくことも重要視していると言及した。

 また、既存の牛舎のリノベーションも重要と説く。酪農・畜産では、減価償却のコスト比率が比較的高いが、新築ではなくリノベーションを行うことで、コスト面での生産性も実現できるというわけだ。下村氏は「離農が進み、空き牛舎もどんどん増えているいま、こうしたリソースを活用して低コスト化を図りつつICT化を進めることで、牛の快適性をも追求し、病気が発生しにくく生産性の高い経営を実現できるのではないか」と話した。

 自動化の例として紹介されたのは、こちらの搾乳機。ゆっくりと周る円形の台に牛が乗ると、1周するうちに搾乳され、終われば降りるという仕組みだ。また、牛につける3軸の加速度センサーを搭載したウェアラブルデバイス「Farmnote Color」では、24時間365日、牛の行動データを取得し続け、クラウド上のアルゴリズムで牛の行動を解析。AIを活用した生産支援も行なっているという。

 通常行動とは異なる異常行動を検知した場合には、発情や疾病を起こしている可能性をとらまえてアラートを上げ、多い牧場では数千頭にもおよぶ牛の管理を、効率的かつ見落としなく行えるようにするというものだ。

DXの先に見据えるのは「サステナブルな食糧生産」

 質疑応答では「ITに馴染みのない経営者の方々に、どうやってDXを浸透させるべきか」「畜産業界は意外とIT化が進んでいるとのことだが、若い世代の就業が増えているのか」といった現場視点のリアルな問いから、「牛のゲップに含まれるメタンガスは温室効果が二酸化炭素に比べて非常に高く、温室効果ガス排出量全体の数割を占めるといわれるが、酪農・畜産のDXに加えて地球環境に配慮した取組も検討しているのか」という将来を見据えたものまで多く質問が寄せられた。

 下村氏は「基本的に、生産者のみなさんがやりたい生産スタイルをとっていただくのが一番よい。ICTは無理に導入するものではない」としつつ、「ICT化でデータを見える化することで、例えば自治体やJAさんなどいろいろな人とコラボレーションする機会が増えるというメリットもある。代替わりで牧場を引き継いだ若い就業者の方については、生産システムを一気に変えたいとの想いを持つ方も多い。また、肌感覚ではあるが、北海道に都府県から就農を希望する人も少なくない」と回答した。

 メタンガス排出による温室効果については、「指摘はおっしゃる通り」だと認めたうえで、「今後50年、100年で、人間の食べ物は変わっていくだろう。数千年の歴史がある畜産も、ともに進化する必要がある」と話した。

 最後に、今後の展望について下村氏は「Farmnote Colorに搭載しているセンサー精度の向上や、生産者さんが日々入力してくれるデータおかげで、発情や疾病などを検知するアルゴリズムは、この4年弱でだいぶ進化した。今後は、牛の起立困難や分娩などの注意すべき行動の検知をさらに追求するとともに、遺伝改良の分野にも取り組みを拡大して、環境負荷の低減やサステナブルな酪農・畜産を実現していきたい」と話した。

 経営理念に「世界の農業の頭脳を創る」を掲げるファームノートは、全国各地の酪農・畜産関係者などから狙い通りの好評を得ているようだ。下村氏は「デジタル化、自動化、生産技術で酪農生産のDXを推進し、本当に労働生産性の高い牧場運営のあり方を世の中に広めていきたい」と話して、セッションを締め括った。

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