前編、麻倉怜士のデジタル時評--4K8K勢ぞろい、テレビ最新事情【ソニー、パナソニック編】はこちら。
ハード、ソフト共に成熟度を増して、より魅力的になってきたテレビ市場。各社どんな戦略で年末商戦に臨むのかについての解説を前後編で紹介する。今回は液晶に加え有機ELも取り入れたシャープ、クラウド連携により新たな高画質作りに取り組む東芝映像ソリューション、そして有機EL、液晶と2つ8KテレビをラインアップするLGエレクトロニクス・ジャパンを紹介する。
2020年、最もテレビ業界を驚かせた出来事と言えばシャープの有機ELテレビ進出だろう。5月に発表した有機ELテレビ「CQ1」シリーズは、最後発での参入ながら、ある意味液晶らしい、シャープならではの画に仕上がっている。液晶テレビに慣れた人には大変親しみやすい画質だと言えるだろう。
なかでも中間階調を盛り上げ、より明るい画になっている点はこれまでのいわゆる有機EL的ではないが、リビングなど明るい室内でも見やすく、通常使いには向いているだろう。先行メーカーが有機ELらしい画作りを進める中で、あえて液晶らしい画を作ることで差別化ができた。
シャープは、自発光のプラズマか、バックライトの液晶かという薄型パネルの覇権争いが生じた時「黒が浮く、視野角が狭い、動画が鈍い」といった液晶の欠点を指摘されながらも、改良し、市場を液晶へと導いた。
しかし有機ELに取り組んでこなかったわけではない。スマートフォン「AQUOS」シリーズに自社開発の小型有機ELパネルを組み込んでいるほか、2019年には、NHKと共同で巻取り式の30インチの4Kフレキシブル有機ELディスプレイを開発。有機ELパネルにも着手してきた。
ただし、大型の有機ELパネルは自社製造する段階になく、先発メーカーと同様に韓国LGディスプレイのパネルを採用。そのためかモデル名には「AQUOS」を冠していないが、AQUOSブランドを踏襲するだけの画質に仕上がっている。
他社製パネルを使っている分、シャープらしさを出せるのは映像エンジン部分。CQ1には4K画像処理エンジン「Medalist S1」を搭載し、高精細・広色域・高コントラストな4K映像を引き出している。このあたりの考え方はとてもソニーと似ていて、液晶、有機ELとパネルは変わっても映像エンジンでシャープ独自の画が作れるというもの。シャープはながく自社製パネルにこだわっていたが、有機ELが液晶テレビを席巻する中、自社製パネルにこだわらず、有機ELテレビに取り組んだ姿勢は柔軟で、良い。私は兼ねてから、専門誌で「液晶のシャープ必ず有機ELに参入する」と断言したいた私の予言が当たった。
シャープの特徴的な動きとして挙げられるのが8Kテレビへの取り組みだ。私自身も2018年から自宅にシャープの8K液晶テレビ「AQUOS 8K 8T-C80AX1」を導入しているが、4月に発表した「CX1」シリーズで、視野角が向上。横方向に加え縦方向にも改善が見られた。
これは、新開発の「8K Pure Colorパネル」と8K画像処理エンジン「Medalist Z1」の組み合わせにより実現したもの。色鮮やかかつ高精細で、斜め方向にも幅広く発色できるようになった。大画面における視野角の問題は重要で、視野角のエリアが外れると映像の色も変わってしまう。それに対してシャープは長年液晶パネルにこだわってきただけに改良を加え、CX1ではこの効果がかなり効いている。
もう一つ、アップコンバートに優れる点も評価したい。8K番組は数が少なく、地上デジタル放送や4K放送、BDソフトなどのコンテンツをアップコンバートして視聴することが一般的だ。この際いわゆる「線が太る」ことにより、画質が落ちてしまうが、シャープは斜め線の解像度を高くキープするため、画素を選択的に使い、品位の高いアップコンバートを実現している。
8Kにいち早く取り組み、2020年は有機ELテレビにも参入。シャープはこれによりテレビのデパートになった。6月には、8K放送で採用されている音声フォーマット「MPEG-4 AAC」の「22.2ch音声入力」に対応したシアターバー「8A-C22CX1」も発売し、音のケアまできちんとした。
現在、有機ELはワンラインのみの展開になっているが、こちらを拡充し、液晶も有機ELも8Kも、そして音もとデパートをさらに拡充していってほしい。
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