オードリー・タン氏とLINEのシン代表が対談--両者が考える「テクノロジーとの向き合い方」 - (page 3)

人間をアシストするAIにとって大切な2つのこと

 「AIと社会全体がどう融合していくべきなのか?」という問いに対し、タン氏は「私の中で、AIは『Assistive Intelligence(アシストする知能)』の略で、人間をアシストするものだと思っています」と回答。そして、人間をアシストする存在として、大切なことが2つあると指摘した。

 「1つ目は、価値観の一致です。アシスタントは人間の利益を最優先に考えなくてはいけません。もしあなたが個人情報を気にするなら、AIもそれを第一に考えて行動し、2人の考えは同じであるべきです。2つ目は、相互の説明責任で、AIがなぜあなたに代わってそのような決定をしたのか、あなたに説明する義務があるということです」

 シン氏は、同じ問いに対し、「AIはテクノロジー観点から入ると弊害を起こしやすい」と回答。「どのようにユーザーにとって新しい価値や利便性を提供するか」という視点からスタートすることが重要であると話した。例として、音声認識や画像認識、自動応対技術などを駆使して、リテラシーが高くない人や、PCやスマートフォンを操作できない人でも、いろんな情報にアクセスできる仕組みを整えることの重要性を説いた。

 また、「福岡市と一緒に取り組んでいる『スマートシティ』というプロジェクトがあるのですが、行政と民間の会社が一緒にキャッシュレス決済とか、AIによる行政手続きの効率化など、いろんな場面でもっと住みやすい環境にするかを協議しています」とコメント。

 これに対し、タン氏は、「スマートフォンは持ち主の方が賢くなければ、“スマホ中毒”になってしまう危険性があります。スマートシティがあまりに賢すぎて市民に変わって意思決定をしてしまうと、市民は市政に参加しなくなるでしょう。スマートフォンやスマートシティは素晴らしいことですが、私たちはデザイナーのように謙虚であるべきです。特定の問題に対処するにはこの解決策、というように固定化してしまうのではなく、常に市民自身が異なる方法を選択することができ、望むような改革ができるようにするべきです。LINEがベンダーでなく、プラットフォームになるという考え方を貫けば、市民のより高い創造性を引き出すことにつながると思います」、と自身の見解を示した。

アジア発のIT企業が「ニューノーマル」で果たすべき役割

 シン氏は、アジアをリードする企業が持つべき今後のビジョンについて問われると、「AI活用が非常に重要である一方で、欧米視点だけでなく、アジア視点で、必要な場所で生かされなくてはならない」と課題を指摘。また、「新しい問題を自分の手で解決したい。解決に参加したい・貢献したい、という精神的な面も大事」との持論を語った。

 「今のAIの動きをみると大手の一部企業が主導権を握っていて、主なテクノロジーを自分で持っていて特許で独占されている状況だと思います。特にCOVID-19のような世界的な危機になって、この技術が公平につかわれているか――たとえば、アジア各国において、この技術が必要な場面で必要な企業が持っているかという課題もあるでしょう。(この課題に関して)LINE社も貢献できればと考えています」。

 一方、タン氏は同じ質問に対し、「台湾と日本は高齢化社会を迎えている中で、高齢者を社会から除外してはいけない」と指摘。「テクノロジーが定年退職した方を社会に戻す手伝いをするべきです。定年退職した人は時間を持っており、アシストする技術を開発すれば、現役で働いていた時よりも社会に貢献できるかもしれません」と語った。

 また、同氏は「大手IT企業は、自らを社会的価値に即したアシスタントとみなせば、社会からもっと重宝されるでしょう。GAFAも国の規範を守るために、各国で運営方法を変えるべきです」とも述べた。

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