スタイルポート、不動産販売の「やがて常識になる未来」を作る--ROOV発売からの1年半

 少し前までは主流ではないとされた不動産における非対面営業だが、新型コロナ感染拡大を受け、4月以降徐々に業界の受け入れ体制が整ってきた。それに伴い、VR内見ツールは前年比で大幅な導入増を記録。スタイルポートが扱うオンラインマンションギャラリー「ROOV」も前年同月比で4倍以上の売上を記録している。

 追い風を受けるROOVだが、サービス開始直後には「想定していた数の3割程度しか採用されなかった」という見込み違いや、資金調達に苦戦するなど、数々の危機があったという。2019年4月のROOV発売から約1年半。想定どおりにはいかない日々をどう受け止め、乗り越えてきたのか。スタイルポート代表取締役の間所暁彦氏に聞いた。

スタイルポート 代表取締役の間所暁彦氏
スタイルポート 代表取締役の間所暁彦氏

非対面化のニーズ急増で導入先が急拡大

――新型コロナウイルス感染拡大防止による非対面化に適したROOVの売上は大変好調ですね。

 外出自粛の緊急事態宣言を受け、自社の商談もオンラインに切り替えてから売上が伸びてきました。4~5月はマンションギャラリー自体が閉まっていましたし、その後も来場するお客様の数を限定せざるを得ない状況だったので、マンションギャラリーでの対面接客数は大きく落ち込みました。そうした背景を受け、非対面やオンラインでモデルルーム同様の接客ができるROOVを導入いただくケースが、春以降増えてきました。

ROOV walkデモ画面
ROOV walkデモ画面

 ROOVはフル3DCGをウェブブラウザのみでインタラクティブに動かせることが最大の特徴です。VRを使ったツールはほかにも登場していますが、パノラマCGを擬似的に3Dとして見せていたり、大掛かりな装置が必要になり自宅などで気軽に見られなかったりするケースが多く、モデルルームの補完的な位置づけでした。

 プラスアルファとして捉えられていたVRを、スマートフォンひとつで室内の空間情報を把握でき、入居までに必要となるあらゆる検討作業をシミュレーションできる機能を搭載することで、このツールをメインに使って家探しができるところにまで引き上げたのがROOVです。そうした特徴が、非対面、オンラインといったwithコロナ時代にはまり受け入れられたと思っています。

――導入先自体も広がってきていますか。

 2019年までは、大手マンションデペロッパーの中でも先進的な取り組みを積極的にやられている会社を中心に導入していただいていました。逆に言うと、それ以外の会社は様子見という感じだったのですが、三密を避ける、非対面化のキーワードが注目されるにつれ、そうした新しい取り組みに慎重だった会社からもお声がかかるようになってきました。また、導入先も以前は主要都市が中心でしたが、地方にまで広がりを見せたことで、ある意味キャズムを超えたという感触がありますね。

――ROOVの持つ手軽さ、リアルさが、不動産営業の体制が大きく変わる中マッチしたのですね。そもそもROOVを開発したきっかけは。

 以前マンション開発用地の仕入れを担当していて、その時の原体験から生まれたのがROOVです。 「用地仕入れは現地調査が命」と先輩から教えられたのですが、とにかく膨大な時間がかかります。しかしある時「Google Earth」が登場し、一次スクリーニングはPCでできるようになりました。それに伴い業務の効率と質が大幅に上がりました。

 これはマンションを選ぶ時も同様ですよね。お客様は時間をかけてモデルルームをまわりながら、住みたい物件を探していくしかない。実際に足を運ばなければ間取り検討すら難しく、それでは無駄が多い。この不便さをなんとかしようと考えました。ですから、ROOVは当初から、実際に足を運ばなくても間取りがわかるリアルさを追求していました。

導入最大のハードルは不動産業界ならではのカルチャー

――精度の高さを追求されていたとのことで、運用開始直後から採用もかなり進んだのではないでしょうか。

 お陰様で、設計思想と完成度の高さから、完成直後に大手不動産情報サイトでの採用が決まりました。情報サイトのオプションコンテンツになったので、年間まとまった量のVRコンテンツを安定的に提供することを前提にして制作体制も横築していきました。

 かなり順調な出足だったのですが、実際始まってみると全くの空振りで、想定していた3割程度しか採用されませんでした。

 その理由は画質です。高画質を求めるとデータ量が多くなり、どうしても動きが遅くなってしまう。不動 産情報サイトの動作保証環境内で3DCGをインタラクティブに動かすには限界がありました。そこで、画質の解像度を調整してデータサイズの問題をクリア。さらに独自エンジンを開発することで、高画質でもサクサク見られるサービスを実現しました。

――技術力で解決されたわけですね。

 データが重くて動かない、画質が悪いといった問題は技術力でカバーできましたが別の問題が残っていまして、それが不動産業界特有のカルチャーだったのです。マンションを販売する営業担当者は、モデルルームに来てもらい、そこで直接お客様とお話することを第一と考えています。そのため、何より大切なのはモデルルームに足を運んでいただくこと。逆に言えば、足さえ運んでいただければ、長年培った営業力でマンションの魅力を最大限にお客様に伝えられます。

 不動産情報ウェブサイトに求められるのは、モデルルームに足を運んでもらうための情報。鮮明に詳細がわかるよりも、きらきらしたイメージ映像のような「余韻を残す」やり方が好まれます。モデルルームに来る前にマンションに対する理解が進んでしまうと足を運んでもらえないのではという懸念があったようですね。

 ROOVのコンセプトは「より簡単に説明ができ、直感的に理解できる」というもの。商談のコミュニケーションをサポートするために開発しているので、イメージ広告としての提供価値は副次的。そのため現場では「あれば便利」という程度にとどまらざるを得ませんでした。

 ただ、独自エンジンの開発や画像の解像度の調整など、社内の開発投資はかさみました。大量かつ高速にデータのやりとりができ、極限まで自動化と効率化も進めた。当時は最新鋭の工場設備を備え、人員も確保できているのに、肝心の商品が売れないという状況でしたね。

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