コロナ禍で携帯大手4社に明暗、5G普及の鍵を握るはiPhoneか--各社の決算を読み解く

 携帯大手4社の2020年度第1四半期決算が出そろった。前四半期に続いてコロナ禍の影響を強く受けることとなったが、それが各社の携帯電話事業にどのような影響を与えているのだろうか。コロナ禍で大きな影響を受けた「端末販売」と「5G」、そしてこの四半期に本格サービスを開始した「楽天モバイル」の3点から、各社の動向と今後の戦略を比べてみたい。

コロナ禍が直撃した端末販売、各社の明暗を分けたのは?

 まずは各社の決算を振り返ると、NTTドコモは売上高が前年同期比5.3%減の1兆982億円、営業利益は前年同期比0.7%増の2805億円。KDDIは売上高が前年同期比0.3%減の1兆2427億円、営業利益は13.7%増の2907億円と、ともに減収増益となっている。

 一方で、ソフトバンクは売上高が0.7%増の1兆1726億円、営業利益は4.1%増の2799億円と増収増益を維持。楽天モバイルを有する楽天は、売上高が前年同期比15.7%増の6788億円、営業損益は207億円と、携帯電話事業への先行投資などで営業赤字が続いているようだ。

 4社はこの四半期、政府の緊急事態宣言を受けショップの営業時間短縮を余儀なくされるなど、特に販売面で大きな影響を受けている。中でもその影響が色濃く出ているのが端末販売で、減収となった2社はどちらも端末の販売を大きく落としている。

 実際、ドコモはスマートフォン・タブレットの販売が前年同期比で約130万台減少、KDDIも端末販売台数が45万台減少しているとのこと。その分端末販売にかかる費用が抑えられ、ドコモは端末販売関連の収支がプラス72億円、KDDIに至っては端末販売コストの減少による利益増が241億円と、大幅な利益押し上げ要因になっているのは皮肉なところでもある。

KDDIはショップ営業時間短縮の影響などで端末販売数が195万から150万に減少。それに伴い端末販売にかかるコストが減少し、利益は大幅に増加している
KDDIはショップ営業時間短縮の影響などで端末販売数が195万から150万に減少。それに伴い端末販売にかかるコストが減少し、利益は大幅に増加している

 もちろん前年同期比で端末販売が大幅に落ち込んでいるのには、2019年10月の電気通信事業法改正による値引き規制も少なからず影響しているようだ。実際、KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏は、端末販売減少の要因について「事業法改正の影響がなかったかというと、嘘になる」とも発言している。

 一方で、ソフトバンク代表取締役社長執行役員 兼 CEOの宮内謙氏によると、同社の端末販売は「16万くらい」と、他の2社と比べれば減少幅は小規模であり、端末関連費用も120億円の減少となるなど影響は小さいように見える。その理由について宮内氏が挙げているのが法人事業だ。

ソフトバンクの宮内氏
ソフトバンク代表取締役社長執行役員 兼 CEOの宮内謙氏

 ソフトバンクは5Gを見据え法人事業に力を入れており、特にコロナ禍によるテレワーク需要の拡大などによって、法人事業の売り上げは前年同期比5%増の1625億円、営業利益も前年同期比11%増の313億円と好調に伸びている。その法人事業の拡大によってタブレットなどの端末販売が大きく伸び、それが個人向けの販売落ち込みをカバーしたようだ。

ソフトバンクは法人事業の好調による端末販売の伸びが、個人向け販売の冷え込みをカバーして落ち込みを小幅にとどめたようだ
ソフトバンクは法人事業の好調による端末販売の伸びが、個人向け販売の冷え込みをカバーして落ち込みを小幅にとどめたようだ

 楽天モバイルは、4月8日の本格サービス開始直前に緊急事態宣言が発令される形となったが、それでも300万人は1年間無料で利用できるなど大規模なキャンペーン施策を繰り返していることもあり、6月30日には「Rakuten UN-LIMIT」の契約が100万を突破している。

 またキャンペーンにより大幅値引きで販売されたオリジナル端末「Rakuten Mini」などは販売が好調なようで、「売れすぎて在庫なくなり、入荷に1〜2カ月かかる状況だった」と、楽天の代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は話している。楽天モバイルも他の3社と同様、緊急事態宣言下ではショップの営業を休止・短縮していたが、「楽天市場」などのオンラインサービスから集客できる強みがあるため、そうした影響を受けにくかったといえる。

楽天の三木谷氏
楽天代表取締役会長 兼 社長である三木谷浩史氏

 ただ、緊急事態宣言が明けた6月以降、各社の端末販売は回復傾向にあるとのこと。再び緊急事態宣言が発令されれば話は変わってくるが、そうでない限り端末販売の減少は一時的なものと捉えられているようだ。

目論見が崩れたKDDI、5G普及の鍵を握るはiPhoneか

 では、楽天モバイル以外の3社が3月に商用サービスを開始した5Gの進捗に対し、コロナ禍はどのような影響をもたらしているのだろうか。まずはインフラ整備に関してだが、前期の決算でコロナ禍の影響による遅れを示唆していたドコモも、通信機器の生産拠点となる中国での経済活動が早期に回復したことで軌道を修正。3社ともに計画通り早期の全国カバーを推し進めていく方針を打ち出している。

 一方で、コロナ禍の影響が見られるのは5Gの契約者の伸び悩みで、中でも最も大きな影響を受けたのがKDDIのようだ。実際、KDDI代表取締役社長の高橋誠氏は、5Gの端末販売が「予定通りに進んでいない。少々焦りを感じている」と発言。危機感を露わにしている様子をうかがわせていた。

KDDIの高橋氏
KDDI代表取締役社長の高橋誠氏

 その理由は、KDDIが5Gのロケットスタートに注力していたからだろう。KDDIは5Gのサービス開始発表時、大手3社の中では最も多い7機種の5G対応スマートフォン投入を明らかにしている。またサービス開始に合わせて5Gを活用したイベントを多数開催するなど、積極的なプロモーションの計画も立てていた。それだけに、コロナ禍によってそれら全てのイベントが中止となり、ショップの営業時間短縮で端末販売も伸び悩んだことは、相当痛手だったようだ。

KDDIは5Gの商用サービス開始に合わせ、音楽やスポーツ、アートなどさまざまなイベントで5Gを活用する取り組みを進めていたが、それらが全て中止となってしまった
KDDIは5Gの商用サービス開始に合わせ、音楽やスポーツ、アートなどさまざまなイベントで5Gを活用する取り組みを進めていたが、それらが全て中止となってしまった

 一方、ドコモの代表取締役社長である吉澤和弘氏は、5Gの契約数が6月末時点で15万、8月1日時点で24万に達しており「計画を上回っている」と説明。ソフトバンクも現在の契約数は明かしていないが、やはり5Gの端末販売は計画通りだとしている。両社ともに5Gの普及は下半期が本番と見ているようで、ドコモは2020年度末に現在の10倍近い水準となる250万契約の獲得を目指すとしているほか、ソフトバンクの宮内氏も「晩秋から来年(2021年)にかけて5G祭りが始まる」と、下半期に注力する姿勢を示す。

NTTドコモの吉澤氏
NTTドコモ代表取締役社長の吉澤和弘氏

 なぜ、下期の契約獲得に注力するのかといえば、1つは低価格の5G端末が出揃うのが2020年後半と見られていること。そしてもう1つ、より大きな理由となっているのは、今秋に5G対応iPhoneの登場が見込まれるからだろう。国内で圧倒的な支持を得ているiPhoneが5Gに対応すれば、新iPhoneへの買い替えを促進することで必然的に多くの人が5G端末を手にすることから、そこで一気に勝負をかけたいというのが2社の目論見といえそうだ。

NTTドコモは2020年6月末時点で15万の5G契約者数を、2020年度末には250万にまで急速に増やすとしているが、そこには低価格の5G端末だけでなく、5G対応iPhoneの投入を期待している部分も大きいと見られる
NTTドコモは2020年6月末時点で15万の5G契約者数を、2020年度末には250万にまで急速に増やすとしているが、そこには低価格の5G端末だけでなく、5G対応iPhoneの投入を期待している部分も大きいと見られる

 ただアップルは、コロナ禍によってiPhone新機種の発表を数週間遅らせると発表している。各社ともに数週間の遅れ程度であれば大きな影響は出ないと見ているようだが、それ以上遅れることとなれば大幅に戦略が狂う可能性もあり、国内の5G普及はアップルに大きく左右されることとなりそうだ。

 ちなみに楽天モバイルは、6月に開始予定だった5Gの商用サービスがコロナ禍で遅れているが、今回の決算に合わせ9月末に開始することを明確にしている。こちらはまだ詳細が明らかにされていないが、当初より5Gの性能をフルに発揮できるスタンドアローン運用でのサービス提供を予定しているとのことで、どのような形で他社との差異化を進めてくるのかが注目される。

楽天モバイルはエリア整備5年前倒しを実現できるか

 その楽天モバイルを巡って、楽天は今回の決算に合わせいくつかの新たな取り組みを明らかにしている。中でも最も大きいのが4Gのエリア整備の前倒しだ。

 基地局整備が大幅に遅れていた楽天モバイルだが、現在は遅れを大きく取り戻して整備の前倒しを進めているそうで、6月時点では5739局で電波を射出しているとのこと。同社はすでに2021年3月までに人口カバー率70%を実現するとしているが、三木谷氏は今回の決算に合わせ、当初2026年までの実現を予定していた人口カバー率96%の達成を、5年前倒しして2021年夏までに実現すると明らかにしている。

遅れが目立っていた楽天モバイルのエリア整備だが、現在は前倒しが進んでおり、2021年3月には人口カバー率70%、同年夏には人口カバー率96%を達成したいとしている
遅れが目立っていた楽天モバイルのエリア整備だが、現在は前倒しが進んでおり、2021年3月には人口カバー率70%、同年夏には人口カバー率96%を達成したいとしている

 なぜ、5年もの大幅な前倒しを打ち出したのかというと、1つは基地局の設置場所を確保しにくい都市部での整備に目途が立ったこと。そしてもう1つは、KDDIに支払うローミング料金を減らしたい狙いがあるようだ。

 楽天モバイルのエリア整備はまだ途上で、多くの地域はKDDIとのローミングでカバーしていることから、エリア外で通信を利用された場合はKDDIにローミング料金を支払う必要がある。そのような状態で加入者を増やしてしまうとKDDIへの支払いが大幅に増えてしまうことから、楽天モバイルは早期にエリア整備を進めてKDDIへのローミング料支払いを抑えた後に、加入者の大幅獲得へと踏み切りたいのだろう。

 そして早期のエリア整備は、楽天モバイルの今後にとっても重要な意味を持つ。なぜなら、現在のRakuten UN-LIMITの契約者は、1年間無料キャンペーンによりお試し感覚で利用している人が大半と見られているからだ。

 実際、KDDIの高橋氏が「獲得・流出ともに大きな影響は出ていない。想定の範囲内だ」と話すなど、他の3社からは楽天モバイルに加入者が流出している様子は見られないとの声が聞かれる。「UQ mobile」「ワイモバイル」といったサブブランドで対抗策を打ち出してはいるものの、現時点で大きな影響が出ていないこともあって、基本的には3社とも様子見を続ける方針のようだ。

 そうしたお試し感覚のユーザーをキャンペーン終了後もつなぎとめるためには、メインで利用しても遜色のない品質とサービスを実現する必要があり、そのためには全国でのエリア整備が不可欠となる。楽天モバイルが真に3社に対抗できる勢力となるためにも、今回の整備計画前倒しが実現できるかどうかは大いに注目されることとなりそうだ。

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