新型コロナ感染拡大を受け、働き方、暮らし方は一変した。在宅ワークが急激に広まり、家の中で過ごすことが多くなった。外食が減り、家族と食事をする時間が増した。三井不動産と三井不動産レジデンシャルは、この急激な変化を受けて、居住者に向け「新型コロナウイルス感染拡大によるくらしサービスにおける居住者ニーズ調査」を実施。暮らしの中で今求められているサービスや、家の新たな役割を探った。
実態調査は、三井不動産レジデンシャルが分譲したマンション居住者、97名を対象に実施。6月4~19日にかけて、インターネットを介して行った。世帯属性は、共働き世帯が55%、専業主婦(夫)世帯が29%、単身世帯が8%となり、「6つのマンションで調査を実施したが、半数以上が共働き世帯であった。緊急事態宣言発令中の在宅勤務状況は、週5日以上が36%、週3~4回が33%、週1~2回が19%となり、週3回以上在宅勤務する人が約7割と非常に多かった」と三井不動産レジデンシャル 市場開発部部長の崎(漢字は立つ崎)山隆央氏は説明する。
三井不動産グループでは、居住者向けサービスとして、家事代行やハウスクリーニング、ショッピング、レジャー優待まで、幅広くすまいとくらしをサポートする「三井のすまいLOOP」を提供。加えて、新たなサービスを創出するため、「イノベーション推進グループ」や「LOOPサービスグループ」、社内の共働き社員から成る「共働き社員プロジェクトチーム」が連携し、潜在化するニーズの掘り起こしにも取り組む。
すでに、規格外野菜などを販売する「食品削減マルシェ」やいつでも受け取れる生鮮食品のECサービス「クックパッドマート」、不在時でも食品や日用品を玄関内まで配達する「LOOPナカ配」、平日の夜にマンション敷地内にキッチンカーを呼ぶ「月夜のキッチン」などを提供している。
今回の実態調査では、「キッチンカーの売上増」「食品配達サービスの注文数増」「時短に加え、体験ニーズの高まり」「在宅勤務を想定した共用部への要望」の4つのニーズが見えてきたという。
2019年7月から本格運用を開始した月夜のキッチンでは、売上が約2倍に増加。もともと「昼食時のオフィス街が主な営業先だったキッチンカーだけに、最初に運営する方に話をした時は『マンションから購入者が降りてこない』という声もあったが、時代は変わった。オフィス街でランチを購入した人が、帰宅前に夜ごはんとして購入する。トライアルは大成功し、本格展開することになった」と﨑山氏は経緯を話す。
「新型コロナ感染拡大により、在宅時間が増え、家で食事をする回数も増えた。食事づくりを時短で効率化したいニーズが高まり、1店舗当たりの売上が約2倍へと増加した。自宅近くで販売しているため『冷めないうちに食べられる』というメリットもある」(﨑山氏)とさらなる需要増に結びついたという。
同じく2019年の10月から導入を開始したクックパッドマートは、生鮮宅配ボックスをマンション共用部に設置し、入居者が受け取れるサービス。3月時点では72件だった注文数が、緊急事態宣言が発令された4月には272件にまで増加。3倍増という結果になった。「すでに竣工済みの4物件で導入されており、サービスの導入を検討している物件も20物件ほどある。大変人気の高いサービス」(崎山氏)とのことだ。
食事、掃除など家事に関連するサービスのニーズが高い一方で、体験型サービスのニーズも高まっているという。具体的には農業体験や職業体験、ものづくりなどを希望する人が多くなっており、住民同士の交流や子供向けイベントなどを望む声が上がる。崎山氏は「外出自粛により、リアルでの体験、人との交流を再認識した人が多いのでは」と分析する。
在宅勤務が急増し、マンション共用部に求められることも変わってきた。宅配ボックス、共用部Wi-Fiの利用意向が高くなり、スタディルーム、ライブラリーと続くが、共有スペースに関しては「利用意向が減った」と回答する人も多い。同様にキッズルームやパーティールームも利用意向が少なくなっており、「不特定多数の人が利用したり、三密になる可能性があったりすることから利用意向は減っている」(崎山氏)とする。
Wi-Fiについては利用者が急増し、「速度、質への要望も高い」(崎山氏)とのこと。スタディルームなどについては、非接触型ルームの設置を希望する人も多く、「在宅勤務により家族とは別の場所で仕事をするため共用部を利用したいが、感染対策が心配とする人も多く、在宅勤務ならではのストレスが垣間見える。業務内容や気分に応じて仕事しやすい場所が自宅の周辺に欲しいという意見が出ている」(崎山氏)と、この時期だからこそのニーズが浮き彫りになったという。
崎山氏は「アフターコロナ、ウィズコロナにおいて、家事など、日々の暮らしの効率化、時短に加え、体験を重視する傾向が出てきた。ライフスタイルの変化によりプライベートと仕事の空間境界線がフレキシブルになってきている。従来のように自宅とオフィスの往復でオンオフを切り替えていた境界ラインがなくなり、家の中に仕事が入り込んだ。より柔軟にオンオフの切り替えができることがポイント。今までも意識して暮らしまわりの強化に取り組んできたが、コロナの対応が大きな課題として加わった。多様化するニーズへの対応が求められていると実感している」とまとめた。
三井不動産グループでは「ニューノーマル時代に向けたサービスの対応」として、個別宅配に対応した「マンションマルシェ」や地域間交流プログラムなどに取り組んでいるとのこと。
あわせて、在宅勤務を快適にするための提案として「三井すまいLOOPイエナカOffice(仮称)」を企画。目隠しパネルや吸音仕様を採用した在宅勤務スペースの開発に着手。現状の家具レイアウトを大きく変えずに設置できるようにするなど、最小限の変更にとどめながら、在宅勤務環境を整える方法を企画している。
2020年秋頃に販売予定の分譲マンション「パークタワー勝どきミッド/サウス」では、個室ブースを用意した300平方メートルのコワーキングスペースを導入するなど、ハード面も強化。「新型コロナ感染拡大を受け、速やかに共用部のプランを変更した」(崎山氏)とし、ニーズを察知し、当初とは異なる設計にしたことを明かした。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」