テクノロジー業界では、Appleのデバイスのエコシステムを「ウォールドガーデン」(壁で囲まれた庭、つまり閉鎖されたプラットフォームのこと)と呼ぶことがよくある。Appleが自社デバイスの複雑で細かな仕組みを制御することによって、それぞれのデバイスがうまく連携する。そんな詩的で美しいテクノロジーの世界を表している。だが、今から数カ月後、そのウォールドガーデンの壁は、少し高くなりそうだ。
Appleは2020年秋に、「iPhone」「iPad」、そして「Mac」コンピューターを動かすそれぞれのOSである「iOS 14」「iPadOS 14」「macOS Big Sur」をリリースする予定だ。同社はこれらに数々の新機能を加えており、既にデバイスを所有しているユーザーに無料で提供する。新機能は利便性を提供するだけでなく、ユーザーをAppleの世界にさらに深く引き込むだろう。
1年前に導入された「Appleでサインイン」機能は、アプリ間の連携を強化し、ユーザーが「Apple ID」を使って、アカウントを作成したり、新しいアプリにサインアップ、既存のアプリにログインしたりすることを可能にする。そして今回、Appleは、iPhoneが車のバーチャルな鍵となる機能も発表した。この機能は、デジタルキーを作成して、スマートフォンだけで自動車を解錠し、エンジンをかけられるようにする。Appleの暗号化された「iMessage」サービスを通して、この自動車鍵を友人らと共有することも可能だ。
メッセージと言えば、iMessageアプリにも、新機能が提供される。FacebookやSlackのように会話をスレッド化する機能や、相手の名前を入力するだけで強調表示される機能が追加され、グループチャットがより魅力的になりそうだ。
「今日、世界は私たち全員に期待している。前進するために私たちが作り出すプロダクトとエクスペリエンスに対しても」。Appleの最高経営責任者(CEO)のTim Cook氏は、米国時間6月22日、ライブ配信された「World Wide Developer Conference」(WWDC)の基調講演で、そう語った。「私たちはイノベーションを止めることなく、これからの人々の生活を豊かにするために努力している」
自社のサービス間のつながりを強化するAppleの取り組みは目新しいものではないが、同社が22日に発表したさまざまな内容は、ユーザーがこれまで経験したことのないレベルの相互運用性をもたらすものだ。自社のデバイス上での体験を制御する取り組みのおかげで、AppleはMacコンピューターやiPhone、iPad、「Apple Watch」といった人気デバイス向けに、評判の高いソフトウェアを開発することに成功している。だが、その一方で、あらゆる種類のデバイスをApple製のものにしなければ、主な利点の多くを享受できないおそれがある、という状況にますますなっている。
同時に、世界各国の政府は、Appleのそうした力の振りかざし方について、ライバルを締め出しているのではないか、との疑問を呈している。欧州連合(EU)は、Appleの外部開発者に対する待遇について、2件の調査に乗り出した。Appleは、暗号化チャットサービスiMessageなどの主要人気技術を、Googleの「Android」OS搭載スマートフォンで利用できるようにする取り組みもしていない。
「Appleは、人々が、その内輪で暮らしていきたいと思うような世界を築くことを常に目標としてきた」。TECHnalysis ResearchのアナリストであるBob O'Donnell氏は、そう指摘する。はっきりしていないのは、Appleの最新機能群が、人々にApple製品だけでいいと思わせるだけの魅力を備えているのかどうか、ということだ。
同社はiOSの2つの重要な要素にひっそりと変更を加えた。iOSの次のバージョンでは、iPhoneのデフォルトの電子メールアプリとブラウザーアプリを変更できるようになる。Appleは、この機能について、基調講演で一度も言及しなかったが、プレゼンテーションスライドの1つに記載があった。
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