自分の頭の中身をアップロードして、自ら積極的に永遠に生き続けようとすることと、親族や世間が何らかの技術で死者を生き返らせようとすることの間には、大きな違いがある。
2015年、ソフトウェア会社Replikaの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のEugenia Kuyda氏は、親友のRomanさんを失った。モスクワで交通事故に遭ったという。Kuyda氏はその死を悼む過程でITに頼った。長年の間に交わした何千ものSMSのメッセージを元に、チャットボットをトレーニングし、家族や友人と「話す」ことができる、デジタル版のRomanさんを作ったのだ。
Kuyda氏は、最初にそのボットにメッセージを送ったとき、本当にもう一度Romanさんと話しているように感じて驚いた。「とても感情を動かされました」と同氏は言う。「そんな風に感じるとは思っていませんでした。チャットボットを作ったのは私ですし、どうやって作られたのかも知っていたのですから」
まるで「ブラック・ミラー」(訳注:風刺的なストーリーで知られる、英国で放映された1話完結SFドラマシリーズ)に登場する物語のようだが、実際、同ドラマには同じようなエピソードが存在する。2013年に放送されたエピソード「ずっと側にいて」では、付き合っていた恋人を自動車事故で亡くした若い女性を中心としたストーリーが展開される。悲しみに暮れる主人公は、過去のオンラインコミュニケーションやソーシャルメディアのプロフィールを元に、人工知能(AI)で再現された恋人とコミュニケーションが取れるサービスに登録する。物語では、その後このAIを元にしたアンドロイドが登場する。しかし、そのアンドロイドは決して恋人と同じ存在にはなれない。
ただしKuyda氏によれば、Romanさんのチャットボットは友人に捧げる個人的なプロジェクトで、他人のためのサービスではないという。また同氏は、これと同じことをサービスとして大規模に行おうとすれば、多くの壁にぶつかるだろうと述べている。それを行うには、どの情報が公の場のもので、どれがプライベートなものかや、チャットボットの会話相手との関係性といった要因を考慮に入れる必要がある。自分の両親と話すときの口調は、友人や同僚との話すときの口調とは違う。その違いを生み出す方法はないだろうとKuyda氏は述べている。
またデジタル版の友人は、話し方を真似ることはできても、それは過去の発言に基づいたものであり、新しい意見も出てこなければ、新しい会話を生み出すこともできない。また、人間は年代が変われば考え方も変わるが、チャットボットでどの年代の話し方を取り込ませるかは難しい問題になるだろう。
「人々は大量のデータを残していますが、そのほとんどは個人的なものでもプライベートなものでもなく、本人がどんな人物かに関するものでもありません」とKuyda氏は言う。「それを使っても、人間の影を作れるだけです」
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