続いては、木股氏が「クボタが進める農作業安全の取組」と題し、農林水産省が推進する農作業安全確認運動と連携する形でこの春から同社が進めようとしている活動を中心に、農業機械メーカーとしての取り組みを紹介した。
農業者の作業者あたりの死亡事故数は建設業の約2倍に上るが、その原因として高齢者の機械操作ミスによる事故が目立つこと、死亡事故のうちトラクター作業に関わるのが約3割であることなど、木股氏は「農業機械メーカーとして座視できるものではない」と語り、「この春から2つの取り組みを開始することにした」と続けた。
1つめは「農作業安全の呼びかけ活動」だ。トラクターや田植機、コンバイン、草刈り機などの農業機械を安全に使用するための注意点がある。農業者は誰もが知っていることだが、長年の慣れから来る「うっかり」が事故につながりかねないため、春の農作業が本格化する時期に、基本事項を再確認してもらうための呼びかけ活動を実施するという。
「トラクター作業では必ずシートベルトをする、コンバイン作業ではフィードチェーンの内側には手を入れないなどの基本的な安全ポイントがあるので、これらをまずユーザー訪問時にチラシや動画などを用いて呼びかけていく。現在は動画集などの準備を進めているところだ」(木股氏)
2つめの取り組みが「安全フレーム・シートベルト装備の徹底」だ。農作業事故で最も死亡事故につながりやすいのがトラクターの転落・転倒事故で、その時にオペレーターの命を守るための安全域を確保するのが「キャビン」や「ロプス」と呼ばれる安全フレームだ。併せて、死亡事故などの重大事故を防ぐためには、シートベルトの装着が重要だ。
「特にロプスの場合は、シートベルトを締めていなかったために死亡事故になった例も多くある。しかし残念ながらつねにシートベルトを締めている人はわずか3%というアンケート調査があることも承知している。安全フレームのついたトラクターを使用するのと同時に、つねにシートベルトを締めることが大切な命を守るために大変重要になる」(木股氏)
農業現場で稼働しているクボタ製のトラクターは推定約54万台で、そのうち約84%は安全フレーム、シートベルトが装備済みだ。一方、装備されていない残り約16%の中には、機械の構造上で安全フレームとシートベルトの後付けが可能なものがあり、その台数は約3万3000台という。
「その約3万3000台を対象に安全フレームとシートベルトの後付けを推進しようというのが取り組みの具体的な内容」(木股氏)
「1990年代に商品化していた後付け用の安全フレーム・シートベルトのキットを復刻する。多くのトラクターユーザーが大きな負担を感じることなく安心してトラクターを使えるように、組み付け費用込みで1万円とした」と述べた。
最後に、農林水産省や研究機関などと連携して取り組みを進めているスマート農業の可能性について触れた。
「スマート農業は生産性向上や省力化を実現するだけでなく、きつい、危険な作業から農業者を解放し、誰もが取り組みやすい農業を実現する。農作業安全にも大きな効果をもたらすため、スマート農機の開発・普及を通じて農作業事故の防止に貢献していきたいと考えている」(木股氏)
具体的な事例として、木股氏はロボットトラクターに代表される自動運転技術を搭載した農業機械を紹介した。
「自動運転技術によってオペレーターは運転から解放され、周辺に危険がないか、適切な作業が行われているかなどの監視作業に集中できるようになる。経験の浅いオペレーターにとっては特にその効果が大きいと考えられる」(木股氏)
2019年から販売を開始したラジコン草刈り機については、「急傾斜地で遠隔操作が可能な草刈り機は中山間地域の皆様を中心に、大いに活用いただけるものと考えている。次にドローンの農業利用。近年のドローン技術の発展はめざましく、農薬散布や作物のセンシングなどに活用されている。遠隔操作によるドローンでの農薬散布は、作業者が農薬をかぶるリスクを低減するなど、安全面からも効果が期待されている」とし、新たな技術にも積極的に取り組む姿勢を示した。
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