ITビジネスメディア「CNET Japan」を運営する朝日インタラクティブは10月30日、フードテック(食×テクノロジー)をテーマにしたカンファレンス「CNET Japan FoodTech Festival 2019 “食”の新世界に挑戦するイノベーターたち」を開催した。
ここでは、その中から農林水産省 大臣官房政策課 首席生産専門官の石田大喜氏による「農業現場からの先端技術への期待」と題する講演の模様をお伝えする。
冒頭で石田氏は、「データで見る農業の現状」を紹介した。日本の人口は約1億2600万人だが、2050年には1億人ほどに減少する。これに高齢化が加わって国内の食市場は相当減少すると想定される。その一方で、地球全体では現在約70億人の人口が約3割増加し、2050年には100億人ほどになると見込まれている。経済発展もともなって、世界の食市場は日本と逆に相当拡大していくとみられる。
「これまでの日本の農業や私たち農水省は、どちらかというと国内を向いていた。国民に食料を供給するのは国の重要な責務だが、市場が減少する中で農業生産も縮小してしまう懸念がある。これからは(日本国内)1億人への食の供給だけでなく、100億人に対する食の供給という観点で農業や食産業を考える必要がある」(石田氏)。現状では日本の食料輸出は低いレベルにとどまっているが、「拡大させられる可能性がある」と石田氏は話す。
とはいえ、問題は人口減だけではない。基幹的農業従事者は「この20年間で約256万人から約175万人まで約3割減っており、平均年齢は60歳から67歳と、高齢化も進んでいる」(石田氏)ことも喫緊の課題だ。若年層の農業者数の減少は下げ止まってきており、政府として力を入れていることもあって若手の新規就農者の「増加傾向も見られる」(石田氏)。しかし、昭和一桁世代のリタイアや、団塊世代の「定年帰農」といったトレンドが終息するなど、「この先さらに厳しい環境になるという危機感を持っている」と石田氏は語る。
ただし、ここで紹介したデータは「自営農業従事者」で、農家の世帯員を表しており、農家や農業法人で雇用されて働いている人のデータは入っていない。「そのデータを見ると、農業雇用者の人数は徐々に増えているのが現状。今22万人なので、農業者全体を足したものだと約1割5分を占めるようになっている」(石田氏)。
有効求人倍率は高くなっており、人材需要は相当旺盛になっているものの、「他産業と比べると競り負けている」と捉えることもでき、より魅力的な産業にすることで雇用需要に応じて人材が確保される環境を作っていきたいと石田氏は話す。
雇用者増への影響が大きいのは農業法人だという。「農業法人が相当増えていて、今2万を超えている。法人は自ら経営規模を拡大したり、経営を多角化したりするために必要な人材の雇用を積極的に進めている状況」(石田氏)。
経営規模の拡大も進んでいるという。5ヘクタール以上の面積を有する比較的規模の大きい農業経営(東京ドームが約4.7ヘクタール)は20年前には約3割だったが、直近では約6割まで倍増していると石田氏。100ヘクタール以上の“メガファーム”は今や1割という状況で、大規模化が進んでいるという。その中で、より高度な経営管理や生産管理が求められてきているが、他産業と比べると労働生産性は高いとは言えないと指摘する。
現場で農家に話を聞くと、その悩みの多くは「人手が足りない」「生産物をなかなか高く売れない」「肥料や農薬、機械などの資材が高い」という3つに収れんされると石田氏は語る。「これらの悩みを解決することが労働生産性の引き上げにつながるため、それらの問題に技術や政策で1つ1つしっかり応えていきたい」(石田氏)。
高齢農家がリタイアしたときに生じる問題として、若い人がやりたがらない「3K」、つまり「きつい」「汚い」「危険」な仕事の改善だけでなく、それとは違う「3K」の問題もあると石田氏は指摘する。「例えばみかんを大きくするために『摘果』、つまり間引き作業は難しくて匠の技であり、『勘』と『コツ』と『経験』という『3K』により高い品質が管理されているという現状がある」(石田氏)。
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