ルワンダ各地の病院から依頼がくると、血液パック(輸血用血液製剤)を入れた専用ケースを積み込んだ飛行機型のドローンが、発射台から勢いよく飛び立つ。病院の上空に到着するとドローンはケースを投下。パラシュートによってゆっくりと血液パックが入ったケースが病院の近くに落ちるーー。
これは、東アフリカの内陸国・ルワンダに拠点を持つ、米国の救命ベンチャー「Zipline(ジップライン)」が提供する最先端の医療サービスだ。従来2時間かかっていた病院への血液の配送時間をわずか15分に短縮した。同社は2016年10月からルワンダで事業を展開しており、現在は一国をカバーする規模でドローン物流の商業化に成功。すでに評価額が1000億円を超えるユニコーン企業入りも果たしている。
CNET Japanでは、神戸市が日本の若者向けに実施しているルワンダ起業体験プログラム「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」に同行する形で、Ziplineを現地取材する機会を得た。日本から1万キロ以上離れたルワンダで活躍するドローンベンチャーの実態をお伝えする。
Ziplineの仕組みはこうだ。帝王切開をして出血が止まらない妊婦など、緊急で血液が必要になった病院からオーダーが入ると、同社の倉庫スタッフが、血液パックや医薬品を耐久性の高い専用のケースに入れ、飛行場のスタッフに渡す。
受け取った飛行場スタッフは、ケースをドローンの底部に収納。スマートフォンで機体のQRコードを読み取ることで、ドローンと血液の情報を紐づける。その後、ドローンを発射台に乗せてから主翼とバッテリーを取り付け、キガリ国際空港から飛行許可が下りると病院に向けてドローンを発射する。
このドローンの機体の重さは約20Kgで、血液を2Kgまで乗せることができる。最高時速130キロで依頼主のもとへ飛んでいき、1度のフライトで約80キロ(往復約160キロ)、最大90分ほど飛ぶことができるという。フライト中のルートなどは専用のタブレットから確認することが可能だ。
病院周辺でパラシュートを使ってケースを落下させるが、耐久性が高いため、地面に落ちた衝撃で血液パックが割れてしまうといったことはないとのこと。同社によれば、自動車2台分以内の誤差で落下させることができるという。
血液を届け終わって戻ってきたドローンの回収方法も非常にユニークだ。コンピューター制御されたワイヤーを、本体の尾翼にあるわずか2cmほどのフックに引っ掛ける方法でキャッチする。ほとんどのドローンは1度でキャッチできるが、取材時は1度目のキャッチに失敗し、ドローンが再び旋回して2度目のキャッチで回収に成功していた。キャッチしたドローンの揺れが落ち着くと、スタッフがバッテリーを取り外し、充電スポットへと持っていく。
主要な道路は整備されているルワンダだが、農村部などは歩くことも困難なほど未舗装な道が多く、ひとたび大雨が降ってしまうとぬかるんで車が通ることは難しい。また、同国は“千の丘の国”と呼ばれるほど山や丘が多く高低差も激しいため、そもそも荷物を運ぶこと自体が容易ではない。
そうした背景もあり、道路の状態に左右されないドローン配送が重宝されているというわけだ。たとえば、これまで車で3時間かかっていた病院には20分で届けられるようになったそうだ。
Ziplineの配送対象となっている病院数は現在540ほどあり、首都キガリ以外の7割以上のエリアをカバーしている。毎日7〜19時までの12時間で平均30回ほどドローンを飛ばしており、365日休むことなく血液を届けているという。
また、このうち40%がすぐに血液が必要な緊急の依頼だという。飛行機型で安定したフライトが可能なこともあり、雨風などで配送を休むことはないとのこと。機体トラブルは3カ月に1度程度あり、もし故障した場合には、内蔵のパラシュートを使って機体をできるだけ安全に着陸させるという。
血液の安定供給については、過去3週間でどれほどオーダーがあったのか、どれくらいの血液が残ったのかを確認し、必要な量だけを中央病院から届けてもらう体制を構築。これにより、鮮度が重要な血液の廃棄率も圧倒的に下がっていると説明する。
気になるビジネスモデルだが、病院側がZiplineに対して支払う料金は無料だ。同社はルワンダ政府と包括契約を結んでおり、配送にともなう費用は保健省が負担する仕組みなのだという。それほど、同国にとってもZiplineは欠かせない存在となっているのだろう。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス