ところで、なぜ米国企業のZiplineが、あえて遠く離れたルワンダで血液を届けているのか疑問に感じる人もいるだろう。そこには、ルワンダの経済成長や国家戦略が大きく影響している。
ルワンダは、フツ族とツチ族の対立をきっかけに発生した1994年のジェノサイド事件によって、わずか100日間で人口の1割近い80万人もの人々が虐殺されたことで知られているが、実はその内戦から26年が経ち、今では“アフリカの奇跡”と呼ばれるまでに急成長を遂げている。
同国は2010年以降、平均7%前後の実質経済成長率を維持しており、ルワンダ政府は2020年までに中所得国、2035年までに高中所得国、2050年までに高所得国となる目標を掲げている。世界銀行の「Doing Business(投資環境ランキング)2019」では、全世界191カ国地域中29位、アフリカ第2位にランクインした。
こうした経済成長の起爆剤の1つとなったのがITだ。ルワンダでは、農業がGDPの約3割を占める一方で、国土が狭く、資源も乏しい。また、内陸国のため輸送費が高いという問題を抱えており、これらを克服するために経済特区の整備やIT産業に力を入れている。もちろん、まだまだ未成熟だが、4Gのエリアカバー率が9割を超えるなど着実にIT環境を構築しつつある。
また、ルワンダは2000年から独裁政権を続けているポール・カガメ大統領の手腕により、アフリカの中でも特に治安が良く、1年を通して気候も安定している。そのため、タンザニアやウガンダなどの周辺国にビジネス展開する際のハブ拠点としても期待されており、海外企業には積極的に社会実験の場を提供している。こうした背景もありZiplineは、米国のようにドローンに対する厳しい規制もなく、政府のバックアップを受けながら事業を展開できるルワンダを選んだというわけだ。
同社はルワンダに複数の配送拠点を持つが、私が訪れた「Zipline Muhanga」は、首都キガリから車で1時間半以上離れたムハンガ地区にあった。その理由は、ムハンガがルワンダの中心に位置するため、周辺の病院に効率よく血液を届けられること。また、キガリには病院が多いため緊急性が低く、万が一ドローンが故障で落下してしまった際に通行人と接触事故を起こす可能性があることなどから、あえて都市部から離れた場所に建設したのだという。
ちなみに、Zipline Muhangaのスタッフ数は7人で、ナースや薬剤師など医療従事者のバックグラウンドを持つ3人のスタッフが倉庫で血液を取り扱い、4人の空港エンジニアがドローンの発射を担当しているという。
Ziplineが2016年10月にルワンダで事業を開始してから間もなく3年半が経とうとしているが、同社はすでにルワンダのドローンビジネスにおいて他社の追随を許さない確固たる地位を築いており、2019年4月からは2カ国目となるガーナにも進出している。
また、2019年5月には、豊田通商が事業会社としては初めて同社に出資。共同でグローバルなドローン物流事業を開発するとともに、豊田通商が自動車関連事業で培ったノウハウを生かし、Ziplineの技術開発やオペレーション支援などの領域で協業することを発表している。
IT立国を目指しているルワンダだが、残念ながら代表的な国産ITサービスは、キガリ市内を走るバスに非接触型電子決済システム「Tap & Go」を導入しているAC GROUPくらいしか見当たらない。そんな同国において、海外企業ではあるものの、ZiplineがIT立国の実現に向けて果たす役割は大きい。
同社は今日も、ルワンダ各地の病院に血液パックを届けて、国民の命を救っている。
(取材協力:神戸市「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」supported by Tiger Mov)
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