元パソコン誌編集長らが取り組む農業IoT--約2万円の「田んぼカメラ」や除草ロボット

 NPO(特定非営利活動法人)のかわごえ里山イニシアチブは2月16日、第2回田んぼIoTセミナーを開催し、低コストで圃場の見まもりや除草などを行うための取り組みについて紹介した。

田んぼを自動的に動き回る「自動運転除草ロボット」

 東洋大学総合情報学部の小瀬博之教授は環境コミュニケーションゼミの学生が開発した「無農薬・無化学肥料の水稲栽培における自動運転除草ロボット」を紹介した。

東洋大学総合情報学部の小瀬博之教授
東洋大学総合情報学部の小瀬博之教授

 自動運転除草ロボットは田植え後の田んぼを自動で動き回ることで、雑草が発芽するのを防ぐというもの。教育用の小型コンピュータ「Arduino」をベースに加速度センサーやモーターを動かす制御プログラムなどを導入して製作したものだ。

環境コミュニケーションゼミの学生が開発した「無農薬・無化学肥料の水稲栽培における自動運転除草ロボット」
環境コミュニケーションゼミの学生が開発した「無農薬・無化学肥料の水稲栽培における自動運転除草ロボット」

 「2つのモーターで直進し、加速度センサーで衝突を検知すると停止してから後退、その場で旋回する。それで違う方向に進んでいくという簡単な仕組み」(小瀬教授)

自動運転除草ロボットの構成
自動運転除草ロボットの構成
ロボットの走行手順
ロボットの走行手順

 田んぼに合鴨などを放って泳がせると水が濁り、雑草の光合成を阻害することで発芽を防げるのと同じ仕組みとのこと。

 「さまざまな除草ロボットが開発されているが、これは1万円くらい。もう少し安くできる見込み」(小瀬教授)

約2万円で実現可能な「田んぼカメラ」

 続いて日経BP社で「日経パソコン」や「日経Mac」などの編集長を歴任した林伸夫氏が田んぼを見守る「田んぼカメラ」の開発状況を発表した。林氏は出版社でパソコン業界や大企業のシステム導入記事などを執筆・編集してきたが、「無農薬農法を応援したいのと、プログラミングも大好きだったので協力することにした」と話していた。

「田んぼカメラ」を開発した林伸夫氏
「田んぼカメラ」を開発した林伸夫氏

 田んぼカメラというのは、稲の生育状況をカメラで撮影し続け、その写真を自動的にサーバーに送信・保存するというもの。2016年に開発をスタートし、現在は1年以上にわたって2世代目のテスト運用を続けている。

田んぼカメラの開発経緯
田んぼカメラの開発経緯

 するべきことは「稲の生長」と「出穂」の確認に加えて、1日の平均気温の計測だった。電源はなく、田んぼから民家まで近くても200m以上あるためWi-Fiにもつながらない。稲の生長と出穂を確認するためには高精細画像を1時間に1回送信する必要がある。

 そこでソーラーパネルからバッテリーに充電し、Raspberry Piベースのコンピュータに載せたカメラモジュールで撮影した画像をLTE回線経由でサーバーに送信する田んぼカメラを製作した。かわごえ里山イニシアチブからは「1台2万円に収めたい」という要望があったため、極限まで予算を絞ったものの、「全部合わせて約2万3000円、通信料金は月額600円程度という形になった」と林氏は語った。

 「最も工夫したのが電源部分だった。大きなソーラーパネルは1万円程度かかるので、5Wのパネルで2600円、ソーラー充電コントローラーで1430円など工夫した。待機電力を0にするために電力消費量を極限まで下げるため基板から設計し、1時間ごとに起動して撮影後は完全に電源を落とす仕組みにした」(林氏)

 撮影した画像をSORACOMが提供する通信サービスを経由してかわごえ里山イニシアチブのレンタルサーバーに送信し、MySQLで構築したデータベースに格納。再生開始と終了の日付をスライダーで選択することで、ブラウザー経由で生長映像を確認できる仕組みも作った。

田んぼの生長記録を再生できるビューワーも開発した
田んぼの生長記録を再生できるビューワーも開発した

 「それまでのデータを全部データベースに入れていつでも確認できるようにし、稲だけでなくマコモの生長記録も行った」(林氏)

稲だけでなく、マコモの生長記録も行った
稲だけでなく、マコモの生長記録も行った

 1号機は台風時の洪水で浸水して壊れてしまい、2号機は1週間から10日程度で停止するトラブルにも見舞われたが、原因を究明して現在は安定稼働しているという。

 「これからはそういった教訓を生かして、一定時間おきにプログラムを監視し、必要に応じて強制再起動する『ウォッチドッグ』の仕組みなども考えている。また、蓄積したデータをビッグデータとしてどう活用していくかについても考えていきたい」(林氏)

 田んぼカメラでは気温も計測しており、稲の生育に重要な指標である「登熟積算気温」も正確に記録できたという。

 「日照データは明るさだけでなく、向きも考えるべきか検討しており、2020年は新たにCO2センサーで田んぼ周辺の状態を確認したい。CO2がどのような影響を及ぼすのかも、農家の方の知見や助言を仰ぎたい。そのほかには土中温度をセンシングする仕組みも有効に機能しているが、腐食しやすいため、それを防げる仕組みを検討する」(林氏)

田んぼカメラのハードウエア構成
田んぼカメラのハードウエア構成
田んぼカメラのシステム構成
田んぼカメラのシステム構成

 林氏は本体が約2万3000円、月額600円で運用できる田んぼカメラのテスト機を作り上げたが、運用面では通信回線に検討の余地があると話す。

IoTで利用できる通信回線は数多くあるが、田んぼで用いる場合は通信距離が必要になる
IoTで利用できる通信回線は数多くあるが、田んぼで用いる場合は通信距離が必要になる

 「最近出た『LPWA(Low Power Wide Area Network)』なら年間100円程度で使えるが、高精細データの送信はできない。でも水面の高さをセンシングしてその数値だけを送信するような仕組みなど、データ量がそれほど必要でない場合にはLPWAが有効に使える。920MHz帯を使って通信するため、免許なしで使える『Sigfox』なども年間1440円で使える。場面によって使い分ければいいのではないか」(林氏)

 今後は撮影した画像をAIなどを用いて分析することも検討しているという。

 かわごえ里山イニシアチブではマコモの圃場にも田んぼカメラを設置しているが、代表理事の増田純一氏はマコモダケの生育分析への活用を期待していると話した。

かわごえ里山イニシアチブ 代表理事の増田純一氏
かわごえ里山イニシアチブ 代表理事の増田純一氏

 「マコモの栽培者によれば、9月〜11月にマコモダケが突然出てくるという。どういう時期に出てくるのか分からないが、ビッグデータを蓄積して分析すれば分かるようになるのではないか」(増田氏)

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