ソフトバンクグループは2月12日、2020年3月期第3四半期決算を発表した。売上高は前年同期比1.1%減の7兆898億円、営業損益は129億円と、前四半期に続いての営業赤字となった。
だが、同日に実施された決算説明会で、同社の代表取締役会長兼社長である孫正義氏は「潮目が変わった」と話す。その理由の1つは米国の通信子会社SprintとT-Mobileの合併に関して、米国のいくつかの州で実施されていた合併差し止め訴訟に勝訴し、合併が最終段階に入ったことだ。
これを受ける形で、Sprintの株価は1日で70%近く上昇したという。ソフトバンクグループにとって、大きな負債を抱え不振が続いていたSprintは、長きにわたって業績に悪影響を与えてきた。それだけにT-Mobileとの合併実現に目途が立ち、Sprintの抱える負債を考慮する必要がなくなったことが、業績改善に与える影響は大きい。
2つ目は、同社が中心となって運用しているソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資先企業の株価が、回復傾向にあることだ。そもそも前四半期にソフトバンクグループが営業赤字に転落したのは、Weworkの経営危機やUberの株価低迷など、出資先企業の不振が主な要因だ。だが孫氏によると、今四半期では出資先企業88社のうち、評価・実現益が出ている38社の合計が1.9兆円で、評価損となっている31社の合計が0.8兆円となり、1兆円の投資利益が出ていると説明する。
それに加えて、今四半期のうちに上場している出資先企業の株価が上昇したことから、営業損益は9703億円から2251億円と、大幅に縮小しているとのこと。さらに「1カ月ちょっとの間に約3000億円時価総額が膨らんでいる」といい、決算発表の前日となる2月11日時点であれば、連結での営業利益は黒字転換したとしている。
ただ、それでもWeworkの問題が解決したわけではない。そのため孫氏は、Weworkに関する直近の取り組みについて説明。コワーキングスペースの市場自体は成長していることから、改めて5年間の明確なマイルストーンを置くとともに、その達成に必要な資金を約5800億円分用意。さらに不動産業界での事業再建に実績があるというサンディープ・マサラニ氏を新しいCEOに迎えたことで、立て直しを実現できると自信を示している。
そして3つ目は、利益は赤字でも株主価値が上昇していること。ソフトバンクグループは投資会社となって以降、事業会社で重視される営業利益ではなく、株主にどれだけ還元できるかという、株主価値を指標として重視する姿勢を示している。
前四半期となる2019年9月末時点では、ソフトバンクグループが持つ株式の価値が26兆円で、そこから純有利子負債の5.5兆円を差し引いた20兆円が株主価値になるとのこと。一方で2020年2月12日時点では、保有株式の価値が31兆円、そこから有利子負債6兆円を引いた25兆円が株主価値となることから、孫氏は「株主価値は5兆円増えた」と説明する。
その上で、投資会社のソフトバンクグループにおいて「投資している人にとって売り上げや利益は関係ない。保有する株式の価値が増えたか減ったかという物差しが重要なのではないか」と説明。利益は赤字だが、投資家が重視する株主価値を最大化することが、同社の業績を見る上では重要だとした。
株主価値を重視するソフトバンクグループの今後を見据える上で、重要になってくるのがさらなる投資、さらに言えばソフトバンク・ビジョン・ファンドの第2号ファンド立ち上げである。すでに同社は第2号ファンドの立ち上げを表明しており、覚書ベースで1080億ドル(約11.7兆円)の資金を集めたことを明らかにしている。
しかし、今回の決算説明会で、孫氏はWeworkの問題などを受け「色々な反省を含め、今回は少し規模を縮小してやるべきだと思っている」と回答。第2号ファンドの契約は一度据え置き、小規模のファンドを立ち上げて1〜2年間の短期間で投資し、実績を出して出資企業からの安心感を得た上で、改めて正式に第2号ファンドを展開することを検討していると説明した。
またソフトバンクグループに関しては、2020年2月に“物言う株主”として知られるエリオット・マネジメントが同社の株式を25億ドル近く取得し、最大200億ドル(約2兆2000億円)の自社株買いや社外取締役の増員、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの情報開示などを求めたことで注目されている。
孫氏はエリオット・グループの経営陣と2週間ほど前に会って意見を交換したそうで、基本的な方針は「私の考えと一致する」と説明。今後前述した3つの取り組みについて検討を進めていくという。また、株主に対しては「物を言う株主も、そうでない株主も同じ懸念を抱いていると思う」と話し、真摯に対応していきたいとした。
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