アイトラッキングには、ごく現実的な合理性もある。グラフィック処理を、インテリジェントに中心窩だけに絞る(フォービエイテッド・レンダリングという)ことができるため、同じように見えていながらプロセッサーへの負担が少ないエクスペリエンスを実現できる。つまり、画像のなかで視野の中心部分だけを最大限の解像度と画質にして、それ以外の部分についてはGPUの処理サイクルを節約できるのである。
TobiiとPico Neo 2 Eyeで筆者が試したデモでは、グラフィックエフェクトを適用した部屋が表示され、アイトラッキングとフォービエイテッド・レンダリングあり/なしで試すことができた。アイトラッキングを使った方がフレームレートは滑らかで、したがってラグもVR酔いも少ない。
筆者のメガネが分厚いせいで、Pico Neo 2 EyeのアイトラッキングVRカメラの内輪にうまく合わないこともあったが、今後のヘッドセットは、筆者のようなメガネにもうまく対応するよう改良されることを願っている。
一方、アイトラッキングには、差し迫る未解決の問題もある。企業がユーザーの関心を把握でき、ターゲティング広告にでも何にでも利用できてしまうということだ。アイトラッキングは、一種の読心術に利用できるとも言え、プライバシーやデータ追跡についてあらゆる疑問が浮上する。ウェブページや動画のどの部分に視線が向いているのかまで、広告トラッカーに知られてしまっていいものだろうか。そのデータはどう共有され、個人を特定できる情報にどう紐付けられるのか。感情の状態は記録できるのか。それとも、そもそも企業はこうした眼球の動きが感情を示すと考えるのか。デジタルの行動追跡という領域に生まれてくる、新しい論点だ。
Oculus Questでは、固定式のフォービエイテッド・レンダリングが使われており、ディスプレイの中心部だけ解像度を周辺より高くしている。その機能のおかげで、今のところFacebookはアイトラッキングを採用しておらず、Facebookのような企業がアイトラッキングデータをどう扱うのかという当面の問題は回避される。現在、Oculusヘッドセットを使ってFacebookにログインしている場合は、OculusのVRアクティビティがターゲティング広告に利用されている。アイトラッキングは、どのように扱われるのだろうか。Qualcommは、XRプラットフォームで複数の同時カメラを介して追跡できる情報量を増やしており、集めたデータの処理に関して一定のビジョンを持っている。だが、それがどう展開されるかは、まだ明らかになっていない。
コストの問題もある。「Pico Neo 2」は、アイトラッキング機能付き(Pico Neo Eye 2)が900ドル前後、同機能なし(Pico Neo 2)が700ドル前後とだいぶ差がある。アイトラッキングでグラフィック性能が向上する一方、それがスタンドアロン型ヘッドセットの全体的なバッテリー持続時間にどう影響するのかも、明らかになっていない。
それでも筆者は、アイトラッキングがいつ家庭用VRヘッドセットに採用されるのか、そしてどのように扱われるのかと考えている。それは遠からずやってくるのかもしれないが、そうなれば、プライバシーとユーザーのトラッキングに関する懸念に、再び関心が向けられることになるだろう。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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