そうかもしれない。だが、顧客の意思決定を誘導するために広告を使うことは少なくとも100年前から行われていたことだし、この状況は全体として、消費者にとってはいいことなのではないだろうか? 先週私はスマートブラインド用のバッテリーを探して車で2つの店に行った。どちらの店でも目当ての製品が在庫切れだったので、Amazonのアプリを立ち上げ、(どちらの店の販売価格よりも安く)1箱注文し、翌日の午後にそれを受け取った。 私はその瞬間、問題のある広告や利益相反はさておき、Amazonは今でも全般的には素晴らしい顧客体験を提供していることを思い出した。恐らく、Amazonは最良のユーザー体験を提供することでオンライン小売りの現在の地位を軽々と獲得したのだろう。
だが、これは従来の顧客の選択を誘導する方法より強力だ。Amazonが最高の顧客体験を提供できるのは、同社が短期的には収益を減らしても、競合を完全に締め出せるからでもある。
例えば「スマートバッテリー」がAmazonのサイトで10ドルで売られているとする。Amazonが望めば、自社ブランドのスマートバッテリーを赤字覚悟で8ドルで販売できる。消費者は安い方を購入するから、競合は廃業に追い込まれる。そして3年後、Amazonは価格を12ドルにだって引き上げられる。
Amazonは、小規模なレベルでは恐らく、そんな小細工はしないだろう。だが、大規模なスケールで既に実施済みだ。それは、「成長を買う」と呼ばれる行為だ。Amazonは前四半期、プライム顧客向け翌日無料配送を実現するために、およそ15億ドルを投じたとみられる。短期的にはもちろんユーザーにとって便利になることだが、その先のゴールは地域のコンビニや食料雑貨店に取って代わることであり、Amazonが支配したい主要分野での競争をもたらす。そして、Amazonはプライム会費を好きなように段階的に引き上げることで、翌日無料配送のために投じたコストを回収できる。
手品の話に戻ろう。米Gizmodoの記者、Kashmir Hill氏が「Life Without the Tech Giants(テクノロジーの巨人のいない生活)」という記事で紹介しているように、5大テクノロジー企業はあまりにもユビキタスになり、いつの日かこれらの企業なしの生活は、ほぼ受け入れられなくなる。だが、スマートホーム技術を使っているわれわれにとって、問題はより深刻だ。GoogleとAmazonの音声アシスタントは、主要なスマートホーム製品の新たなハブになりつつある。Amazonは約9500社と提携し、10万以上のデバイスをサポートしている。
さらに、われわれはあまりにも多忙になり、時間に追われているため、短期的な経済的利益に走りがちだ。Amazonで商品を買うのは、その方が安いし早く入手できるからだ。「Gmail」を使うのは、最も信頼性が高いからだ。「iPhone」で「Face ID」を使うのは、面倒なパスコードを入力するより手軽だからだ。そしてわれわれは、Amazonが市場での影響力を乱用しているという報道を忘れ、Googleがわれわれのメールデータを他社と共有していることを忘れ、Appleが顔のデータをサードパーティー製アプリと共有していることも忘れる。
だが、この手品のトリックには何かが足りない。よくある誤解として、人間の行動は常に人間の価値観に基づくと考えられているが、逆が真であることが多い。行動が価値観に反映されるのだ。
AmazonやGoogleを初めとするテクノロジーの巨人がわれわれの選択を制限する問題は、物質的なことに留まらない。これらの企業は、意識的あるいは無意識にわれわれを1日何時間もかけて訓練している。たとえ本来の価値観に反するとしても、われわれが衝動的に、利便性と短期的な経済的利益に基づいて行動するように。
結局、多くの人々は地元で製品を購入する(だから私はAmazonにバッテリーを発注する前に店まで車で行ったのだ)。われわれはプライバシーを重んじる(だからこそ、プライバシー侵害につながる分かりづらい仕組みを多くの人が理解しようとしている)。われわれは選択を重んじる(それが、多数の人が広告ブロッカーを使い、プラットフォーム上の広告コンテンツを無視する理由だ)。
だが、便利と不便、価格が高いものと安い物の間で選択を迫られれば、即物的に反応するのが自然だ。しかし、そうした選択のたびに、われわれは再考する必要がある。自分の価値観に反する選択をすることを意識しているだろうか、それとも、選択に合わせて価値観を変えているのだろうか?と。
巨大IT企業は邪悪でもないが利他的でもない。だが、確実に経済を改革し、市場シェアを拡大し、あらゆるものをマネタイズしている。われわれの価値観まで書き換えさせてはならない。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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