ソニーは、米ラスベガスで開催された「CES 2020」において、電気自動車のプロタイトである「VISION-S(ビジョン エス)」を公開した。ここでは、CES 2020のソニーブースのステージに展示されているVISION-Sの内部を見ることができた。その様子をレポートする。
ソニーが公開したVISION-Sは、量産することを目的に開発されたクルマではなく、「モビリティにおける安心、安全から、快適さやエンターテインメントなども追求する取り組みを推進するためのもの。クルマの進化に対する貢献を目的にしている」と、VISION-Sの開発に携わったソニー 執行役員の川西泉氏は位置づける。なお、川西氏は「アイボ」の開発をリードした経験を持つ人物でもある。
「21世紀に入ってから、モバイルによるパラダイムシフトが起こり、人々のライフスタイルが変わった。次の大きなインパクトは、モビリティであると考えた。そこで、ソニーが得意とするセンサー技術やAV技術を取り込んで、ソニーがどんなユーザー体験ができるのかを追求することになる。
そして、これまでのクルマは、購入したら、そのまま使い続けることが基本だったが、今後は、EV化するとともに、ITの技術を使って、クルマを常に進化させられると考えた。クルマは継続的に進化できるサービスの提供を追求することになる。それに向けた第1弾のプロトタイプとして公開したのが、VISION-Sとなる。パーソナルの空間としてクルマを捉え、車内での楽しみ方、過ごし方を考えた。そして、安全でなければリラックスができない。そこにも力を注いだ」と述べた。
プロトタイプには、ソニーのイメージング技術やセンシング技術をはじめ、AIや通信、クラウド技術を活用した車載ソフトウェアによる制御で、機能が継続的にアップデートされ、進化し続けるものになるという。
ソニーの車載向けCMOSイメージセンサーやToFセンサーなど、数種類のセンサーを33個配置しており、車内外の人や物体を検知、認識して、高度な運転支援を実現するという。また、センシング技術は乗り心地にも効果をもたらすという。
VISION-Sは、あくまでもプロトタイプという位置づけであり、安全基準には適合していないためナンバーが取得できず、公道を走ることはできない。だが「今後、日本、米国、欧州でナンバーの取得を目指している。アウトバーンを100km以上で走行してみないとわからない部分もある」(川西氏)として、公道テストによって、進化させることを視野に入れている。
実際にクルマに近づいて、操作を体験してみた。ドアを開錠する際には、スマホのアプリで操作。クルマに近づくだけで開錠する。開錠操作の際には、フロントからサイドに向けて、光が走るように演出。オーバルデザインにあわせた挙動としている。
フロントシート前方にはパノラミックスクリーンを搭載しており、直観的な操作で、さまざまなエンタテインメントコンテンツを楽しむことができるのが特徴だ。
VISION-Sでは、インパネ部分をすべてディスプレイとしており、スクリーンの両端部分は、角度を持った形で、左右のサイドの映像が表示されている。これはカメラで撮影した映像で、クルマの外側にはミラーはなく、カメラが配置されている。
ちなみにVISION-Sのオーバルデザインの考え方は外観だけでなく、車内にも適用。乗車すると、車内全体を光が走り、光がドライバーや乗客を包み込むような雰囲気を作っている。なお、車体はベース部分を共有できるようにしており、セダンタイプだけでなく、スポーツタイプやクーペタイプなどのデザインを採用することも可能だという。
インパネ全体に広がるスクリーンは、スピードメーターなどが表示されるドライバー向けのスクリーンに加えて、中央部分と助手席側に、2つのスクリーンが用意されており、後部座席にも2つのスクリーンが設置されている。これを活用して、それぞれのスクリーンに表示されたコンテンツを、乗っている人たち同士でやりとりすることができる。中央部のスクリーンに表示されているコンテンツを、タッチ操作で、助手席側や後部座席のスクリーンに移動させ、助手席や後部座席の人が、近くでご飯を食べられるところを探すといった使い方もできる。
初期メニュー画面では、上部にタグを配置して各項目を表示しており、使いたい機能にすぐに到達できるようにしているのが特徴だ。多くの操作はスクリーンをタッチして行うことができる。
また、映像コンテンツなどは大きなサムネイルで表示しているほか、クルマの停車時には、スクリーンに映像を表示。「友人や家族を空港に迎えにいき、駐車場で待っている間に迫力の映像と音質で映画を楽しむといった使い方もできる」という。
シートにスピーカーを内蔵しており、ここではソニー独自の「360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)」に対応。没入感がある立体的な音場を実現し、これまでにない車内でのオーディオ体験を可能にしている。ちなみに、今回公開されたVISION-Sでは、前の座席だけが360 Reality Audioに対応していた。
一方、ドライバーがスクリーンを操作しにくい場合や、運転から目が離せない場合には、コンソール部にあるタッチパッドを使って、同様の操作ができる。ここでは、ディスプレイが振動して、操作の内容をフィードバックしてくれる。また、タッチパッドの下にはジョグダイヤルも用意。ドライバーが安心、安全に操作ができるようにしている。
また、ドライバーの好みにあわせて、スクリーンからサスペンションの硬さを制御したり、ディスプレイの輝度、室内照明の明るさなども設定できたりし、設定した人が乗ったときには、個人を認識して自動的に設定したモードに調整してくれる。そのほか、5Gのネットワーク環境をもとに、ソフトウェアを通じた機能強化できる仕様にしているという。
ソニーは、これまでにもCESの会場において、クルマの安全性を高めるための「Safety Cocoon(セーフティコクーン)」を紹介してきた経緯がある。Safety Cocoonは、日常のさまざまなドライブシーンにおいて、クルマの周囲360度を検知して、早期に危険回避行動を支援することで安全性を高める、「安全領域」のコンセプトだ。
この考え方も、VISION-Sに盛り込まれており、「人の眼を超えるテクノロジーにより、安心・安全で快適な移動体験の実現に貢献する」という。
ソニーでは、VISION-Sを通じて、高度な自動運転社会の実現に貢献し、新たな感動体験をもたらすモビリティの世界を提示。最先端テクノロジーを組み合わせることで、安心、安全で、新たな感動をもたらす車内エンターテインメントの実現を目指すという。
ソニー 代表執行役社長兼CEOの吉田憲一郎氏は、「過去10年は、スマートフォンをはじめとするモバイルが、私たちの生活を根本から変えた。だが、次のメガトレンドはモビリティだと信じている」と述べ、「VISION-Sは、安心、安全な自動運転の実現を支えるイメージング/センシング技術や、最先端のエレクトロニクス技術を結集して革新的な車内エンターテインメントを具現化した試作車である」と位置づけた。
そして、「ソニーは社会への意義ある貢献に取り組むとともに、テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニーとして進化し続ける」とも述べた。
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