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トヨタチーフエンジニアが語る、燃料電池自動車の価値--EV時代にみる水素のメリット - (page 2)

西中悠基 (編集部) 山川晶之 (編集部) 坂本純子 (編集部)2020年01月01日 10時00分
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量産を一桁増へ--量産化にこぎ着けたポイント

――量産化できた一番大きなポイントはどこにあるのでしょうか。

 技術開発が一番大きいのですが、加えて生産技術開発ですね。もともと現行MIRAIを年間3000台も作れるようにできたことは大きな生産技術の向上の結果なのですが、さらに一桁増やすには、ものづくりの技術の進歩がなければできません。材料や生産、さらには基本となる設計技術の積み上げがあって、初めて為し得るところです。

――量産を一桁増やすにあたり、一番ネックになっていたところは。

 水素タンクも困難でしたが、一番は発電機構です。水素のセルは、1枚1枚ではあまりパワーが出せません。そこで現行MIRAIでは、370セルを直列でつないでいます。そして、水素と酸素の流路を構成するセパレーターというプレートがあるのですが、この部品が1セルに3枚入っています。370×3ですから、MIRAI1台あたり1000枚強のセパレーターが必要です。そうすると、1カ月にMIRAIを1000台作るだけで、月100万枚が必要になります。そのため、かなりの量産技術が必要です。1桁上げるだけで1000万枚ですから。月1万台でもそういうオーダーの生産能力を構えないとできないので、まさに新聞を刷るかのごとくのスピードでプレスしないといけませんし、なおかつかなりの精度が求められます。

 エネファームのような家庭用燃料電池は、都市ガスやプロパンガスを引き込んで、そこから水素を取り出して発電しています。発電をするメカニズムは同じなのですが、家庭用の発電能力は1基あたり約1kW、1000Wです。現行MIRAIでは、家庭用製品の約160倍、12万4000Wになります。なおかつクルマの場合、アクセルを踏み込んだらフルパワーを出さないといけません。そしてサイズも小さくする必要があります。あのサイズでパワー、応答性を得ようとすると、かなり精密な高い加工技術と高い材料技術でやり遂げないとならない。

 燃料電池というメカニズムそのものは250年ほど前にイギリスで発見されているのですが、大出力を実現することは困難でした。家庭用燃料電池ほどであれば、もちろん簡単ではありませんが、安定した条件でサイズも制約が少なく、自動車用よりも技術的には早く生産できました。クルマのサイズでそれだけの性能を出そうとすれば、生産も含めた技術の進歩が必要でした。それが、燃料電池を量産するのが難しい点になります。

水素搭載量拡大などにより、航続距離を従来型比で約30%延長することを目標に開発を進めている
水素搭載量拡大などにより、航続距離を従来型比で約30%延長することを目標に開発を進めている

――そこをようやく克服できた。

 そうですね。トヨタは1992年頃からかれこれ26~27年ほど燃料電池を研究しています。2015年にその集大成として現行MIRAIをある意味量産レベルにしたのですが、それでもまだ不十分ですので、今回でそれをワンステップ・ツーステップ、ステップアップすることになります。これまでの生産技術の蓄積が、こういうクルマにつながることになります。

――トヨタは2020年代前半に全固体電池を実用化すると掲げていますが、その使い分けは。同じEVのコア技術としてシフトしていくのでしょうか。

 全固体電池をやってるのになぜ燃料電池?とはよく聞かれることですが、全固体電池にすればチャージ時間が1分になる、というわけではありません。さらに、全固体電池のサイズ辺りの容量が倍になれば、その分コンパクトにできるかもしれませんが、それでもチャージ時間が半分になるわけではありません。

 また、リチウムイオン電池が安定して使えるようになったのが20年ぐらい。吉野彰先生がリチウムイオン電池でノーベル賞を受賞されましたが、リチウムイオン電池が製品化されてから20年から30年ほどかかっています。新技術の一般化にはそれほど長い時間が必要になります。全固体電池がどれほどかかるかはわかりません。出すことは間違いないと思いますが、すぐに広がるかは別ですし、急速充電についても、耐久性は今より向上するかもしれませんが、結局のところ電力集中が起こるような大型のチャージャーが絶対に必要となります。

 全固体電池が出来上がったら燃料電池を止めるか、というと、そういうことではないと思います。先ほど言ったように、水素はとてもメリットのあるエネルギー源だと考えていますので、それを長い時間かかっても研究・開発していくのが将来に向けて重要だと思いますし、そこはしっかり進めていくという経営判断なのだと理解しています。

――2020年の発売に向けて、水素ステーションを増やす計画はあるのでしょうか?

 それも考え方なのですが、いま日本には100数箇所の水素ステーションがあります。水素を使う車が増えて、営業時間が拡大していく、という流れが必要になると思います。現時点では、われわれがクルマを供給できないために、水素ステーションには1日あたり1台か2台来るかどうか、という状況となっています。その状況で土日に営業してくださいと言うのもなかなか難しい。クルマが増えればきっと休日にも営業していただけるのではないかと。そうすると、お客様の利便性も、現状あるステーションだけでもかなり良くなると思います。

 ちなみに、カリフォルニアでは38箇所しかステーションがありませんが、24時間営業のセルフステーションのため、日本よりも多くの燃料電池車が走っています。ですので、数ももちろん重要ですが、どのような運営がなされるか、どのような利便性があるかが求められます。山奥にステーションがあっても、誰も利用してくれません。郊外のショッピングモールの中に水素ステーションがあれば、近所に住んでいて月に2回ほど行く、という人が買い物ついでにチャージできます。そういった利便性のある場所に作っていただいて、かつそれが休日にも営業していれば、ステーションの数も結果として増えていくでしょうし、クルマも増えていくという相乗効果が生まれると思います。

――先進国では、充電が必要なEVよりも、ガソリン車と同じ感覚で乗れるFCVの方がマッチしている印象があります。ただし、テスラのようなEVも広まりを見せています。今後はFCVの方が利便性で上回るのか、EVと棲み分けがなされるのか、どちらなのでしょうか。

 やはり電池技術が成熟してきていますので、コンパクトなクルマとして使う分には、EVはいい選択肢だと思います。ただ、距離が欲しい、大型トラックやバスでも使いたい、となると、やはり難しい面があります。

――シティコミューターではEVが向いているということですね。

 トヨタは2人乗りで航続距離は100キロほどのEVを2020年の秋頃に出す目標として掲げていますが、あのようなクルマは十分な可能性があると思います。普通の方は「え?100キロしか走れないの?」と言うでしょう。しかし、あれぐらいのサイズのクルマでお買い物用途であれば、1日に100キロも走る使い方は、なかなか難しいのではないでしょうか。そして、あのサイズで雨風が完全に凌げて、ガソリンスタンドへ行かずとも夜間に家で充電できる、というのは、デイユースとしては新しい形だと思います。

――FCVの普及には価格も重要だと思います。現行MIRAIは700万円台ですが。

 絶対的な価格もそうですし、クルマの魅力と価格のバランスも重要だと思います。700万円というのは皆さん高いと思われるでしょうが、次はいくらになるかはわかりません。しかし、クルマの魅力とトータルに考えて選んでいただきたいというのが私の考えです。たとえば、廉価型のコンパクトカーを400万円で販売しても見向きもされないでしょう。それを避け、車格に見合った価格設定とし、かつ非常に魅力的なクルマとすれば、みなさんに選んでいただけるのではないかと考えています。

――MIRAI Conceptは、ボディが大きくなった印象があります。

 現行MIRAIよりも全幅がおよそ70mm大きいです。ただ、最小回転半径などの取り回しは現行と変わっていませんし、高さは低くなっています。全長は今よりも75mm長くなっています。ホイールベースは今のクラウンと同じ2920mmです。

――走行感はどうでしょうか。

 乗った印象はまったく別です。プラットフォームにはTNGAのものを使っていて、後輪駆動です。後輪駆動にすることが目的だったのではなく、航続距離を伸ばして、プロポーションを良くして、中の居住性を高めて、といった観点からさまざまに検討した結果、このような構成になりました。タンクの容量についてはまだ発表できませんが、水素搭載量は現行よりも増えています。増えていながらのびやかなプロポーションに加え、居住性も良くなっています。クルマが好きな方なら、かなり気に入っていただけるのではないかと思います。

――スポーツモデルの「GR」グレードが出るのか気になるのですが。

 どうでしょうか。GRにふさわしいという話になれば出るでしょう。モーターの特性を使えばかなりパワフルなクルマができるとは思います。このプロトタイプもかなり応答性は良いですし、かなり気持ち良いクルマになると思います。

低重心で伸びやかなプロポーション。20インチの大径タイヤを採用
低重心で伸びやかなプロポーション。20インチの大径タイヤを採用

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