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トヨタチーフエンジニアが語る、燃料電池自動車の価値--EV時代にみる水素のメリット

西中悠基 (編集部) 山川晶之 (編集部) 坂本純子 (編集部)2020年01月01日 10時00分
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 TOYOTAは、東京モーターショー2019のMEGA WEB会場で開催された「FUTURE EXPO」にて、燃料電池自動車「MIRAI Concept(ミライ・コンセプト)」を初公開した。

 燃料電池自動車(FCV)は、将来の有望なエネルギーである水素を、空気中の酸素と化学反応させて発電した電気で走るクルマだ。

 MIRAI Conceptは、2014年12月に発売した「MIRAI」の後継モデルと言えるもので、2020年末の発売に向けた次期MIRAIの開発最終段階モデル。市販モデルは、日本や北米、欧州などで2020年末から発売を予定している。

燃料電池自動車「MIRAI Concept(ミライ・コンセプト)」
燃料電池自動車「MIRAI Concept(ミライ・コンセプト)」

 MIRAIは世界中で約1万台を販売。MIRAI Conceptは、FCシステムをすべて一新して、燃料電池自動車としての性能を大幅に向上するとともに、水素搭載量拡大などにより、航続距離を従来型比で約30%延長することを目標に開発を進めているという。性能進化の詳細については、今後公表する予定だ。

 MIRAI Conceptの外形も従来と大きく異なる。Toyota New Global Architecture(TNGA)プラットフォームの採用により、低重心で伸びやかなプロポーションを実現。20インチの大径タイヤでダイナミックさと軽快感を加えた。外板色は、複層工程により鮮やかさと深み感を強調した「フォースブルー マルチプルレイヤーズ」を新規開発。室内は、シンプル&モダンで温かみある空間にし、また4人乗りから5人乗りへと広げている。

 TOYOTAは、MIRAIを通じて燃料電池自動車の普及に取り組んでいるが、同時に電気自動車(EV)にも力を入れている。さらには従来のリチウムイオン電池に代わる「全固体電池」にも取り組んでおり、そうした中でなぜ燃料電池なのか。チーフエンジニアの田中義和氏に思いを聞いた。

トヨタ自動車 MS製品規格 ZF チーフエンジニアの田中義和氏
トヨタ自動車 MS製品規格 ZF チーフエンジニアの田中義和氏

なぜFCVなのか--EVと比較したメリット

――トヨタはEVの開発も進めています。そうした中で、なぜFCVの新型車両も手掛けているのでしょうか。

 モーターで走るEVはとても良いクルマだとは思いますが、どうしても充電時間が必要になります。急速充電を使えば短時間で充電できますが、走行距離が必要な場合はそれでも1時間ほどかかりますし、急速充電は無理やり入口を広げているようなものなので、電池が劣化します。

 私の立場で言うと変なとらえ方をされることもありますが、急速充電は普段使いするのではなく、セーフティネットとして扱う方が良いと考えています。普段は夜の間に充電し、日中に100kmから200kmを走り、そこで充電切れになってしまった場合に限って急速充電を使うのが、電池にはやさしい。

 また、日本で普及している急速充電規格「CHAdeMO」では、1時間あたり5万ワットほどの電力を使います。そのCHAdeMOの充電ポートが10個あれば、それだけで50万ワットです。それも1時間で大量の電気を使いますから、電力ピークという観点では偏りが起こってしまいます。昔は夜間電力でEVを充電するのが理想でした。欧州では35万ワットで充電するという技術の開発も進んでいます。しかし、あまりそちらを無理に進めるのではなく、長距離を走る車やサイズの大きなクルマは、チャージ時間が短くてゼロエミッション(排出)で走れる水素というのがいいと思います。

 火力発電を止めて再生可能エネルギーに、という話があります。しかし、電気というのは安定供給が基本です。たとえば、九州にはとても大きな太陽光ファームがありますが、たとえば太陽光で10万kWhを出せる設備があったとしても、天気が悪ければ一気に発電量が落ちて、安定供給ができなくなります。そうすると火力発電をやらざるを得ない。結局、太陽光発電をいかに増やしても、火力発電を止めることはできません。

 台風で太陽光ファームが破壊されるリスクもあります。太陽光などで発電した電気をそのまま使うのが一番効率的なのですが、より再生エネルギーを広く使おうとすると、エネルギーキャリアと一般的に言われる、エネルギーを運ぶことができる水素のようなものを介在させることで、それが結果的に太陽光や風力を広げることにつながります。そのような、エネルギーとしての水素の可能性という意味において、EVとは違う、FCVの存在価値があると思います。

 このMIRAIがきっかけになることで、水素エネルギーに対する理解が進むでしょう。水素をもっと広げる上においては、水素発電も検討されていますし、福島県の浪江では、太陽光で発電した電気で水を電気分解して水素にするという大きなプラントが計画されています。2020年東京オリンピック・パラリンピック開催時には、福島で作った水素を東京に持ってきて、燃料電池車を走らせよう、あるいは選手村に水素を供給して発電しよう、といった構想もあると聞いています。

 まさにエネルギーの在り方や構成、選択肢を広げることにつながる、というのが水素の良いところだと思います。クルマとしても、短い充電時間やエネルギー、容量の大きさが魅力的です。詳細な航続距離は発表していませんが、現行MIRAIよりも約1.3倍です。現行MIRAIはJC08モードで約650~700キロ走行できますが、この3割増しの距離を走れると考えてください。その距離は、EVで実現するのはなかなか難しいです。

――確かに、EVでは電池も重くなりますね。

 重くなりますし、サイズも大きくなります。しかしFCVでは、その航続距離を3分の充填時間で実現できるのが魅力です。加えてバスやトラックにもこの技術は応用できます。ちなみに、現行MIRAIのユニットシステムを2システム積むと、今回のモーターショーでもシャトルバスで運行していたバス「SORA」になります。このSORAは、現行MIRAIのシステムを2システム積んで、大きなモーターを1個積んでいます。結局は発電機ですので、パワーを出すにはシステムを複数搭載し発電機として大きなパワーを出せ、燃料電池車のバスやトラックを実現できます。

燃料電池バス「SORA」
燃料電池バス「SORA」

――MIRAIの登場から5年経ち、少しずつ水素車が増えてきた印象があります。

 いや、まだまだ少ないと思います。現行MIRAIが発表された際、皆さんにかなりインパクトを持っていただきました。しかし、初期に注文していただいた頃は納車まで3年かかっていました。確か初年度は供給能力がグローバルで年間700台だったんです。それを2年目には2000台にし、3年目は3000台に増やしましたが、それでも3000台です。なので今回は、それを1桁オーダー増やすくらいの規模でユニットを作れるようにして、しっかり供給したい。それが、このクルマの大きなミッションです。

 ただ、供給能力が増えたらみなさんに買っていただけるか、というとそうではありません。お客様に選んでいただいて初めてこのクルマが増えるわけです。そういう意味においては、魅力的なデザインにしたり、居住性をよくしたり、さらには乗っていただいたら「こんなクルマが欲しい」と言っていただけるような乗り心地にしたりして、みなさんが乗りたいクルマをいかに作れるかということが重要です。

 そうして、プラットフォーム、いわゆるクルマの土台部分の構成、またユニットの構成も全部見直して、今回のようなクルマを企画したのです。

12.3インチのワイドモニターを搭載
12.3インチのワイドモニターを搭載

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