最新の海底ケーブル敷設船「KDDIケーブルインフィニティ」がお披露目--大規模災害に備え

 沖縄セルラー電話は12月20日、沖縄〜九州間を結ぶ海底ケーブルの新ルートの海洋工事を開始。それに合わせる形でこの海底ケーブル敷設に用いられる、KDDI子会社の国際ケーブル・シップ(KCS)が2019年9月に運用を開始したばかりのケーブル敷設船「KDDIケーブルインフィニティ」が報道陣に公開された。

沖縄セルラーの海底ケーブル敷設工事を担う「KDDIインフィニティ」。2019年9月に運用開始したばかりの新しいケーブル敷設船だ
沖縄セルラーの海底ケーブル敷設工事を担う「KDDIインフィニティ」。2019年9月に運用開始したばかりの新しいケーブル敷設船だ

災害対応に向け独自の海底ケーブル敷設へ

 この海底ケーブルは、鹿児島県日置市から沖縄県名護市を結ぶもので、東シナ海を経由し760kmの距離にわたって敷設されるという。2019年2月に沖縄セルラー電話が独自に敷設することを発表しており、ケーブルの制作などを経てようやく海底工事の実施に至ったという。2020年4月には運用が開始される計画だ。

 同社の常務取締役 技術本部長である山森誠司氏は、改めてケーブルを敷設する理由について説明した。1つは2020年の商用開始を予定している5Gでの大容量通信に対応することであり、新たに敷設する海底ケーブルの伝送容量は最大80Tbpsと、従来の10倍の通信速度を実現するとしている。

 そしてもう1つは、近年相次いでいる大規模な自然災害に備えることだ。現在沖縄県と本州や九州を結ぶ海底ケーブルルートはいずれも太平洋側にあることから、南海トラフ地震などが発生し、双方が断線してしまうと通信が途絶してしまう可能性があるという。

沖縄と本州・九州を結ぶ既存の海底ケーブルはいずれも太平洋側に存在することから、新たに東シナ海を通るルートを設けることで災害時の途絶を防ぐ狙いがあるという
沖縄と本州・九州を結ぶ既存の海底ケーブルはいずれも太平洋側に存在することから、新たに東シナ海を通るルートを設けることで災害時の途絶を防ぐ狙いがあるという

 しかも、2019年9月には、沖縄県内でも台風18号の影響で海底ケーブルが被災し、波照間島や西表島などで11時間にわたる通信障害が発生している。そのため沖縄県内で、自然災害に対応できる強靭なネットワークを作りあげる上でも、従来とは異なるルートで海底ケーブルを敷設し、信頼性を高める必要があったとのことだ。

沖縄では2019年9月の台風18号で、西表島などを結ぶ海底ケーブルが被災し、長時間通信の途絶が発生したとのこと
沖縄では2019年9月の台風18号で、西表島などを結ぶ海底ケーブルが被災し、長時間通信の途絶が発生したとのこと

 そして沖縄セルラー電話と共同で、海底ケーブルの敷設を進めるのがKDDIとKCSである。KDDIの理事 技術統括本部グローバル技術・運用本部長である梧谷重人氏は、前身の1つである国際電信電話(KDD)時代から55年にわたって海底ケーブル事業を手がけており、現在では11カ所の海底線中継所を持つほか、米国やアジア、ロシアなど複数ルートの海底ケーブルに出資するなど豊富な実績を持つと話す。

 KDDIはこれまでKCSを通じ、「KDDIオーシャンリンク」と「KDDIパシフィックリンク」の2船体制でケーブルの敷設や運用・保守などを実施してきた。そこへ2019年9月に、新しいケーブル敷設船「KDDIケーブルインフィニティ」の運用を開始。KDDIパシフィックリンクと入れ替える形で新たな2船体制を構築しているという。

最新型ケーブル敷設船の中身とは

 今回は、海底ケーブル海洋工事の起工式に合わせて、KDDIケーブルインフィニティの内部も公開された。ケーブル敷設船は複雑な地形の海底にケーブルを敷設し、なおかつ修理や点検もする必要があることから、同じ場所に留まっている必要があるという。そのためKDDIケーブルインフィニティには5枚のプロペラが搭載されており、横に移動したり、回転したりするなどして、同じ場所に船を留める仕組みを実現しているそうだ。

KDDIケーブルインフィニティに装備されているプロペラの予備。5枚のプロペラを用いることで、船の位置を固定できる仕組みを備えているのだという
KDDIケーブルインフィニティに装備されているプロペラの予備。5枚のプロペラを用いることで、船の位置を固定できる仕組みを備えているのだという

 船の操作はブリッジにある操縦室からからなされ、D-GPSを用いたデジタル海図で現在位置を把握した操作ができるほか、複数のモニターを用いて船上の主な場所の様子を確認できる仕組みも用意されている。ブリッジは全面ガラス張りとなったことで、視認性が高められているとのことだ。

デッキは全面ガラス張りで見通しがよいのに加え、最新のデジタル海図とD-GPS、そして船内に設置されたカメラを用いることで、船内の状況を素早く把握できるとのこと
デッキは全面ガラス張りで見通しがよいのに加え、最新のデジタル海図とD-GPS、そして船内に設置されたカメラを用いることで、船内の状況を素早く把握できるとのこと

 敷設する海底ケーブルは船内のケーブル格納庫(バスケット)に収納されているが、何百、何千kmというケーブルを“よれ”が発生しないよう船内に収納する必要があることから、収納作業は現在も人の手でなされているそうで、ケーブルの長さによっては収納に約1カ月かかる場合もあるという。

海底ケーブルを収納するバスケット。ケーブルの収納は手作業でなされているとのこと
海底ケーブルを収納するバスケット。ケーブルの収納は手作業でなされているとのこと

 収納されたケーブルは、バスケットからいくつかの装置を通し、船尾から送り出して敷設を進めていく。なお敷設の際は専用の装置を海底に落とし、船で引きずることで海底の土を掘りながらケーブルを敷設していくとのことだ。

バスケットからはいくつかの装置を経由して船尾に送り出され、海中への敷設が進められる
バスケットからはいくつかの装置を経由して船尾に送り出され、海中への敷設が進められる
写真の装置を海中に降ろし、引きずって海底を掘り起こした所にケーブルを敷設する形となる
写真の装置を海中に降ろし、引きずって海底を掘り起こした所にケーブルを敷設する形となる

 またKDDIケーブルインフィニティは、ケーブルの点検や修理の役割も担っていることから、それに対応した機材も搭載されている。敷設したケーブルに障害が発生した場合は、陸上にある測定装置で大まかな位置を確認できるというが、具体的な損傷個所を見つけるには海底を直接調べる必要があることから、調査用のROV(水中ロボット)も用意されている。

ケーブルの損傷個所を特定するのに用いられるROV
ケーブルの損傷個所を特定するのに用いられるROV

 ROVでケーブルの障害を見つけた後は、その場所からケーブルを切断し、障害のある場所を船上に引き上げた後、船内でケーブルを接続しなおす形となる。光ファイバーを手作業で接続するため、作業には15〜20時間程度かかるとのことで、それを海中に戻して埋設し、修理が完了するまでには合計で5日程度かかるとのことだ。

ケーブルの損傷を修復するための施設。光ファイバーを手作業で接続するため時間がかかるという
ケーブルの損傷を修復するための施設。光ファイバーを手作業で接続するため時間がかかるという

 KDDIケーブルインフィニティを運用しているKCS代表取締役社長の安楽考明氏によると、同船は従来のケーブル敷設船と同じ役割だけでなく、新たな要素もいくつか備えられているとのこと。その1つは、日本で初めて電力ケーブル工事に対応したケーブル敷設船であるということ。これによって洋上風力発電などの工事にも対応できるとのことで、すでにいくつかの企業から引き合いもあるという。

 そしてもう1つは、船舶型基地局を搭載していることだ。船舶型基地局は2018年の北海道胆振東部自身や2019年の台風15号で被災エリアの復旧に活用されてきたが、これまでは必要に応じてケーブル敷設船に搭載する形が取られてきた。

 しかし、KDDIケーブルインフィニティには、最初から船舶型基地局用のアンテナが常設されている。そのため必要な機材を搭載することで、すぐ基地局として活用できるなど、災害時に素早い対応ができるようになっているという。

船上には船舶基地局用のアンテナが常設されている
船上には船舶基地局用のアンテナが常設されている

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