治療の場を自宅へ--遠隔医療が進むデンマーク、第一人者が語る普及の背景

 2020年春は次世代通信規格5Gのサービスがスタートするいわば5G元年だ。5Gサービスの開始によって、日常生活はもっと便利になると期待されているが、遠隔医療もその一つ。世界で最も遠隔医療研究が進んでいるのは北欧と言われており、デンマークは遠隔医療、遠隔リハビリテーションの普及に力を入れている。

 デンマークは5つの地域に分かれ、医療費は税金により賄われるため、原則無料で受けられる。

 医療機関を受診するには、デンマーク版マイナンバーともいえるCPR番号が必要となる。個人の医療記録、処方箋などがCPR番号に電子的に紐付けされており、医師や患者本人が閲覧できるようにシステムが整えられている。デンマークはITを利用した医療サービスの充実に力を入れている国といえる。

 デンマークのオルボー大学 健康科学&技術部 遠隔医療・遠隔リハビリ科 保健福祉技術研究室室長・博士Birthe Densen(ビエテ・ディーネセン)教授は、2004年から遠隔医療やデジタルヘルス分野の研究に携わり、遠隔医療に関する数多くの論文を発表している。来日していたディーネセン氏と、デジタル聴診器を販売するシェアメディカル 代表取締役の峯啓真氏による対談をレポートする。

シェアメディカルの代表取締役の峯 啓真氏とオルボー大学のビエテ・ディーネセン教授
シェアメディカルの代表取締役の峯 啓真氏とオルボー大学のビエテ・ディーネセン教授

デンマークで遠隔医療が進んだ理由

峯氏 :デンマークは世界的に見てもITを利用した医療サービスが充実している国です。デンマークはどうしてこのような取り組みが可能だったのでしょうか。

ディーネセン氏 :国が主導で進めていきました。まず、国の施策として「IT先進国」になるという目的がありました。

 社会的なニーズもあります。デンマークにおける医療は原則無料ですが、私のように仕事を持つ人は忙しくてなかなか病院を受診できないという問題がありました。病院に行ったとしても混んでいて時間がとられています。そうした背景から、遠隔医療が進められてきました。

 デンマークでは、高度医療の効率化と質の向上のため、大規模病院に機能を集約させる「スーパーホスピタル」という仕組みをとっています。スーパーホスピタルは、広域の患者に対応しますが、まだ数が足りていません。そうしたことから、治療の場を病院から自宅に移すようになってきており、こうした医療施設事情も遠隔医療推進の背景にあります。

峯氏 :慢性疾患が増えているということも影響していますか。

ディーネセン氏 :そうですね。2005年からCOPDの患者に対して遠隔医療によるアプローチを行なったところ、再入院が減少するなど一定の効果がみられました。

 現在COPDの患者に対しては、治療ではなく予防という観点からアプローチしています。そのためにはさまざまな方法、新しい技術が必要になります。

 法規制でも準備が必要です。遠隔医療がスケールアップするとプライバシーの問題も出てくるでしょう。まだまだ改善しなくてはいけない課題はあります。

峯氏 :「遠隔では診療にならない」などと、反対する人はいなかったのでしょうか。

ディーネセン氏 :いました。特に高齢のドクターに抵抗感を持つ人がいましたが、そうはいってもやらなくてはいけないということで、進んできました。

 遠隔医療をすることで、医療費を抑えることもできます。そこで抑えられた分を、もっと重篤な患者に対して向けるよう取り組んでいます。

 こうした動きはデンマークだけでなく、ヨーロッパ全体に治療の場を自宅に移すという考えが広がっています。先日もドイツで遠隔医療などに関する講演を行ないました。

 病院はお金がかかりますので、家での治療にシフトする動きは今のムーブメントです。

峯氏 :日本も似たような状況です。医療費を抑えるため、日本も在宅診療が政策的に進んできていますが、うまくまわっているのは首都圏だけです。地方になると、往診の範囲が広がってしまい、なかなか回れないという課題があります。そうなると、遠隔医療に力を入れざるを得ない。地方の方が、新しいツールを使った遠隔診療に前向きですね。

ディーネセン氏 :デンマークは国土が狭いですが、できるだけ患者を家でもっと質の高い医療を受けられるように、新しいテクノロジ-を使った遠隔医療が利用されています。

フィンランドやグリーンランドなどの事例も交えながら遠隔医療・遠隔リハビリについて説明するディーネセン教授
フィンランドやグリーンランドなどの事例も交えながら遠隔医療・遠隔リハビリについて説明するディーネセン教授

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