農水省が本腰を入れる「スマート農業」--ドローンや収穫ロボット、データ連携基盤も - (page 2)

匠の技を引き継ぐ「スマート農業」の現状

 石田氏は、人材不足に対応するとともに、こういった匠の技を次世代に引き継ぐために取り組んでいるのが、ロボット技術やAI(人工知能)、ICT(情報通信技術)の活用によって超省力で高品質生産を可能にする「スマート農業」だと語る。

スマート農業の定義
スマート農業の定義

 「スマート農業にはいろいろな可能性がある。例えば自動運転で省力化・無人化することで労働力不足を補える。規模拡大すると圃場一つひとつに目が行き届きにくくなるため、単位面積あたりの収量が若干低くなる傾向が見られる。大規模化したときには経営管理や生産管理の仕方を新たに組み直す必要があるが、センシングやデータの活用によって収量、品質を高めることも可能だ。また、ロボット技術できつい作業から開放される」(石田氏)。

 日本の企業はスマート農業の分野で活躍できるのか。石田氏は要素技術、例えば、センシングの部分は日本が世界トップクラスだと話し、これからさまざまな技術やシステムを農業の現場に実装していくことで、政府目標である、2025年までにほぼすべての農業の担い手がデータを活用できることを実現していきたいと展望を語る。

 続いて、さまざまなカテゴリにおける農家の悩みごとと、それを解決するソリューションを紹介した。水稲栽培では田んぼを耕すなどの作業にトラクターを利用するが、何度も往復して走らせる必要があるほか、1台に1人の運転者が必要で複数台での作業ではその分の人員が求められる。

 春の田植えは「田植え機1台に運転者や苗を供給する人など複数人が付く必要があり、適期が限られるため春作業のピークになる」(石田氏)。夏には田んぼを見回りして水の栓を開けたり閉めたりという水管理の作業が必要。稲刈りは特に秋作業のピークとなる。「耕起もそうだが、田植え、稲刈りの作業がさらなる規模拡大のネックになっているのが現状」(石田氏)。

水稲栽培における現場の悩み
水稲栽培における現場の悩み

 こうした作業を省力化するために、すでに自動運転が可能なトラクターが市販されている。現状は有人トラクターのオペレーターが無人トラクターを監視して1人で2台走らせることを想定しているが、いずれは1人で4台ほどを監視しながら自動運転することも考えられると石田氏は話す。「トラクターは多目的に使うため、これを自動化すればいろいろな作業に使える。自動運転が可能な田植機ももうすぐ市販される状況だ。こちらは無人でベテラン級の速さで走らせられるようになっており、1台1オペレーションがもうすぐ可能になる」(石田氏)。

自動運転が可能なロボットトラクター
自動運転が可能なロボットトラクター

 水管理についても、スマートフォンで栓を開け閉めできるシステムが市販されているという。ただし、水管理システムは1台10万円程度と高額なため、田んぼ数百枚を持つ大規模農業経営では膨大な投資額になる。そこで最近は水位がが下がったときだけアラートがくる安価なセンサーも販売され、用途に応じて使い分けられるようバリエーションが広がってきているそうだ。

スマートフォンで栓を開け閉めできるシステムも市販されている
スマートフォンで栓を開け閉めできるシステムも市販されている

 ドローンの活用も広がっている。解像度がかなり上がっており、「高解像度のものだと米粒を数えられるものもある」という。収量が把握できるため、作業計画を立てたり、販売戦略の立案にも役立てられるようになるとしている。

ドローンの活用も広がっている
ドローンの活用も広がっている

 石田氏は、赤外線での撮影が可能なドローンを小麦の圃場で利用している事例も紹介した。「赤外線撮影によって穂の水分とタンパク質含量が分かるようになる。麦はできるだけ乾燥したものを収穫することでその後の乾燥コストを抑えられるので、水分は大事な情報だ。タンパク質も加工適正に影響するので、それを推定できることは重要になる。また、作物の生育進度を画像にすることも可能だ。例えば生育が遅れているところだけしっかり肥料をまくといった活用法がある。収量や品質を高く保てるし、肥料の利用量も抑えられて一石何鳥になる」(石田氏)。

赤外線撮影によるセンシングの例
赤外線撮影によるセンシングの例

 ドローンは農薬散布にも活用されており、自動運転によって人手をかけずに散布できることが大きな強みとなると石田氏は語った。

 野菜の収穫作業もスマート化が進んでいる。アスパラガスはしゃがんで収穫しなければいけないため体への負担が大きいが、収穫ロボットによってこれを代替できるようになってきている。収穫適期のアスパラをAIで検知し、アームを伸ばして収穫するもの。昼だけでなく、夜でも収穫が可能だ。このシステムはきゅうり、トマトなどさまざまな野菜に使えることが期待されているという。

野菜の収穫ロボット
野菜の収穫ロボット

 アームの届かないところ、陰になって見えないところなど、すべてを収穫するのは難しいが、人手をかけて収穫する時間をかなり短縮できるのが魅力だ。「人とシステムで協調しながら仕組みを作れる。リース料金は何時間いくらではなく、収穫量に応じて課金するシステムになっており、農業者がメリットを感じられるように考えられている」(石田氏)。

搾乳の自動化や交配適期、出荷適期の判別を自動化

 石田氏は続いて、畜産農家でのスマート化について紹介した。酪農では毎日の搾乳が大変なだけでなく、交配に適する発情期を見いだすのに経験が必要になる。「分娩間隔は理想としては約12カ月だが、発情の見逃し等により実際には平均で14カ月ほどになっている」(石田氏)という。

 搾乳ロボットはセンサーで乳頭を認識し、「前絞り」と「洗浄」の工程を行った後に搾乳機を取り付けて搾乳する。そのメリットは「単に自動化するだけでなくデータが取れること」だという。どれくらい絞ったかが個体ごとに分かるほか、ホルモン等の測定で健康管理や発情管理ができるなど、幅広いデータの活用が期待されるとしている。

牛の搾乳を自動で行う搾乳ロボット
牛の搾乳を自動で行う搾乳ロボット

 もう1つはIoTによる牛の行動センシングだ。牛の首にセンサーを取り付けて牛の動きをセンシングし、クラウドで行動を分析することで、発情や疾病兆候などを知らせてくれるというものだ。「従来は発情期を発見するのは匠の技だったのが、見逃さずに済むようになるため、畜産農家で普及が進んでいる」(石田氏)。

牛の行動をセンシングして分析し、スマホに知らせるソリューションも登場している
牛の行動をセンシングして分析し、スマホに知らせるソリューションも登場している

 養豚の場合、「適切な体重で出荷するのが重要で、それより重くても軽くても農家のもうけが減る」(石田氏)という。従来は経験と勘で何kgくらいなのか、出荷時期なのかを判断していたが、画像解析によって豚の体重推計を行うソリューションが登場している。数秒間で計測し、4.5%程度の誤差で体重を推計できるという。

画像解析によって豚の体重推計を行うソリューション
画像解析によって豚の体重推計を行うソリューション

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