オールシャープとして成長力を強化--戴社長が語る2019年度下期の取り組み

 シャープ 代表取締役会長兼社長の戴正呉氏は10月23日、社内イントラネットを通じてメッセージを発信した。

 「さらなる成長に向けて、万全の対策を講じよう」と題した今回のメッセージは、2019年度下期に、3年間の中期経営計画の最終コーナーを迎えた同社が、今どんな課題を抱えているのかを示すとともに、8KやAIoTなどの領域において、成長戦略を加速する姿勢を示すものとなった。

 メッセージの冒頭に戴会長兼社長は、「2019年度下期がスタートし、早くも半月あまりが経過した。足元では世界貿易のさらなる減速や消費増税の反動など、事業環境は一段と厳しい状況に陥ることが懸念されるが、この下期も全社一丸となって頑張ろう」と呼びかけた。

“永続的なトランスフォーメーション”の意識を持つ

 最初に触れたのは、「今期の重点課題」である。「2019年度は、次期中期経営計画に向けた成長シナリオを練り上げるとともに、確かな土台を構築する極めて重要な時期である。今日は、残り半年間、とくに重点的に取り組むべき課題について、2つの観点から話す」と切り出した。

 1つめは、「トランスフォーメーションの加速による成長力の強化」である。「シャープは中期経営計画で、『モノづくり主体の家電メーカー』から『サービス・ソリューションを提供するIoT企業』へのトランスフォーメーションを目標に掲げた。この方針のもと、既存事業の維持および強化を図るとともに、事業変革を推進してきた。具体的には、“既存の顧客”に“新たな商品やサービス”を提供する『商品/サービスのUpgrade』と、“既存の商品やサービス”を“新たな顧客”に提供する『市場のExpansion』、さらには“新たな商品やサービス”を“新たな顧客”に提供する『新規事業の創出』の3つに、全社をあげて取り組んでいる」と定義した。

 しかし「当社の既存事業の多くは市場の成熟期を迎えており、短期的に見ると高付加価値化やシェア拡大など、事業拡大の余地はまだまだ残る一方で、市場全体が縮小していくことは避けられず、一部にはすでに落ち込み始めている事業もある。いま一度、オールシャープとして成長力を強化することが急務であり、現在推進中のさまざまな事業変革の取り組みを一段と加速するとともに、異業種連携やM&Aなど、柔軟な発想でさらなる打ち手に挑戦し、早期に新たな売上げを作っていかなければならない」とした。

 その一方で、「事業変革によって創出した新たな事業も、いずれは既存事業となり、成熟期を迎え、成長力が鈍化する。シャープが将来にわたって持続的に成長するためには、常に視野を広げ、新たな事業や新たな市場を創出し続けることが大切である。つまり、“永続的なトランスフォーメーション”の意識を持つことが大切だ」とした。

 もう1つは、「経営管理の強化」である。「過去3年間、経営管理を徹底的に強化すべく、さまざまな取り組みを推進してきた。だが、事業環境が予断を許さない状況下にあり、その重要性はさらに増している」と前置きし、「事業経営を行う上では、『顧客満足と当社利益を最大化する売価設定』、『価格競争力を高めるコストダウン』、『適正在庫を維持するPSIコントロール』の3つを必ず押さえるとともに、変化に機敏に対応しなければならない。先日、これを全事業本部長に再徹底した」と述べた。

 また、「管理という観点では、立てた計画を、具体的なアクションプランに落とし込み、その進捗をきめ細かくフォローすることが重要であり、事業本部、事業部、部門の各レイヤーにおいて、いま一度、管理面の強化を徹底してもらいたい」とする。

 そうした課題を提示しながらも、戴会長兼社長は、「『トランスフォーメーションの加速による成長力の強化』と『経営管理の強化』という2つの取り組みの観点から社内に目を向けると、すでにさまざまな好事例も生まれている」とした。

 ここであげた一例が、シャープエネルギーソリューション(SESJ)である。SESJでは、これまでの主力事業であった国内における住宅用および産業用太陽電池の機器売りから、国内外における太陽光発電システムの設計、調達、建設を担うEPC事業、自らが発電事業者となるIPP事業へと事業の軸足を移し、2018年度には黒字化を達成。足元でも引き続き業績が向上しているという。

 また、カメラモジュール事業本部の例も挙げてみせた。同事業本部では、新規顧客の開拓や新商材の創出、さらには既存製品の新たな用途展開、業界大手企業と連携した新市場への参入などを推進。「しっかりと事業変革に取り組み、着実に事業が拡大している」と評価した。

 さらに、堺ディスプレイプロダクト(SDP)の事例では、経費削減やコストダウン、固定費削減の取り組みのほか、販売管理や在庫管理、工場稼働率の詳細に至るまで、多岐にわたる項目を週次で管理。これによって、大幅な経営改善が進んでいるという。

 「各事業本部においても、こうした取り組みを加速してもらいたい。そのためには、まず、リーダーが目指す姿や、なすべきことを具体的に示すとともに、なんとしてもやり抜く強い決心を持たなくてはいけない」と強い言葉で呼びかけた。

今のシャープに大切なのは、“WHAT”と“HOW”の両立

 加えて、戴会長兼社長は、「今から2年前のメッセージでも話したが、今の私たちには、“WHAT”と“HOW”の両立が大切である。言い換えると、“創意”を持って新たなゴールを設定し、“誠意”を持ってゴールに向けた道筋を描き、実践していくことが重要である。しかし、当社をはじめとする日本の企業は“HOW”に偏りがちである。業界の主導権を握る上でも、リーダーが先頭に立ち、自身の“創意”をいかんなく発揮し、“WHAT”の創出に取り組んでもらいたい。また、高い目標に挑戦する際には、得てして『できない理由』を探してしまうが、それではなにも成し遂げられない。シャープの経営信条に“勇気は生き甲斐の源なり、進んで取り組め困難に”という一節がある。『できない理由より、できる方法を探す』という意識を高く持ち、直面する課題に積極果敢に挑戦し、乗り越えてこそ、大きな成果を掴むことができる」とした。

 そして「これらは、まさにシャープの原点そのものであり、経営理念、経営信条をしっかりと実践する真のリーダーが社内に増えてこそ、シャープが持続的に成長することが可能になる。皆さんのさらなる奮起を期待している」と語った。

 2つめにあげたテーマが、「8Kと言えばシャープ」である。9月6日から6日間にわたって、独ベルリンで開催された「IFA 2019」において、8Kが大きな注目を集めたことに触れながら、次のように語った。

 「8K市場は、2017年シャープが投入した世界初の8K対応テレビ『AQUOS 8K』で幕を開け、翌年のIFA 2018で韓国サムスンが8Kテレビへの本格参入を表明。さらに2019年1月のCES 2019では、韓国LG、ソニーに加え、複数の中国メーカーも8Kテレビを展示するなど、グローバルイベントを経るごとに8Kテレビを手掛ける企業が着実に増加してきた。

 そして、今回のIFA 2019は、2020年の東京オリンピックで8K放送が実施されることも見据え、多くの企業が8Kテレビの商品化やラインアップ拡大を発表するなど、いよいよ、8K時代が本格的に到来することを感じさせる内容だった」とし、「8Kのリーディングカンパニーであるシャープは、『8K+5G Ecosystem』をテーマに、8Kテレビの展示に留まらず、8K映像の撮影を行う『8Kカムコーダー』や『小型8Kビデオカメラ』、編集を可能とする『8K dynabook PC』、伝送の鍵を握る『5Gスマートフォン』、表示の用途を広げる世界最大級の『120型8K液晶ディスプレイ』や『120型相当(60型4K×4)8Kビデオウォール』の展示を行い、8K映像の撮影から、編集、伝送、表示までのバリューチェーンを、世界で初めて構築できることを広くアピールした」と報告。

 来場者からは「今年のIFAは、8Kが目白押しであったが、シャープは業界を数歩リードする立場にある」、「他を圧倒するリーダーシップを期待している」などの評価が出ていたことに触れた。そして、「まさに、『8Kと言えばシャープ』を強く印象づけることができた」としたほか、「今回のIFAでは、当初の想定を上回る新規受注を獲得することができ、商談会という観点でも成功を収めることができた。これを契機にさらなる販売拡大につなげたい」とした。

 だが、その一方で、こうも語る。「しかし、私たちの本当の挑戦はここからである。今回展示した8K関連機器を着実に立ち上げることはもとより、これらを核にさまざまな分野で他社との協業を進め、次々と新たなソリューションを創出していこう」と手綱を締めた。

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