トーラスは、不動産登記情報とビッグデータを掛け合わせて、不動産などの資産に関する問題を解決している。土地、建物、地図と図面などの不動産登記情報をライブラリ化し、売却見込み、ローン借り換え見込み、富裕層を発掘。空き家、空き地の物件情報なども取り扱う。
立ち上げたのは、金融機関での勤務経験を持つ木村幹夫氏。営業担当者として、顧客を開拓するなかで得た知識と経験が現在の仕事に結びついているという。不動産テック会社のなかでは数少ない“不動産登記”に着目したきっかけはなんだったのか。それを元にどんなビジネスを展開しているのかについて、代表取締役の木村氏に聞いた。
——以前は銀行に勤められていたとのことですが、不動産テックビジネスを始められたきっかけは。
銀行で働いている中で一番大変だったのが、富裕層の顧客開拓です。当時は日本で一番富裕層が多いとされる地域の1つを担当していたのですが、とにかくガードが固い。会うことすらままならない日が続きました。
金融商品は、差別化がしづらく誰が売っても同じです。にもかかわらず営業担当者の成績には大きなばらつきがある。同じ商品を売っているはずなのに、なぜ結果にこれほど違いが生まれるのか。違いは行動パターンだったんですね。そこに気づき、その後は成績の良い営業担当者の“追っかけ”をしました。複数の担当者の行動パターンを見ていると、共通項がでてきたんです。それが法務局だったんです。
——銀行の営業担当者と法務局は、少し意外な組み合わせですね。
成績の良い営業担当者ほど、法務局によく出向いているんですね。そこで何をやっているのかというと、登記簿謄本を見ているんです。その中には、不動産の情報が詰まっていて、銀行員が見れば、5年前に組んだローンの据え置き期間がもうすぐ終了するので、金利が上がるなとか、不動産の相続税が発生しそうだな、とか細かい事情がわかってきます。
ここまでわかると、同じ金融商品でもおすすめする内容が変わってきます。ただ資産を相続した後のお客様におすすめしても意味がなくて、事前の対策が大切です。登記簿情報は見る人が見れば、将来の資産形成を考える時に大変役立ち、それが後々に起こる相続などのトラブル回避にもつながります。そのため成績のよい銀行の営業担当者は、登記簿情報を見ながら魚群探知機のように、開拓する顧客を探し当てています。
——ご自身もこの行動パターンを真似したと。
愚直に真似しました。すると、あれだけ会えなかった富裕層の方と会って話すことができた。もちろん、これだけでいきなりホームランが出せるほど甘い世界ではありません。しかしどんどん1塁に出られるようになったのです。これは大きな変化でした。営業にとって、お客様と会えるようになるのは本質的なことです。話せさえすれば、銀行内にいるほかのエキスパートにお客様をつなげられますし、つなぎさえすれば、お客様の困りごとに対応できる引き出しは銀行にはたくさんあります。
その時学んだのは、困っている人の隣に立つのがいかに大事かということでした。それは理屈ではなくて、肌で感じました。当時は紙の時代でしたが、紙とペンでもかなりのインパクトがありました。これをIT化したらすごいサービスになると思い、始めたのがトーラスです。
——元は不動産業のためではなかったんですね。
原体験は銀行に勤めていたときですね。その後、不動産会社の方から、土地を手放す際に何かいい方法はないかと相談され、当時はそんな虫のいい話しはないからと断ったんですが、話しを聞いているうちに、登記簿謄本のことを思い出し、優良なデータがあるなと。それを使ってやってみたら、結果が出たので、不動産で活用するのが一番良いのかなと。
——2003年に起業されていますが、その当時のお話ですか。
起業から別のビジネスも手掛け、登記簿情報による不動産ビジネスを本格的にスタートしたのは10年ほど前です。いろいろなことをやる中で、興味が強く湧いたのが不動産登記だったこと、不動産テック企業は数多くありますが、このジャンルのライバルがいなかったことがこのビジネスを始めた理由ですね。
——今でこそ、同様のサービスもありますが、当時はありませんでしたよね。
全然なかったですね。今もあることはありますが、データサービスなので、データ量が命ですから、先行している強みはあります。
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