――テクノロジーがこれだけ進化していても、「農業機械の価格が上がると売れなくなるので、安全性より機動力が重視される」という方程式ができていることが、スマート農業の進化を阻んでいるように思います。どうしたら、農業生産者の意識を変えて農業機械をアップデートさせていけるでしょうか。
渡邊氏:現状、「農作業中の事故は作業者の自己責任」という価値観が浸透していて、いくら農業生産者たちに「事故防止のためにお金を使いなさい」と言ったところで、彼らの意識はすぐには変わらないでしょう。
安全性に最大限配慮された農業機械を浸透させるには、各種機械メーカーの事故防止機能搭載を法制化したうえで、機械メーカーとITメーカーが連携して性能をアップデートさせていくのがベストだと私は考えます。ただ現状は両社に隔たりがあり、そういった議論がされていないのではと予想しています。一度、機械メーカーの見解は聞いてみたいところです。
また、農業機械自体のアップデートに加えて、ビジネスモデルも進化させたいですね。私が1つ可能性を感じているのが「農機シェアサービス」です。そもそも収穫時期しか使わないコンバインのような高額の農業機械は、一家に一台ある必要はなく、シェアでも十分業務が回るはずです。
シェアすることでトータル的なコストが下げられますし、貸し出す前に農機シェアサービス提供企業がメンテナンスすることで、常に“きちんと動く”機械が使えるのは、農業生産者にとって大きなメリットです。基本的に農業機械は自動車の車検のように定期的にメンテナンスする習慣がなく、壊れる寸前まで使ってから修理に出すため、修理代が高くつく上に戻ってくるまでに時間を要し、さらにはビジネスチャンスを逃す原因にもなっています。
必要なときに確実に農業機械が使えるということは農業生産者の心理的ストレスを減らし、安全を担保することにもつながり、一石二鳥のサービスだと思います。
――シェアリングエコノミーの価値観はすでに世の中に浸透していますし、農機シェアは一度、実験してみる価値はありそうですね。
渡邊氏:ここ10年で農業は従事人口もスタイルも大きく変わりました。2017年から大量離農時代が到来し、70歳を迎え高齢となった農業生産者が次々と離農して、人手不足はより深刻さを増しています。そういった背景から、農業生産法人の一経営体当たりの平均経営耕地面積は10年前に比べて2倍近くに増えており、これまでと同じ経験と勘に頼った手法では通用しなくなってきている。農業機械も集約され大規模化になった農地に於いて、同じスペックのままでは、立ち行かなくなるでしょう。
下村氏:農業人口の激減に異常気象も加わり、農作物の品質を維持することも難しくなってきています。農業生産者が100年後もおいしい野菜やお米を作り続けるために、今求められているのはスマート農業の進化と浸透で、弊社のようなスマート農業関連企業に課せられた使命は大きいと感じています。
渡邊氏:スマート農業関連企業、機械メーカー、そして我々のようなスマート農業コンサルタントがお互いのスキルや知恵を出し合い、安全で効率的な農業スタイルを確立させていきましょう。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)