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なぜ、農業は“死亡事故”が圧倒的に多いのか--未然に防ぐ「スマート農業」の可能性

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 農林水産省の発表によると、2017年の農作業事故死亡者数は304人にのぼる。この数字を農業就業者10万人当たりに換算すると死亡者数は16.7人となり、過去最多の数値となった。この数値は他産業と比較しても異常なまでに多いが、世間一般にはあまり知られていない事実だ。

 そこで今回は、「農作業事故の原因と解決策」について探ってみたい。なぜ、農業では”安全”が置き去りにされたままなのか。農作業事故を防止するには、どのようなテクノロジーや農業スタイルが求められるのかーー。


右から、日本農業情報システム協会(JAISA)代表理事/スマートアグリコンサルタンツ CEOの渡邊智之氏、笑農和の代表である下村豪徳氏

 日本農業情報システム協会(JAISA)代表理事/スマートアグリコンサルタンツ CEOの渡邊智之氏と、水田の水管理を自動化するスマート水田サービス「paditch(パディッチ)」を販売する笑農和の代表である下村豪徳氏に話を聞いた。

農作業事故のうち「機械作業事故」が約7割

――農林水産省のデータによれば、産業別の死亡事故は農業が圧倒的に1位となっています。現場では、実際にどのような事故が起こっているのでしょうか。

渡邊氏:農作業事故の内訳も農林水産省が公表していて、以下の通りとなっています。

  • 機械作業に関わる事故 69%
  • 施設作業に関わる事故 4%
  • 機械/施設以外の作業に係る事故 26%

 機械作業時の事故がダントツで多く、例えば、稲や麦を刈るコンバインの目詰まりを回避しようと手を伸ばして手が巻き込まれてしまったとか、農業機械の運転中に誤って転倒したとか、野菜などの裁断機で自分の指も一緒に切断してしまったとか、そのような話はよく聞かれます。機械故障より人的ミスで起こる事故が一般的だと思います。

農林水産省 平成 29 年に発生した農作業死亡事故の概要より
農林水産省 平成29年に発生した農作業死亡事故の概要より

下村氏:弊社は富山にあるのですが、富山は用水路が多くあるので、悪天候や夜間時の農作業中に用水路に転落したという話も多いですね。

――こういった事故が頻繁に起こってしまう原因は、どこにあると思われますか。

渡邊氏:農作業現場で事故が起こる原因は、主に3つあります。まず、1人で作業していて緊急事態に気づかれないこと。田舎で人通りが少ないため、事故が起こったり熱中症などで倒れたりしても長時間気づかれず、発見されたときには手遅れに……ということが往々にして起こります。

 2つ目は、農業機械の多くは「安全対策」が二の次になっていること。現状の農業機械は安全より、機動性や充実した機能が優先されています。理由は単純で、「安全システムを導入して価格が上がると売れなくなるから」です。3つ目は農業生産者自身に「安全」に対する危機感が薄いこと。現時点ではまだ法人が少なく個人経営がほとんどなので、「自分を含めた従業員の安全を守る」という異業種では当たり前の発想が欠けているところがあります。

下村氏:コンバインなどの取扱説明書に「機械のメンテナンスをする際は必ずエンジンを切ってください」という一文は書かれているはずですが、それが農業生産者に浸透していないですよね。農業では時間勝負のシーンが多々あり、例えば雨が降れば収穫できなくなるので「時間内に終わらせなければ」という精神的な焦りから、エンジンを付けたまま機械に手を突っ込んだりすることがあるのかもしれません。

笑農和の代表である下村豪徳氏

渡邊氏:意識改革が難しいのであれば、規制してしまうのが早いですよね。自動車のエアバックのように、危険回避装置が付いていない機械は販売してはいけないとか。

――農作業中にこれだけの事故が起こっている事実は、農業生産者たちの耳には届いているのでしょうか。

下村氏:先日、たまたま富山新聞に、コンバインでの稲刈り中に機械に巻き込まれ重症を負った女性の記事が出ていましたが、基本的に大きく報道されることはまれです。よほど意識していない限り情報は届きませんし、農業生産者同士で情報共有する文化も少ないですね。

渡邊氏:(情報を)目にすることがあったとしても、人的ミスが原因であることが多いので、「自分は大丈夫」だと過信してしまっている人が多い印象があります。

農作業事故を防止するテクノロジーでの打開策は

――笑農和では「農作業事故の防止に役立つ」として、水田での水管理を自動化できるスマート水田サービス「paditch」を展開していますが、どのようなシーンで事故防止に役立つのでしょうか。

下村氏:paditchは、これまで農業生産者が手動で行ってきた水管理をIoT技術により遠隔で操作可能にしたサービスです。水門にpaditchを設置することで、スマートフォンやPCで水門を自動開閉でき、異常があればアラートで知らせます。例えば台風などの悪天候時や足元が暗い夜間に水田に足を運ぶ必要がなくなるので、効率化はもちろん、事故の可能性をグッと減らすことが可能です。

笑農和が開発・販売する水管理サービス「paditch」
笑農和が開発・販売する水管理サービス「paditch」

 用水路での事故の多くは、台風や暗がりなどの環境要因が深く関係しているので、何よりもその場に行かない判断ができる状態を作っておくことが重要なんです。

――確かに、台風時に田んぼの様子を見に行って亡くなられた方のニュースを目にしたことがあります。身の危険を犯してまで水田を見に行ってしまうのは、なぜでしょうか。

下村氏:おそらく理性的な判断ができない状態になっているからでしょうね。「もし、すべての稲が水没してしまったら…」と想像したら、居ても立ってもいられなくなってしまう。

――なるほど。テクノロジーの活用が農業生産者の意識改革にもつながる可能性が高いのですね。そのほかに、テクノロジーを活用して事故防止に役立てている事例はありますか。

渡邊氏:農業機械と同じく、テクノロジーも安全性より“機動力”をウリにしたサービスが現時点では多いので、あったとしても目立っている印象はありません。ですが、現存する最先端のテクノロジーを使えば十分に事故を防止できるはずです。

 例えば、農業機械の回転数や連続使用時間などのデータをリアルタイムで検知して、目詰まりを起こす前のタイミングで「メンテナンスが必要です」とアラートを出せるようにすると、エンジンをかけたままの状態で農機に手を突っ込んでしまうことを回避できると思います。農業生産者が反射的に手を入れてしまうのは、「今詰まって壊れたら作業が遅れて困る」という焦りが原因なので。

 また、急な貧血や熱中症で倒れてしまった際の対策として、作業者にセンサーを付けておき、パタッと倒れるなど日常的な動きと明らかに異なる動きをしたときにアラームを飛ばすことで、手遅れになる事態を減らせると思います。

 これは自動車運転時の事故防止でも使われている技術で、例えば国交省補助制度対象機種の「ドライブリズムマスター」は、運転席にセンサーを取り付けてドライバーの脈動の音や体の振動で疲労や眠気を察知します。このような技術は農作業現場でも活用できますよね。

下村氏:異常を感知して通達を飛ばす際、ハブになるようなIoT機器が必要になると思いますが、paditchがその役目を果たすことも可能です。また、paditchをドローンと連携させて水田の様子をリアルタイムで監視できるようにするなど、今後、他社の機械とも連携して、さらなる事故防止対策を検討していきたいと考えています。

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