火星ミッションで宇宙飛行士の健康をどう保つか--宇宙医学のテクノロジー

Jo Best (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部2019年08月31日 07時30分

 アポロ11号で人類が月に降りたってからちょうど50年が経つ。そして(ついに)世界の宇宙関連機関は今、新たな野心的目標に照準を合わせている。次世代宇宙飛行士の誰かが人類として初めて火星に立つ可能性は非常に高い。

 だが、そうだとしても、やるべきことがまだたくさんある。火星への着陸に成功するには、全く新しい数々の課題の克服が必要だ。

 欧州宇宙機関(ESA)の構造・機構・材料部門の責任者であるTommaso Ghidini氏は、「われわれ人類は宇宙で生活するようにはできていない。宇宙はわれわれにとって、まだ敵対的な環境だ」と語った。

 月までの旅は数日だが、火星に到達するには数カ月、あるいは数年かかる。無重力環境、孤独と孤立、従来の医療では対処できない危険な環境などが相まって、火星への旅は危険に満ちたものとなる。

 まず、宇宙飛行士は火星に向かう間、地球の大気圏外への旅にはつきものの、強い宇宙放射線に対処しなければならない。ESAのExoMars Trace Gas Orbiterによると、火星に行く宇宙飛行士はたった1度の旅で、人間が一生のうちに許容できる総放射線量の60%を浴びるという。これは、国際宇宙ステーション(ISS)までの旅より多く、同じ時間を地球で過ごす場合の数百倍に当たる。放射線被ばくは多様ながん、特に白血病の発症に繋がるため、将来の火星ミッションでは、宇宙飛行士がさらされる発がん物質のレベルを削減する新しい方法の開発が求められる。

 Ghidini氏によると、その解決法は、ある洗練されたエンジニアリングだという。水素含有物質は放射線からの保護に優れていることが証明されている。つまり、水が火星に向かう宇宙船の保護レイヤーとして使えるということだ。だが、水は重くかさ張り、宇宙に運ぶにはコストがかかる。

 そこでESAは、宇宙飛行士の飲用水や推進剤など、既に船内に積むことになっている液体を利用する計画だ。そうした液体を、宇宙飛行士の睡眠スペースの周囲に貯蔵する。こうすることで、宇宙飛行士が最も長い時間過ごす空間は、最善の放射線レベルに保てる。「こうすれば、いずれにしても運搬しなければならない水が、宇宙飛行士を守るという崇高な役割も担う」とGhidini氏は語る。

 体内の造血器官周辺に液体を集中させる液送チューブ付き宇宙服も、放射線被ばく軽減のために採用されるだろう。この宇宙服は、既にISSでテスト中だ。

 宇宙および火星での長期的な重力欠如も問題だ。骨の形成にはある程度の負荷が必要だ。骨の衰えを阻止するには、(自分の体重を支えるだけにしても)定期的な体重負荷運動が欠かせない。宇宙は無重力に近いので、宇宙飛行士の骨にはほとんど負荷がかからず、そのため骨がもろく、骨折しやすい骨粗鬆症になる恐れがある。

 骨粗鬆症は地球上でも一般的だが、宇宙の無重力は宇宙飛行士の骨に新たな問題を引き起こす可能性がある。骨は、地球上では折れるが、宇宙では砕けてしまう危険がある。宇宙飛行士は修復できない骨を交換しなければならない。

 Ghidini氏は、3Dバイオプリンティングがこの問題解決の糸口になると語る。この方法で、宇宙船内あるいは惑星上で、人間の皮膚、骨、臓器すらオンデマンドで出力できるかもしれない。

 オンデマンドで交換用の骨や臓器を出力できるようになっても、それを宇宙船内で手術して交換するスキルがなければ意味がない。

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