「ひとたびミッションを開始したら、中止はできない。医学的な問題があれば、帰還できない。宇宙飛行士を治療できなければならない」(Ghidini氏)
地球上にいる外科医がロボット手術装置を遠隔操作することが、宇宙船内の医療的な緊急事態の理想的な解決策にみえるが、地球から火星に通信が届くには、40分のタイムラグがある。遠隔医療に必要なほぼリアルタイムの遅延にはほど遠い。
その代わりに、火星ミッションのメンバーの1人を外科医にすればいい。緊急事態が発生したら、地球上の医療専門家チームが、患者である宇宙飛行士のシミュレーションを構築し、外科医でもある宇宙飛行士は、このシミュレーションと拡張現実(AR)ヘッドセットを使って、実際の手術を行える自信がつくまで練習すればいい。
火星ミッションを脅かす健康問題はフィジカルなものだけではない。何年もの間、一握りの同じメンバーで何もない宇宙に浮かぶ小さな箱に閉じ込められるのは、誰にとっても負担になる。
宇宙飛行士のメンタルヘルスを良好な状態に保つことは、ESAの研究者にとってもう1つの優先事項だ。ISSでは既に、「CIMON」という名のAI搭載ロボットがメンタルヘルスの取り組みで成果を上げている。CIMONは将来、宇宙飛行士の気分をモニタリングし、改善するために使えるようになるだろう。
宇宙飛行士を楽しませ続けることも、メンタルヘルスを維持する方法の1つだ。Ghidini氏によると、食べ物が宇宙飛行士の気晴らしになるという。
「食事は、単なる栄養摂取ではなく、イベント的なものである必要がある。より社会的で、文化的なものだ。仲間と一緒に創造性を発揮し、リラックスできるイベントだ」(Ghidini氏)
つまり、料理のことだ。宇宙飛行士は、3Dプリンタで食べ物らしい食べ物を出力することで、延々と続く袋詰めの乾燥食品の摂取を中断できる。Ghidini氏のチームは既にピザを3Dプリンタで出力し、単調な宇宙食に変化をもたらすことに成功している。
宇宙開発競争の過程で開発された技術の一部は現在、一般的に使われている。例えば、シャトルで物質の構造をテストするために使われていたCTスキャナーは、今では世界中の病院で採用されている。また、汚水浄化のために世界中で使われているフィルターは、宇宙飛行士の尿を再利用するために開発されたフィルターから着想を得たものだ。
Ghidini氏は将来の火星ミッションのために開発されるテクノロジーが、最終的には地球上の人々の状況改善に利用できるようになることを望んでいる。そして、それらの次世代テクノロジーはより環境に優しいものでなければならない。
「火星へは敬意を持って訪問し、人類が地球に対して犯してしまった過ちを避けたい。火星では大規模なリサイクルを行いたい。いずれにしても、それしか方法がない。すべての道具をリサイクルし、置かれた状況で見つけた資源を使う必要がある。そしてそれは、われわれが地球に持ち帰るべきもう1つの知識だ」(Ghidini氏)
おそらく、人類は宇宙旅行によって、地球に対するより良い観点を得ることになるだろう。
「われわれが火星を目指すのは、何よりも地球をより強く守りたいからだ。火星はかつては地球のような惑星だったが、なぜか急激に老化し、今日のような二酸化炭素に覆われた冷たい砂漠になってしまった。われわれは火星に何が起きたのかを知りたい。同じことが地球に起きるのを避けるために」
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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