“サ終”のDeNA「ハッカドール」歴代キーマン5人に聞く--5年間の戦いと今思うこと - (page 3)

アプリプラットフォームとの調整やキュレーションサービスの風当たり

ーー岩朝さんがチームを離れてから、後を引き継いだのが嶋田さんで、広告施策なども展開し始めました。

岡村氏 :嶋田が中心となっていましたが、技術畑の人間なので、ビジネス面は寺嶋がサポートするという形になりました。

寺嶋氏 :当時は嶋田と広瀬さん(※開発の最初期から携わっていたエンジニアで、美少女ゲームを2000本プレイしたという美少女スペシャリストの広瀬裕規氏。現在はDeNAから離れている)と3人で、今後ハッカドールをどうしていくのか、会議室にこもってよく話をしていました。

 今でも覚えているのは、広瀬さんが役員に対してプレゼンをしたとき、ニュースだけではなく、いろんな機能を入れてオタクが楽しめるようなアプリにしたいという話をしていたんです。でも、それならばアプリを分けたほうがいいという指摘もあったのですけれど、広瀬さんが「絶対に行けます!」とひたすら主張していたんです。その勢いに、僕らも勇気づけられました。

嶋田氏 :最終的にはニュース機能に絞ったほうがいいという話にはなりました。そもそも現実問題として、複数のアプリを開発・運営していけるような体力もチーム体制もなかったですから。

寺嶋氏 :いろいろやりたかったことはありました。アニメやウェブマンガの情報が見たいというところで、アニメリストやWebマンガリストを入れていきましたけど、複数のアプリを展開する余力はなかったです。

ーー嶋田さんと寺嶋さんの時期で、思い出されることはありますか。

嶋田氏 :アプリプラットフォームとの調整は、いろいろとありました……。特に好評だったWebマンガリストについて、iOS版で外さなければいけなかったのは、もうどうしようもなかったです。普通のニュースでも、デジタルコンテンツのダウンロードリンクが入っているだけで指摘されることもありました。

寺嶋氏 :あとは、ひとつの例ですけど、成人向けゲームのキャラクターグッズというところで、グッズ自体に成人向け要素があるとは限らないですし、全年齢対象で一般販売されているものでも指摘が入ったりして。あとフィギュアの画像についても、指摘されることが多かったですね……。

岡村氏 :文化の説明は、歴代通して苦労されていた印象があります。

嶋田氏 :カルチャーの違いは、特に水着と肌の露出面積あたりですね。どういうルールになっているのかが明示されていなくて、審査する人の感覚にもよるところがあるのも難しかったところです。

岡村氏 :好評だった機能を外さざるを得ない状況だったり、あとはキュレーションする記事についても、関心度が強いのは、いわゆるスレスレのものだったりもするのですが、記事としての清潔感を出すために自粛したりして。それでサービス自体が小さくなっていった時期がありました。

嶋田氏 :キュレーションサービスの存在に対して、世間の目が厳しくなって、DeNAとしても自主的な規制が入る状況になったこともしんどかったです。ハッカドールも同じようなものではないかという意見があって。なので、全部精査をして、よりクリーンにしていくことに追われていました。どんなサービスでも広がっていくとそういう時期があると思うのですけど、大変でしたね。

岡村氏 :キュレーションサービスでご迷惑をおかけした出来事があって、ハッカドールは性質が違うものなのですけど、キュレーションサービスというひとくくりで問い合わせをいただくことが多かったです。理屈ではなく感情に対しての問い合わせに、どのように対応していくかで苦労していました。押し通すわけにもいかなかったので、自粛するように、涙をのんで下げることも多かったですね。

寺嶋氏 :サービスを使っている方はわかってくれても、そうでなければ「同じなんじゃないの?」と思われてしまうのは否定できないです。それで、ユーザーのみなさんに届けたい記事を届けられなくなったこともあって、このあたりは葛藤がありました。

情報を知るニーズの変化とハッカドールのプロダクトが合わない状況

ーーそういう状況で荒巻さんが引き継がれたのですけど、当時どのようなことを考えていましたか。

荒巻氏 :それまで寺嶋がコラボ展開を積極的にやってましたし、その流れを踏襲して再度ユーザーを増やしていこうという考えはありました。ただ、いろいろとやってみて思ったのは、ユーザーのニュースのとらえ方が変わってきていることに気が付いたんです。ハッカドールは好みに応じて情報を提供するのですが、やはり1時間ぐらい前の情報になるんです。でも今はTwitterの投稿やリプライなどで、即時に知ってしまう状況があると。

 アニメリストを改良して感想が書けるようにするなど、機能改良を試みたのですけど、ハッカドールをダウンロードしたいと思えるところまではいかなかったんです。情報を知るというニーズと、ハッカドールのプロダクトが合わなくなってきていると感じたんです。

 アニメファンにライト層は増えているし、アニメもTwitterで話題になってから見るという方も多いのです。でも、そのニーズをとらえようとすると、結局「Twitterでいいよね」という話しになってしまいます。やれる策も少なくなってきているところもあって、どうしたらいいかを考える日々でした。

2018年に行ったアニメリストのリニューアル
2018年に行ったアニメリストのリニューアル

嶋田氏 :ニュースを見るということ自体が薄くなってきているところがありますね。

岩朝氏 :Twitterのアプリ自体に、ニュースなどの話題を提供するタブみたいなものができるとは思わなかったです。

嶋田氏 :寺嶋とハッカドールのサービスを見つめなおす時期があって、競合を考えたときに、やはりTwitterだよねという結論はでていて。でも真っ向勝負をして勝算があるかと言われれば、ないに等しいと。

寺嶋氏 :だからこそアニメリストなどを実装したんです。

岩朝氏 :5年続けていると、時代の変化とネットサービスにおけるニーズの変化に遭遇することもあるわけで、そのなかでハッカドールはしぶとく戦い続けて、ファイティングポーズを崩さなかったと。DeNAでもコンテンツ愛とサービス愛があるメンバーがいて、ハッカドールがしぶとく戦い続けていたのは、離れた場所から見ていると、プラスでポジティブなことなのかなと思います。

 一方で、今は事業戦略などを見る立場なのですけど、テクノロジーの企業として考えると、サービスとコンテンツにとらわれすぎるのもよくないと感じるときもあります。ハッカドールは、あふれるようにある情報を一定のタイミングでユーザーにアグリゲーションするロジックの塊なんですよね。対象はオタクジャンルには特化していますけど。これを抽象化したテクノロジーとして捉えてみると、求められているものもあります。例えば、フリマサービスやチケットサイトのように、再訪のたびに好みの商品や情報などが表示されるような使われ方とか。

嶋田氏 :今のオークションサイトやフリマサービスでは、おおむねこのロジックを活用したテクノロジーは入ってます。ニーズがある技術であるのは間違いないので、ハッカドールは少し早かったかもしれないですね。

岩朝氏 :コンテンツ愛とサービス愛があることはいいけど、ふと横で見ると違う活用のされかたもできたかもしれません。

嶋田氏 :転用自体はできると思いますけど、それを活用した違うジャンルのサービスをやりたいかどうか、そのビジネスプランを考えられる人がいればの話ですね。

ーー振り返ると、ハッカドールはオタク向けのニュースアプリとして独自のポジションを築いたようにも思います。

岩朝氏 :テクノロジーカンパニーとしてのDeNAと、サービスカンパニーとしてのDeNA、コンテンツ愛の塊としてのDeNAの、いろんな要素が表れていると思いますね。ニーズをとらえていた技術でしたし、いいサービスだった思います。

嶋田氏 :似たようなサービスを他社や個人が作る場合、技術面もそうですけど、他社他人のコンテンツを扱っているので、法律まわりをクリアできるかというのも敷居は高いかと思いますし、あまり例のないサービスとして確立できたところはあります。

ーー荒巻さんに話を戻しますが、ユーザー向け施策としては、ハッカドールをVTuberとして展開する試みもしました。

荒巻氏 :VTuberが盛り上がりを見せているなかで「ハッカドールは、VTuberになるべきキャラ」というネットでの意見を見かけたんです。アプリの盛り上がりにつながればと思っていたのですけど、アプリユーザー増加への寄与は薄かったのも本音です。

 ただ、今までアニメなどで苦労して作ってきたハッカドールたちを、およそ2年ぶりぐらいに、動いているハッカドールとしてお見せすることことができたんです。やっぱり面白いと感じてもらえたり、新しくキャラクターとしてのハッカドールに関心を持つファンを増やすことはできたので、それ自体は良かったですね。

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